6話 ≪sublimation≫
「……………………………………え?」
首吊り?
自殺?
この、チャラそうな男――荒谷雅也が?
「ったく。クオンよぉ。何でこんな奴に軽々しく話しちまうんだよ」
「意味もなくベタベタしてくるのが暑苦しいから、その罰」
「ひっで、……」
?
何で、クソ野郎……じゃなくて雅也とやらが、僕を睨むんだ?
「おい」
「へ?」
そして何で僕に近づい――
「言いたい事があるならハッキリ言いやがれ」
胸ぐらを捕まれ、僕は荒谷に持ち上げられていた。
裸Yシャツの上からでも、僅かにだが、荒谷の筋肉の量が分かる。
「え――」
「言っとくが、俺は気安い同情や心配をされる覚えはねぇんだよ」
そしてそのまま睨まれ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
そんな血走った目で睨まないでくれるかな泣きたくなるんだ!
「雅也。それ以上怖がらせたら食事出さないわよ」
ぱっ。
「てぇっ!」
いきなり重力に投げ出され、抗う間もなく僕は地面に叩きつけられていた。
「大丈夫?」
と、いつの間にか近づいてきていた猿渡さんが僕に差し伸べる手。
「へ!? はいっ、大丈夫です一人で立てますよえぇ!」
あぁ僕はバカかバカだな実にバカだ!
だって、せっかくの猿渡さんの手を握れるチャンスを棒に振ってまでカッコつけたんだもの!
そんなんじゃカッコつかない、って言うのにさ!
「雅也?」
「ンだよクオン。言っとくが謝らねぇぞ」
「そんなんじゃないわよ。……『アレ』、雨宮君に聞かせてあげて」
「ッはぁ!?」
ガタッ、といつの間にかカウンター席に座っていた荒谷が声を荒くする。
「雅也はこんな奴だけど、ギターの腕はそこそこなのよ。私の独断と偏見で決めてるけど」
「やっしいっちょやってやるか!」
「分かりやすっ!」
いや、さっきまでの態度も中々に分かりやすかったけど、コイツ分かりやすい!
「……クオンに感謝しろよ。俺の演奏をタダで聞けるんだからよ」
と、猿渡さんが店の奥から運んできたギターやら何やらを接続していく荒谷。
「あ、店内で弾くとうるさいからさ、コレ使っていいから外でやって?」
と、投げられるのは延長コード。
「あいよ」
そして文句一つなく、荒谷は接続を繋げ直して店の外に出る。
そして、海に落ちるギリギリまで店から遠ざかって。
「《sublimation》……それがこの曲の名前だ」
と、前置きして。
静かに確かに声色高く――
――歌い出す。