8話 Hizamakura
一睡もできなかった。
そりゃあそうだ。
「死んだ後に見知らぬ土地で第二の人生、とか小説っぽくね!? つまり、なにか特殊な力が目覚めていたりするんじゃね!?」
と、カウンターに突っ伏して寝ている猿渡さんの寝顔を凝視していた。
暗闇でも相手を見る事ができる、とかあったらなぁ、みたいな。
よくよく考えたら、僕まだ死んでないじゃんか。
それじゃあ転生もできないさ。だって生きてるもん。
「はぁ」
しかも、空が明るくなってくる前には猿渡さん起きちゃってるんだもの。
寝顔、見たかったなぁ。
……あ、荒谷の寝顔なら今でも見放題です。欠片も興味ないんだけどね。
「あれ、猿渡君起きてたの?」
と、先程の溜め息に反応してか、声をかけてくれる猿渡さん。
「よく眠れた?」
「……いや、考え事をしていたら一睡もできませんでした」
猿渡さんを心配させたくはないなー、とか思ったりもしたんだけど、猿渡さんに嘘を吐きたくはないな、とか思ってしまった。
例え、優しい嘘だとしても。
だから、正直な言葉が出てきていた。
「大丈夫? 枕変わると寝られなくなるタイプ?」
「いえ、そんなんじゃない、はずです」
今までには、そんな事は一度もなかったしなぁ。
「……あれ、もしかして僕、仰向けじゃ寝られないんじゃ?」
だって、後頭部には事故の傷。
少し触れただけで大激痛な傷。
そんな頭を下にして寝る、なんてとてもできそうにはない。
「そう言えばそうだった、……ごめん、先に言えてなくて」
「いえ大丈夫です! だってまだ寝てませんから! 寝る前に確かめられて良かったですありがとうございます!」
良かったー! 猿渡さんの寝顔ウォッチングを試みていて本当に良かったー!
お陰で、あの激痛を味わわなくて済んだ!
「……横向きになら、寝れる?」
やたら心配そうに、そう言葉をかけてくれるので。
「へ? まぁ、多分寝れるんじゃないですか?」
と、言いながらたたみの上に横たわってみたりして。
……布団なしで枕なしでコレ、って以外と固いな。ここで爆睡できる荒谷が凄く見えてくる。
「頭は痛くないですが、枕代わりになるものって無いですか?」
「雨宮君が嫌じゃなければ、さっきのお詫びに膝枕くらいなら貸せるけど?」
「なっ!?」
ひざまくら。
ヒザマクラ。
Hizamakura。
……膝枕!
「膝枕、だと!?」