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ドラゴンとカツ

「うりゃあ!」

ゲイルが長い尾を一振りしただけで、なぎ倒される人間。


ゲイルは竜人、ドラゴンと呼ばれる人種である。鋭い爪に牙のある人型だが不気味な姿は見ただけでも恐ろしく、また行動も力を使った犯罪まがいのモノである。今日は肉屋を襲い、このような事態になったのだ。

(大人しくしてりゃあいいものを)

舌打ちすればまだ意識の残る人間達は我先にと逃げ出す。

ゲイルもそこに留まる理由もなく、そこを立ち去ろうと彼らに背中を向けた。

だがその油断が悪かったようだ。


「化け物ぉ! 覚悟しろ」


頭に大きな刀を振り下ろされ、ドラゴンであるために丈夫なゲイルでも、ダメージを受ける。


「チッ……」


痛みを感じたそのすきに戦利品(ぬすんだもの)を取り返された。再び盗ろうとしたのだが、なにぶん怪我が頭であったために、立ち直るのに時間がかかってしまう。


(くそったれ)


この状態で再び盗ることはできない。そう判断したゲイルは不本意ながら逃げることにする。


(俺が人間ごときに……)


そんなプライドもあったが、感情により理性を失うのは愚者のすること、とわかっているために自分のプライドを無視したのだ。


幸い人間も追ってくることはせず、先ほどよりもさらに狭い路地に入ったところでふぅっと息をつく。


(今日、どうすっかな)


街にいるドラゴンは基本的に職に就くことはない。

そもそも街にいるドラゴン自体が少なく、ほとんどのドラゴンは山奥の集落で自給自足の生活を行っている。


さて、では街のドラゴンはどのように生活するのか。傭兵をすることもあるが、一番多いのは強盗である。

ゲイルも後者で生活するドラゴンであった。


その日その日に食べるものを盗み食す。

金を全く持たぬ訳でもないが、使うことはほぼ皆無であると言える。それにこの街ではすでに面が割れている。

つまり何かを買うこともできない、という訳だ。


(大通りは無理だろうなァ)


大通りは無理。

これは何かを買うことができないということを意味する。

ほとんどの店は大通りに面するためである。


ふと、視線を上に向ける。

何かを見つけたわけではなく、ゲイルが考えごとをする時の癖だ。それが今回は功を奏した。


(なんだ、アレ)


視線の先には一件のこぢんまりとした店。

看板に書かれた文字はこの国の言葉ではないのか読むことができない。けれど店からは食い物の匂いがした。

人間では感知できないが人間より優れたドラゴンの嗅覚はそれを確実に感じ取っていた。

ゲイルはその店へと足を進める。


「ここ、何の店だァ?」


扉のない店へ入ると一人の老婆が目に入る。


「書いてあるじゃないか、『駄菓子屋 たかはし』ってねぇ」


老婆は何を聞くのだ、とでも言いたげにため息。ゲイルは老婆の態度に、ここは店なのだろうか、と訝しく思う。


「ここは店なんだな?」

「駄菓子屋なんだから店に決まってるさね」


ゲイルの問いに、またもや店員とは思えぬ態度。しかし店であるという事実だけで十分だった。


「なら肉を出せ」

「出せも何もここは駄菓子屋だよ」

「肉を……」

「自分で選びんさい」


二人(一人と一匹?)が言い争っていると、店の奥から老齢の男が出てくる。


「なにがあったんだ?」


そうきく彼の登場にゲイルは軽く安堵する。このままではらちがあかない。


「それがね、肉が欲しいんだってさ」

「肉か?」

「そうだよ。駄菓子屋に肉を出せったってね」

「肉、か」


考え込む老齢の男。ゲイルはイライラとしつつも冷静であることに努めた。ここで怒りを爆発させれば本当に飯は抜きとなってしまう。


「それで、肉はあるのか?」


ぶっきらぼうに言い捨てると、老齢の男が少し待て、と促してきた。

あてがあるのだ。そうわかっただけで顔が緩む。


「これはどうだ?」


店の奥から戻った男に渡されたのは端がギザギザとした袋。

(この中に肉が入っているのか?)

ちらっと男を見れば「開けてみな」の一言。

うまく開かず、半ば力任せに袋を破ると中からこんがりとした焼き色に少し茶色の混じった薄いシートのようなものが出てきた。


(何の肉だ?)


自分がおちょくられたのではないかと二人を睨むが、彼らから悪意が微塵も感じられないことからおそるおそる一口囓った。


(歯ごたえは意外とある、か。……甘い。いや辛い?)

その一口に様々な感想が頭をめぐる。甘い、辛い、塩っぱい。色々だが一括すれば『うまい』だ。


「なんだ、これ」

「『カツ』だ。うまいだろう」


『かつ』

脳内で反芻する。シンプルなネーミングはこの様々な旨みが詰まった肉にぴったりのように思えた。


「いくらだ?」

もう一枚くらいは買えるだろうか、と考える。

足りない、ということもあるかもしれない。あってほしくないが。


「30円だから、小銅貨三枚だ」

「うそだろ!?」


思わず素っ頓狂な声をあげるたゲイル。それほどに信じがたい値であった。

少なくとも銅貨三枚は堅いと思っていたのだ。なのにもかかわらず十分の一の値だ。


小銅貨三枚を小さな麻袋から取り出す。麻袋にはまだ銅貨が十枚程度残っていた。その内三枚を取り出して男に渡す。


「これが今の食った分。それと『かつ』十枚。くれ」

「まいど」


男は銅貨を受け取ると『かつ』を持ってくる。

何枚なのか正確にはわからないがおそらく十枚だろう。


「一週間後にまた開くからな」

とゲイルに『かつ』を手渡しつつ言う男。


「一週間後?」

「ああ。他の日は開いてないからな」

「わかった」


ゲイルは残念だと思いつつ返事をし、そのまま店をあとにする。


(明日からどっかで働くか)

と考えて。


書いてから気づいた。あれ、駄菓子屋ってお金払ってから食べるよね?

そこは物語なのでご愛嬌。

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