5話 荒谷雅也
「……つまり、僕が自力で目覚める方法はない、ってことになるのかな」
「まぁ、纏めちゃえばそうなるのかな?」
しばらくして。
夕食代わりの親子丼をつつきながら、僕と猿渡さんは僕の今後についての話をしていた。
僕の今後。
僕がいつまで【うずまき】に居られるのか、とかを。
「あの海を果てまで泳いでいけばあるいは、って感じだけどどうする? 試してみる?」
「遠慮しておきます」
この頭の傷があるまま塩水にダイブ、なんて大した自殺行為だよ本当に。
しかも、僕は【うずまき】から離れたい訳じゃないんだ。
むしろ離れたくない。
だから、どれだけ楽な方法があったとしても、グチグチと難癖つけてここに残りたい。
だって、ここには猿渡さんがいて、僕と猿渡さんは二人きりなのだから。
「他にも【うずまき】に居座っている連中はいるんだけどねぇ。みーんな変人だから雨宮君がありがたいよ」
「え」
ありがたいなんて言われちゃったよどーしよー、とか浮かれている場合じゃないだろう。今は。
何故なら、他に人がいる?
つまり、二人きりじゃない?
「そっ、それはどんなひ「クオーン! 今帰って来たっぜー!」」
ガラララッ! とスライドする【うずまき】のドアの向こうには、裸Yシャツと海パンのみを身につけた金髪の男が立っていた」
「って、あれ? 新入り?」
天に向かってツンツンと延びる、あまり質がよろしくなさそうな髪。
それが僕に与える印象は、お世辞にもよろしくはない。
なにより。
「うん。雨宮練君。車に跳ねられたみたいだよ」
「んっだそれ! マジウケる! 今どきそんなヘマするバカがいんのかよ!」
下品にゲラゲラと笑うその様子が、なんかこう、イラッとくる。
いや、バカにされるのは良いんだ。
でも。
「しかもこんなモヤシって、なんつーか……、クオンの近くにこんな奴がいたらクオンが汚れちまうんじゃねぇの?」
「あ、暑苦しいから離れてくれない?」
「あ、悪ぃ。照れちまったか?」
「照れてない!」
コイツが猿渡さんに馴れ馴れしくてうらや……いや、ウザい。
「あ、ごめんね雨宮君。コイツ馬鹿なのよ。ちょっと人生に躓いたくらいでコレなの」
と、猿渡さんは(クソ野郎が近寄っているせいで、無駄に、羨む程に)隣にいるクソ野郎の首もとを指で示す。
「コイツ――荒谷雅也は、こんなチャラそうな外見のクセにチキンなせいで、ねぇ」
「っな!? おいっ、言うなよっ!?」
そこに見えるのは。
「首吊りに失敗してずっと意識不明な、売れないバンドマンなのよ」
縄の跡。