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使い魔の黒猫は満月の晩に踊る  作者: 白波
第1章 魔法との出会い
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第3話 あやかとクロのお出かけ(前)

 あやねの部屋の机の上。

 そこでクロは魔法少女に関する本を読んでいた。


 この家に住み始めて早二週間。

 ニンゲンだった時とは違い、今は時間なんていくらでもあるので本は読み放題だ。まぁあやかに見つかると厄介なので彼女が学校に行っている間限定なのだが……

 それ以外の時間は基本的にあやかの部屋かあやねの部屋で過ごしている。


 この部屋の住人である二人は多少ではあるが信頼できるし、猫用トイレがあるのは二階のこの二部屋だけだ。

 爪とぎは……わからない程度にはやらせてもらっている。やるのはどうかと思ってしまうのだが、猫として爪が長いのは問題がある。というか、あやかにやってもらった爪切りがトラウマになるレベルだったからというのが一番大きいかもしれない。ほんとにもう少しうまくできないものなのだろうか?

 こればかりは慣れていないからだとか、そもそも練習する機会がないとか言い出したらそれまでであるが、それでも何かしらの形で気を使ってほしいものである。


 まったくもって、人間の時に比べたら猫の体は不便だ。


 水は苦手になるし、ノミがたかってくる上に大きな音も苦手だ。

 身体能力でいえば、ある意味で向上しているのかもしれないが、四足歩行というのはそれはそれで不便である。

 時計に目を向けると、そろそろあやねが小学校から帰ってくる時間なので本をぱたりと閉じてあやねの部屋に向かう。


 あやねの部屋に入ると、クロはまっすぐとベッドへ向かった。


 ふかふかのベッドの上は最近のお気に入りの場所だ。

 最初こそあがるのに抵抗があったが、床にいようが机の上にいようが、最終的にはこの場所へと運ばれるので、最初からここにいる次第だ。

 ここであやかと一緒にいると、部屋を覗いているあやねの視線が非常に鋭くなるのは気のせいだろうか? いや、気のせいだということにしておかないといけない気がする。


 なんというか、自身の姿を見る視線が体中に穴をあけるのではないかというほどの殺意すら感じるモノでそれに気づいてしまったら、自分の人生……もとい猫生が終わりを告げてしまうような気がしてならないのだ。


 そんなことを考えている間に玄関扉が勢いよく開かれて、パタパタという足音が聞こえてくる。


「クロ! ただいま!」

「おかえりあやか。ちゃんと手は洗ったのか?」

「もう! お母さんみたいなこと言わないの! でも、手は洗ってくるね!」


 あやかは勢いそのままに机のそばにランドセルを放って部屋を出る。


「まったく、騒がしい奴だ」


 クロがそんなことをつぶやくのと同時にクローゼットの扉がゆっくりと開いて、中からあやねが姿を現した。

 どういうわけか、少々息を荒げている彼女は音を立てないようゆっくりとクロの方に近づき、頭に手を置く。


「でかしたぞ。お前がいてくれなかったら最悪の場合、姉の威厳とかいろいろなものを失うところだったわ……いや、冷たい視線で私を見るあやかか……それはそれでありなのかもしれないけれど……」

「黙れシスコン」


 この二週間ではっきりとわかったことが一つある。

 音無あやねという人物は極度のシスコンであるということだ。それこそ、妹のためなら火の中水の中。笑顔で人を殺せるタイプとみて間違いない。どうやら、妹が魔法少女になるにあたって、とにかく強い使い魔をと思い魔法少女にあるぐらいの妹好きで、彼女からあやかを引きはがそうものなら、百万回死んでも殺しに来るだろう。そう思わせるほど、彼女は異常なほどの妹愛にあふれた人物だ。


 そんなかわいい妹のパンツを頭に装備したあやねはそのままこっそりと部屋から退室し、向かいの自室へと戻っていく。

 本来なら、止めるべきなのだろうが、さすがに命は惜しいのでそれはしないでおく。


「はぁまったく。困ったもんだな……」


 最初こそ頼りがいのありそうだとか思っていたのだが、今となっては自分の目にはただのダメなシスコンの姉のようにしか見えない。

 そんなあやねが部屋から出ていったすぐ後、手洗いを終えたあやかが戻ってくる。


「今度こそただいま!」


 そう言って、あやかはクロに抱き着いた。

 その時、重度のシスコン(あやね)が某家政婦のごとく部屋を覗き見て、鋭い視線を向けていたのは言うまでもない。せめて、頭にかぶっているモノぐらいは脱いでほしいものだが……

 こんな調子で大切な妹を失った暁には理性を失って珍妙な行動を取りはじめるのではないだろうか?

 そんなくだらないことを考え始めたころにはあやねの姿は消えていて、あやかからも解放される。


「ねぇねぇクロ! 近くにすごい魔法少女が来ているんだって! 一緒に行こう!」


 あやかは目をキラキラと輝かせながらクロに詰め寄る。

 クロはその視線の直撃を避けるように体をひねるが、あやかは絶えず輝くような目でクロに訴えかける。


「ねっ行こうよ! ねっ?」

「……あっあやね。あやねと一緒に行けばいいだろ!」

「ダメ。お姉ちゃんは今日忙しいって言ってたし……なんだっけ? そうだ。もうすぐお盆でほかのみんなが帰ってくるから今日の内にやっておくことがいっぱいあるって言ってた。なんか、私やクロが家にいると都合が悪いから夕方まで出かけてきなさいって」


 あの姉は何をする気なのだろうか? 一瞬、クラシックをかけながら妹のパンツを頭にかぶり、妹物の同人誌を読み漁る絵が浮かんだが懸命に頭を振ってそのイメージを振り切る。そんなイメージが浮かんできてしまうのは漫画の読みすぎだろう。そんな姉が現実にいてたまるか。

 頭の中に浮かんだ嫌なイメージを払しょくするように何度か頭を振った後、クロは小さく息を吐く。


「わかったよ。ついてってやるから。でも、なにがなんでもまだ契約はしないからな」

「えーしてくれないの? でも、本当に活躍している魔法少女を見たらそんなこと言えなくなるんだから」

「はいはい。わーたよ。でも、なるときは自分でお姉さんを説得しろよ」

「うん!」


 クロと一緒に出掛けられるのがよほどうれしいらしく、あやかはルンルンという擬音が聞こえてくるのではないかというぐらい喜んでいる。


「それじゃさっそく準備しよっか!」


 彼女はそういうと、カバンやらなんやらを引っ張り出して準備を始める。

 その間、クロはあやねに話を聞くために部屋を出て隣の部屋へと向かった。


「あやね。入っていいか?」


 猫の手でノックしたところで中に聞こえるわけないので直接声をかける。


 声をかけてからしばらく。


「どうぞー」


 中からあやねの声が聞こえてきたのを確認したクロは扉を開けて中に入る。


 部屋の中はいつも通りきれいに片付いているのだが、心なしかクローゼットの扉が今にも開きそうなぐらいパンパンな気がする。

 まぁ気がするだけで、そうはなっていないかもしれないが今はどうでもいいことだ。


「あやね。あかねの奴が町に来ている魔法少女を見に行きたいって言っているんだが、問題ないか?」


 そう。今重要なのはこの事項について確認しなければならない。

 一応、魔法少女関連のことは事後報告ではいけない気がする。だからこそ、こうして出発前に伺いを盾に来たわけである。


「……魔法少女……あぁ夜霧(やりぎ)小夜(さよ)のことね。確かに近くの町に来ているって聞いているわ。まぁ夜霧小夜はかなり腕が立つ魔法使いだって聞いているし万に一つのことがあっても、問題ないんじゃないかしら?」

「そんなにすごいのか?」

「えぇ。敵の視界を奪い確実に仕留める暗殺者タイプね。魔法少女界のカリスマ的存在よ」

「そうなのか……」


 あやねがそこまで言うということは、それだけの実力を持った魔法使いだということで間違いないのかもしれない。


「そうか。安心したよ。それで? その夜霧小夜っていうのはどこのあたりに来るんだ?」


 クロが聞くと、あやねは少し考えるようなしぐさを見せてから答えを提示した。


「最寄りの駅から電車に乗って……特急を使えば三十分かからないぐらいかしら?」

「はっ? 電車に乗るのか?」

「えぇ」

「猫だぞ」

「問題ないわよ。この世界で猫は割とポピュラーな使い魔だから。問題起こしてブラックリスト入りしない限りはだけど」


 あやねがあまりもあっさりと電車に乗れなんて言うから驚いてしまったが、よくよく考えてみればそうだろう。

 魔法少女という存在があって、使い魔に動物を選ぶのに電車に動物は乗れませんなんてことはありえない。


「ねぇクロ! もう行くよ!」


 ちょうど、そんなタイミングで準備を終えたらしいあやかの声が聞こえてくる。


「おっと、そろそろ行かないとな。ありがとう」

「えぇこちらこそ。くれぐれもあやかのことよろしくね」

「おう。できる限りな」


 あやねとの会話を終えたクロは部屋を出て廊下で待っているあやかの下へ向かう。


「もう! クロったらお姉ちゃんのところに行ってたの? 一緒に行こうっていうんだから、一緒にいてくれてもよかったのに」

「はいはい。わかったよ」


 あやねの苦情を聞き流しつつクロは階段の方に向かう。

 しかし、一段目を降りようとしたときその行動は背後から迫ってきたあやねの手によって阻まれてしまった。


「ダメ。クロは私が抱っこしていくの」

「やめろ! 降ろせ!」

「いーやー!」


 彼女はそういうと、クロを抱っこしたまま階段を駆け下り始める。


「それじゃ行ってきまーす!」


 あやねは部屋にいる姉に声をかけて家を出た。

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