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獣人の求婚  作者: 花ゆき
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獣人の花祭り

 花祭りの日が近い。別名、恋祭りだ。つがいもちは、相手の好きな場所に三カ所キスをして、また今年もよろしくと絆を深める。また好きな人に想いを伝えたり、感謝の気持ちを伝える日でもある。


 ライルは毎年綺麗な花を贈ってくれていた。そして手ずから頭に花を飾ってくれる。獣人の習慣に疎い私が言うのもなんだけど、花を贈るのは好きですという意味で、花を飾るのを許すのは愛を受け入れますという意味だった。つまり、毎年毎年私は売約済みですよとアピールしていたことになる。家族愛だと思っていたので、知らなかっただけに恥ずかしい。


 今年はライルがわざわざこと細かに教えてくれた。なんでも、私がどこにキスをするか楽しみらしい。日に日にウキウキしているライルを見て、逃げ出したい気分になった。しかし、鼻のいいライルにかくれんぼで勝った試しがない。とうとう花祭り当日を迎えてしまった。




 私は朝早くに起きて、身だしなみを整えた。今日のために用意したお気に入りの服もおろす。鏡の中の私は緊張したように笑っていた。


「リーシャ、ここにいたのか」

「ライル、起こしちゃった? おはよう」


 彼に抱きついて、左耳に甘噛みする。彼も同じように甘噛みを返してくるが、何回も耳を甘噛みし、舌でペロッと舐めてきた。朝からの甘噛みにはふさわしくない。注意しようとした時、ぎゅっと抱きしめられた。


「せっかくの花祭りなんだから、朝はリーシャの顔見て目覚めたかったのに腕の中にはいないし、リーシャがいたはずのシーツは冷めてるし」


 責めるようにじっと見てくる彼から、視線をそらす。付き合いが長いので、何のために早起きしたのかバレたくない。


「ライルって寝起きの私をじっと見てるじゃない。あれ、恥ずかしいのよ」

「つがいの特権だろう」

「それでも、あんな甘ったるい顔で見られるのは心臓に悪いわ」


 彼は当たり前だというように、身をかがめて顔を近づけてくる。クンと鼻をかいで、いい匂いだと言葉をもらした。


「リーシャを見てるんだから、当然だろう? リーシャはいつも可愛いけど、着飾ったら更に可愛くなったな」

「あ、ありがとう」


 つがいになってからというものの、甘噛みは激しくなり、こういう会話も甘ったるいものになった。私は彼の溺愛っぷりに未だ慣れていない。頬が自然と熱くなる。


「リーシャから花祭りのキスをして」


 嬉しそうに見つめてくる彼に負けて、リーシャは目元にキスをした。つけている耳飾りと同じ色をした目、いつも私を優しく見つめている目が好きだ。続いて、背伸びをして彼の左耳にキスをする。左耳はつがいや恋人がキスする場所だ。想いが伝わればいいと思っていると、ライルが喜びをかみしめていた。最後に手のひらにキスをする。いつも私に優しく触れてくる手が好きだ。反応を見るように見上げると、ライルは舌なめずりしていた。これから彼の番だ。反撃が怖い。


 ライルは左耳にキス、目元にキス、唇にキスをした。彼にスイッチが入ってしまい、キスの嵐が止まらない。甘噛みも夜を匂わせるようなものになっていく。しかし、リーシャには使命があった。そのため彼の服を引っ張る。普段ならこれで止まるのだが、祭り効果で興奮しているせいか止まらない。


「っ、大事な用があるの」

「つがい愛を深める以上にか?」

「だからよ。ライル、おすわり」


 きゅんとお預けをくらったような切ない声で正座しながら私を見てきた。そんな彼に朝早くから花畑で用意した花束を渡す。きっと、先ほどいい匂いだと言ったのも、花の匂いがついたせいだろう。案の定、ライルは目を大きく見開いた。


「これは今までの分のお礼」

「参った。嫁さんが可愛すぎる……」


 ライルは頭を抱えながら説明してくれた。花をプレゼントするのは男側だそうだ。今までの返事にと思ったのだが、失敗したようだ。


「でも、リーシャがくれたことが何より嬉しい。花、お揃いにするか」


 去年と同じように頭に花を飾って、私は彼の服の胸ポケットに飾った。二人笑って、手を繋いで家を出た。




 大通りに行くと、「つがいだ! 投げろ投げろ!」と色とりどりの花を投げられた。ライルはその投げられた花を掴み、仲良く寄り添っている他のつがいに投げつける。そしてまた投げられて、投げ返して。私も参加した。花を投げるのには、夫婦仲が円満でありますようにという祝福なのだそうだ。ライルはその祝福返しをしたということになる。気がつけば二人花びらにまみれていて、思わずクスッと笑った。


「これからもよろしく、リーシャ」

「こちらこそよろしく、私の旦那様」


 外だというのに急に抱きしめられて、左耳を甘噛みされた。外だから駄目だと言っても、煽った私が悪いと言い返された。今日は花祭りだから、いつもより行動に移そうかな。


 ライルの左耳を甘噛みし返すと、彼の目の色が変わった。抱き上げられて、家への道を遡っていく。今日は一日が長そうだ。こっそり頬を緩めた。

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