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ハンスという男1

ハンスという人物を言葉で説明するのは、とてもむつかしい。強いて挙げれば、こんな感じだろうか。


まず言動や行動が、破天荒というか型破りというか、常識というものがない。昼間から酒は飲むし、煎じ薬の人体実験はするし、新しく作った剣を試すために盗賊をわざわざ襲ったり…


それは、私と出会ってからも全く変わらなかった。



「さてと。次はどう移動するかだが…」


そんな風にハンスは言った。


「俺がこれから行こうとしているのはアンハイム。道なりに行けば歩いて3日だ。だがな、途中に山がある。大人ならいざ知らず、マリーみたいな子供にはむつかしい。高さはないが、登り下りも激しいし、足場も悪い」


それは、お父さんから聞いたことがある。馬車での山越えが出来ないから、街道として整備されなかったのだと。


「じゃあ、迂回するの?」


「いんや、迂回すると時間が掛かりすぎる。10日ほど掛かるだろう。ほとんど野宿は嫌だろう?」


「それはそうだけど…」


返答に困ってしまう。


「まあ、任せておけ。秘策があるから問題はない」


自信満々に言い放つハンス。そこはかとなく不安な上に、ドヤ顔がイラッとする。


そんな私を無視してハンスは続ける。


「それじゃあ、さっさと支度して出るぞ」


「支度はいいけど、ちょっと待って」


呼び止める私。旅立つ前にひとつやっておかねばならないことがある。


「あの…お、お父さんのお墓、作ってあげたい…」


「あー…」


そう言った私に、髪をガシガシと掻くハンス。またしても複雑な表情を浮かべている。


「お願い…せめて、お母さんのそばにいさせてあげたいの…だから」


「あー…わかった。手伝ってやるからそんな顔すんな!とりあえず親父はどこだ?」


「たぶん、私の家の近く…」


「ひとまずそこまで案内しろ」


ハンスがそう言うので、私は自分の家まで案内した。お父さんはすぐに見付かった。


「お父さん…」


わかってはいたけれど、現実と向き合うのは辛い。


「お父さん、守ってくれてありがとう…」


お父さんは、盗賊から私を逃がすために盾となってくれた。そのお陰で私は今こうして無事だが、代わりにお父さんは…


私は静かにお父さんの亡骸へ近付くと、その身体を抱き締めた。自然と涙が溢れてくる。


しばらく泣いていたら、ハンスに声を掛けられた。


「マリー、そろそろ親父を離してやれ」


涙を拭いてハンスを見上げる。するとハンスがお父さんを抱え上げた。


「おかんの墓はどこだ?」


そのままお母さんのお墓まで案内する。村の外れ、寂れた一角にある共同墓地。


その更に奥、一本の松の前。そこにひとつ佇むお墓が、お母さんのお墓。


「これか?」


私は頷く。


「わかった。俺が穴掘って埋めるから、その間マリーは旅支度をするんだ」


「…わかりました。何を用意すればいいの?」


「そうだな…まず身の回りのもの。多少の着替えと外套だな。あとは食料。パンとか腐りにくいものを少しと、水だな。竹筒でもあれば、2本ほど用意してくれ」


私は再度頷く。


「ならもう行け」


ハンスに促され、元来た道を引き返す。名残惜しくてお父さんを見ていたが、私は意を決して走り出した。



ハンスに言われたものを麻の袋に入れて戻ってくると、もうお墓は出来ていた。お母さんのお墓ほど立派ではないが、お父さんのお墓だ。


裏庭から摘んできたお花を供える。お母さんのお墓にも、お花を供える。


「最後の挨拶をしておけ。俺は先に広場へ戻っている」


そう言うと、ハンスは立ち去った。私は両親のお墓へ向き直る。


「お父さん、お母さん、ありがとう」


両親へ感謝と、旅立つことの報告。それと両親に対する祈りの言葉。


それらを紡いで、二人に投げ掛ける。答えはない。


松の枝が、かさかさと風に揺れる音だけが辺りに響く。そして私は広場へ足を向けた。



「おう、もう済んだか?」


広場へ戻ると、ハンスがそう聞いてきた。頷いて私は答えた。


「そうか。とりあえず出発だな。その前にひとつだけやることがある」


何を言い出すのだろうとハンスを見てみれば、例の金属の棒を取り出した。そこはかとなく嫌な予感がする。


「炎の御珠よ、我が意に依りて現れよ」


すると、掲げた金属の棒の先に、人の頭大の火の玉が現れた。棒を傾けると、火の玉は動き始めた。


動く先を見遣ると、そこには一軒の民家があった。ぶつかる瞬間、火の玉がかき消えたかと思うと、炸裂音と共に火柱が上がった。


思わず耳を塞いだ。が、音はすぐに止んで火柱もなくなった。


私はハンスを見上げた。この人は一体何を考えているのだろうか?


「そんな非難がましい目で俺を見るな」


飄々と彼は言った。さらに続ける。


「あの家に、死体を詰めて燃やしたんだ。でないと、しばらくの間ここ一帯は獣の巣窟になっちまう。それに流行り病の元になっても困るしな。旅人が全く通らないとも限らんし」


言ってることは、わからなくもない。でも、そのやり方にはどうしても納得出来なかった。


「マリーの言いたいだろうことは分かる。最善の道は他にもあるだろうが、今はこれしか出来ん。時間やその他の理由でな。…とりあえずアンハイムに向かうぞ」


スタスタと歩いていくハンス。私は、もう一度村をじっと見つめた。


それから村に背を向けると、私はハンスを追いかけた。

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