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プロローグ

人には、人生の分かれ道というものが存在する。生死を分ける時あるいは人生を大きく左右する場合だ。


10歳の時の私は、まさに人生の分かれ道だった。まずは、その時点から、話を始めるとしよう。



私は今、全力で走っていた。何故なら追われていたからだ。


少し肥えたおっさん。ぼさぼさの髪、明らかに手入れしていない服、そして手には粗悪そうな片手剣。


まあ一言で言ってしまえば、絵に描いたような盗賊だ。そんな奴に、私は追われていた。


「待てよガキ!大人しく捕まれや!」


「嫌よ!誰があんたみたいなオッサンに!」


その時、たまたま飲み屋の戸が空いているのが見えた。咄嗟に中へ飛び込んだ。


転がるように奥へ移動して、窓を開けようとする。が、なかなか開かない。


「大人しく捕まれや〜安心しろよ、殺しはしねぇからよ〜ゲヘヘへ」


戸の方を見遣ると、件の盗賊がいた。にへらにへらした嫌な笑いを浮かべている。


「娘っ子は高く売れるからなぁ…まあ、その前に俺様が『試食』してからだけどなぁ〜ヘヘヘ」


頭の中で危険を知らせる早鐘が鳴り響く。は、早く逃げないと…


と、その時だった。「ズズ〜」と何かをすする音が聞こえた。


私も盗賊も、ギョッとして音源を見遣った。すると、店の隅に誰かがいた。


…しかも食事中。これでもかと、モシャモシャと食べ続ける。


卓の上には大量の空き皿。残りはパンとサラダとスープが…ってどんだけ食べるのよ、コイツ。


「へへへ、いいカモがいたもんだ。まずはこっちだわな」


いち早く復活した盗賊が近付いていく。そして剣を振り下ろした。


私は目を逸らせなかった。やられる、そう思った。


が、盗賊の剣は、あと少しというところで止まった。な、なんで!?


よく見れば、大食漢1号は、首をかくかのように、食事をしたまま、右手の指二本で剣を挟んでいた。盗賊が押しても引いてもびくともしない。


「人の飯を邪魔しやがって」


突然話し始めた大食漢1号。どうやら男のようだが、年は若いようだ。


その瞬間、盗賊の剣が粉々に砕けた。私は自分の目を疑った。


盗賊も同じだったようで、目を見開いて柄だけになった剣を見つめる。固まったまま声すら出ない。


大食漢1号は立ち上がるや盗賊の顔を無造作に掴み、持ち上げる。盗賊の悲鳴と共に、顔からは骨の軋む嫌な音が聞こえた。


そのまま、壁に向かって盗賊を投げる。すると壁はおろか、隣の家すら貫通して、盗賊は見えなくなった。


あり得ない。いくら木造だからと言って、人一人投げて隣の家まで貫通するはずがない。


「おいそこの子供。水持ってこい」


混乱する私を他所に、男はそう言った。仕方がないので適当なものを見繕って、甕から水を汲む。


「ど、どうぞ」


水を渡すと、男は飲み始めた。それはもう豪快に。


よく見れば、男は年の頃20くらいで身長は平均的。しかしかなり痩せていて、何よりつり目の眼光は異様に鋭く、まるで獣のようだ。


男は水を飲み終わると手近な卓に置き、おもむろに立ち去ろうとする。私は慌てて引き留める。


「ち、ちょっと待って下さい!」


「何だ?」


「お、お願いです!助けて下さい!」


「あー…」


すごく複雑な表情をされた。しかし私も引き下がれない。


「お願いです!盗賊なんかに捕まりたくないの!もうあなたしか頼れる人がいないの!だから…」


「…仕方ないな。俺は慈善活動家じゃあないんだがな」


髪をガシガシと掻きながら、渋々といった態度で了承された。そしてトンデモ発言。


「めんどくせぇな。盗賊皆殺しか。ちょっと待ってろ」


言うや否や、男は駆け出す。その際、壁に立て掛けてあった、金属の棒みたいなものを掴んでいった。


私も慌てて追いかけたが、すぐ見えなくなった。走り去った方向的に広場だと思い、そちらへ走った。


広場へ着くと、物陰から様子を伺う。件の男は、盗賊一味と対峙していた。


およそ50人はいるだろうか。半円状に男を取り囲んでいる。


「誰かこの坊主の相手してやれ」


盗賊の首領らしき男が叫ぶと、一人の盗賊が男に近付く。


「へへへ、悪く思うなよ。自分を呪いな!ヒャヒャヒャ!」


鉈を振り上げた時、男が動いた。


無造作に男が棒を薙いだ。すると、盗賊の首と腕が転げ落ちた。


誰もが絶句した。当たり前だ、棒で首が飛んだのだから。


しかし、よく見れば、棒の先端が変わっている。槍の穂先を弯刀にしたみたいな形だ。


「て、てめぇ!何しやがった!」


盗賊の首領が吼える。


「んなの見ての通りだボンクラども。頭と身体が永遠にオサラバしただけだ。ああ、ついでにこの世ともオサラバしたがな」


「てめぇら、やっちまえ!」


「おおー!」


気勢をあげ、男に群がる盗賊。しかし、次々と斬り伏せられていく。


ただ、見ていて不思議に思うことがあった。首やら腕やらが、文字通りの意味で飛んでいるのに、血飛沫が全く飛んでいない。


そんな風に思っていると、あっという間に残りは数人となった。大勢は決したようだ。


すると我先にと逃げ出す盗賊達。男は仁王立ちのまま、刃先を一団へ向ける。


「蒼き炎よ、我が意に依りてかの者を滅せん」


刹那、刃先から一条の光が飛び出す。蒼白い、圧倒的な、力迸る光。


半瞬遅れて、凄まじい音がした。まるで、雷のような。


慌てて目を逸らし、耳を塞ぐ。だがすぐに光も音も止んだ。


恐る恐る元の場所を見遣るが、変化は何もない。盗賊が消えたこと以外は。


「おい、もう出てきていいぞ」


男が振り向き、声を掛けてきた。明らかに私を呼んでいる。


怖かったが、仕方がないので男のそばへ。…妙に焦げ臭い。


「とりあえず片付いたぞ。これで拐われる心配はなくなったわけだ」


「あ、ありがとうございます」


ひとまず礼を言う。するとまたトンデモ発言。


「俺はもう行く。達者でな」


「待って待って待って待って下さい!わ、私の他に、この村の人を知りませんか?」


「いんやぁ…いねぇだろうな。誰か生きてる気配はしねぇな」


両手をつき、項垂れる私。自然と涙が溢れてくる。


「お、お父さん…ううっ…」


とめどなく涙が溢れる。私は泣き続けた。


壊れてしまったかのように。泣くこと以外を忘れてしまったかのように。



私は涙が枯れるまで泣き続けた。ようやく落ち着いた頃、男が話し始めた。


「もう落ち着いたか?」


私は涙を拭いて、男を見上げる。


「とりあえず、だ。ひとつ提案をしてやる」


「…なに?」


「この村の状態は、さっき言った通りだ。ここから、少なくとも3マイル以内に人はいない」


「…」


「だから、だ。とりあえず近くの街まで連れていってやる。近くに親戚くらいいるだろ?」


私は静かに首を振った。


「お父さんもお母さんも、親がいなかったって。今まで親戚の話は聞いたこと、ない…」


「あー…」


男はガシガシと髪を掻きながら、低く唸った。


「わかった、わかった。あー…よし、じゃあこれでどうだ。お前にはふたつの選択肢がある。このままここに残るか、俺と付いてくるか、だ。もし付いてくるなら、知り合いにお前のことを頼んでやる」


「……」


疑い深い目をしていたのだろう。彼は更に続けた。


「安心しろ。これだけの盗賊を殺して戦利品がお前だけじゃ不釣り合いだ。カシラの頭を番所に出して賞金貰った方がいい」


「………わかった。付いてく」


「わかった。お前、名前は?」


「…私の名前はマリー。マリー・ライン。あなたの名前は?」


「ハンスだ。ハンス・バッハ」



これが、私にとって、人生の大きな分かれ道であった。また師匠であり、呪われた魔術師たるハンスとの出会いでもあった。

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