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オマージュ

作者: 楽部

 一組の夫婦がいた。ごく平凡で慎ましい暮らし。しかし、彼らはそれで十分幸せだった。

 彼らは似た者夫婦だった。生まれた月は異なるが、星座が同じ。甘いもの好きの味覚、旅行が趣味のところ、物をなくしやすい性格もよく似ていた。周りから指摘されるでなく、彼ら自身もそれとなく感じていた。


 ある日、夫が綻んだポケットからお金を出し入れしているのに妻が気付いた。財布をなくしてしまったらしい。その月の末は夫の誕生日。妻は夫がなくさないよう目立つ色の財布に、多少の中身を入れてプレゼントした。

 夫は感謝した。その翌月の初めは妻の誕生日。夫はお返しに大きめの財布に、お金を忘れても大丈夫なようカード類を入れてプレゼントした。妻も感謝して受け取った。


 次の月はクリスマス。今日はその当日。裕福とは言えない彼らも、こんな日は洒落て外に出かける。気になるお店に入り、おいしいものを食べ、楽しい会話、幸せな時間を過ごす。

 問題はその後に起きた。会計をしようとした妻の手に例の財布がない。夫が尋ねると、妻は申し訳なさそうに、先日なくしてしまったと詫びる。カード類は再発行待ち、手元にあるお金では少し足りなかった。


 しょうがないな、夫は思った。代わりに自分が出そうとした。しかし、ポケットに手を入れてみるが、財布がない。店の中を探し回り、店員にも聞いてみるが、見つからない。どうやら、この店に入る前になくしたようだ。

 しょうがない人、妻も思った。しかし、自分もなくしてしまっている。夫もすまなさそうに落ち込んでいる。


 ふと、夫婦は目が合った。二人は、自分たちが似ていると互いに再度認識した。相手を思いやった贈り物はともになくしてしまい、意味のないものとなった。でも、それはそれで、彼らを幸せな気分にさせたのだった。


 そんなクリスマスの夜。


 夫婦は揃って微笑んだ。そして、お互いを許し合った。


 しかし、お店の人は許してくれなかった。

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