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天使と竹民芸品(弓)

商品名そのままなのでサブタイトルがすごいことに……


レオンは幼なじみの少女、ミィの手を引いて走っていた。


彼らは天族。俗に天使と呼ばれる。

その所以は彼らの 背中の白い羽と透き通るような白い肌という容姿(みため)。それと、病や傷を癒す歌声(ちゆまほう)にあった。


「ねえ。まだこの目隠しはとってはいけないの?」


ミィがさえずるような声で問う。

現在、ミィの可愛い(かんばせ)にある二つの大きな目は、白い布に覆われている。

レオンが彼女に目隠しをするように頼んだためである。というのもレオンはミィを驚かせたかったのだ。今から行く場所、『たかはし』を見せて。

ミィを驚かせて自分に興味を持って貰おうという意志がレオンにあったのかは不明であるが……。


「あと少しで着くからもうちょっとだけつけてて」


レオンはミィの手を引きながら言う。

ミィは「わかった」とうなずいた。しかしミィの羽がピクピクと忙しなく動いているところを見ると、しぶしぶながら納得した、というところだろうか。

そんなことを考えながら道を曲がり、細い路地へ入る。

(ここだ)

先日来たばかりの店、『たかはし』を見つけてレオンは足を止めた。


「着いたよ。はい」


言葉とともにミィの目隠しを外す。

いきなり眩しくなったためか、ミィの羽がバサリと動く。

慌ててレオンはミィを押さえた。このままではミィが浮いてしまう。

まだ幼いとはいえ天族の二人は飛ぶことができる。だが幼いために制御が不完全なのだ。飛べばすぐに落ちてしまう。


「ここなの?」


不安げにミィがきいた。羽もそれを表すように垂れている。

しかしそれも当然と言える。

天族は霞を食して生きる民である。そんな彼らにとって人間の食べる食物は毒ともなるのだ。

その食物の匂いがこの店からはぷんぷんと匂っていた。


「そうだよ。大丈夫、危ないことは何もないから、ね?」


尚も不安げなミィであったが、レオンは彼女が不安に思うことなど一つもないと考えていた。別に人間の食べ物を食そうなどという発想は皆無だったのだから。


「う、うん……」


それに気づいたのかはわからぬが、ミィがレオンの台詞におずおずと首を振る。

レオンはそれを見ると顔を綻ばせて「入ろうか」と店に入っていった。ミィもそれに続くように店の敷居を跨いだ。

中は人間の食べ物の匂いがいっそう強く、ミィは口を押さえる。けれどレオンが何とも感じていないのを見ると、そこまで警戒する必要はないのかもしれないと考え直し、そっと手を口から離した。


「ねえレオン。ここは何のお店なの?」


その質問にレオンは待ってましたと言わんばかりの勢いで答える。


「ここは『ダガシヤ』って言うんだ!」

「『ダガシヤ』?」


こてんと首をかしげるミィの愛らしさにレオンは赤面した。

「『ダガシヤ』ってどういう物を売っているのかしら?」というミィの言葉で我に返る。


「『ダガシヤ』にはね、弓が売っているんだ」

「弓?」


ミィは目を丸くした。

このような小さな店に弓が売っているとは思わなかったのだ。弓は高価な物で武器屋にしか売っていないとばかり考えていたから。


「本当に弓が売っているの?」


信じられずにミィが聞き返すと「そうだよ」とレオンが返す。


さて、天族は歌声の他にもう一つ、特技を持っていた。弓である。普通の人間より五感の優れた彼らは遠くの的を把握することも可能だからだ。

だが弓を扱えるのは成人の儀を終えた者だけ。十五の成人の儀までまだ五年以上ある二人はまだ弓を触ることができない。

それだからこそ憧れがあった。すでに成人の儀を終えた兄や姉と慕う者達の射を自分にも真似できたなら、と。


「なあ、ミィは今お小遣いいくら持ってる?」

「銅貨三十枚よ」


天族が通貨を使用することはほとんどない。そのため月に貰う少量の小遣いが貯まって行くのでミィは子どもにしては大金を持っていた。


「じゃあ足りるね」


「足りる?」とキョトンとした顔をミィが見せると、その時ちょうど奥から一人の老婆が現れた。

老婆は二人に声をかけることもせず二人の横のカウンターに座る。


「レオン。あの人は?」

「お店の人だよ。あの人に品物を持っていってお金と交換して貰うんだ」


慣れたように言うレオンに感心した視線を送るミィ。レオンは誇らしげに胸を張った。


「ところで弓はどこにあるのかしら?」

「こ、こっちだよ」


前に来たときと置き場が変わっていないことを祈りながらレオンはミィを案内する。


(よかった。弓、ある)


幸い弓の置き場は変わっていなかったようで、すぐに見つけることができた。

ほっと胸をなでおろすレオン。


「ほら、これだよ」


指を指して教えれば、ミィは「ずいぶん小さいのね」と言いながらしげしげと弓を眺めている。


「僕らにはちょうどいいだろう?」

「そうね。でも本当にお金、足りるの?」

「もちろん。見ててよ」


レオンはひょいと弓を一つ持つと老婆の元へ行きカウンターに置いた。老婆は「600円。銅貨六枚だよ」と弓をちらりと見ただけで言う。レオンはポケットから銅貨を六枚取り出すと、カウンターに置き、弓を手にしてミィのもとに戻っていった。


「な? 買えただろう?」


ミィの目の前に弓を掲げるレオン。


「ほら、ミィも行ってみなよ」

「う、うん」


どぎまぎした様子でカウンターに歩いていくミィ。しかし両手両足が同時に出ている。


「ミィ。歩き方変だよ」

「え、あ……」


あせあせと普通の歩き方に直したミィは緊張した面持ちでカウンターの前に立つ。そして「お願いします」とカウンターに弓を置いた。

「銅貨六枚ね」


ミィは腰に括り付けた麻袋から銅貨を出して、震えながらも老婆の手に銅貨をぴったり六枚のせる。



「まいど」


という老婆の声を聞くとミィは走ってレオンの元へ戻った。手にはしっかりと弓の入った袋を握りしめて。


「お帰り」

「ふふふっ。買えたわ、よかったぁ」


いまだ興奮しているのか頬が紅潮しているミィ。レオンは「役得だな」と感じたが口には出さない。


「他にも何か買う?」

「日が暮れる前に弓を打ってみたいからいいわ。もう帰りましょう。レオンはいいのよね?」

「うん」


レオンとしてはミィと一緒ならば何でもいい、というのが本音にあったがこれもやはり口には出さなかった。


レオンは無言でミィの手を握ると店を出る。



大通りに出たところでミィが無邪気に笑って言った。


「弓、たくさん練習して一番上手くなって見せるわ。そしたらレオンを守ってあげる」


それに対し少し意地悪な微笑を浮かべてレオンは返す。


「ミィは一番にはなれないよ」

「あら、意地悪を言うのね」


ぷくうと頬をリスのように膨らませてミィが怒った。それでも大人ぶりたいのかツンと澄ましていたのがおかしくてレオンはくすくすと笑う。


「だって一番は僕だもん。

……それで、あの、そうしたらずっと……その……一生、僕がミィを守るから」


しばしの間の後、言葉の意味を理解したミィは首まで真っ赤に染まった。言葉を発したレオンも同じような状態である。


いつの間にか落ちかけた日は、二人の頬の色に染まっていた。


途中から文章もおかしくなっていく……

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