4話 ありがとう、ね?
「はぁ!?」
ガタッ、と思わず立ち上がりながら叫んでしまっていた。
そのせいで猿渡さんがビックリしているけど気にしない。
頭を打ったからかなぁ、とか言われてるけど気にしない。
もう一回殴れば直るか、とか言われてるけど気にしな――
「――いやそれはマジ痛いから死ぬから勘弁して!」
でも、この状況はおかしいと思うんだ!
こんな素敵ルックなレディ(外見年齢女子大生くらい、かな?)と居酒屋で二人きり!
僕が成年なら、間違いなく酔った勢いでアダルティな展開がカモンだよ!?
僕は未成年だけど、酔った年上に優しくリードされる展開がカモンだよ!?
「……ねぇ、大丈夫?」
と、本気で頭の(怪我ではなく脳内の)心配をされ始めた辺りで妄想――いや完全なる計画を一事中断させる。
この先はR18になっちゃうから、もし僕が主人公な小説がネットに上げられたりしても検閲されちゃうからね。
うん。仕方ないよね。つーか僕、主人公なんてガラじゃないけど。
「大丈夫です、はい」
だから、キリッと、いつもの数割増しなキメ顔でそう言ってみる。
「……本当に?」
本当だから、小首を傾げながら言わないでトキメいちゃうでしょ!?
だから、ちゃんとキリッとキメ顔を作らんとニヤけちゃうでしょ!?
「疑わないで下さい」
だから、さっきよりも出来るだけ頑張って、キメ顔を作った。
「じゃあ信じる。……いや、ね」
と、可愛らしい声による言葉を一度切って。
深呼吸して。
「ここに来る人は本当に『生死の境をさまよっている人』だからさ。ここに着いた直後にぽっくり逝っちゃったりするんだよね」
重々しく、言った。
「……」
そうだ。
ちょっと触れるだけで激痛、なんて傷を僕は頭部に受けているんだ。
いつ死んでも、きっとおかしくないのだろう。
それなのに今、僕は(こんな謎の空間に、ではあるが)生きている。
好物である唐揚げを味わえる。
これを奇跡と言わずして、何を奇跡と呼べば良いんだ。
「猿渡、さん……」
「定食を食べてる途中にさ。急にいなくなっちゃうんだよね」
と、語る猿渡さんの顔は悲しみに彩られている。
それはもう、見なくても気配だけでそれが分かるほどに。
「だから、完食して、その後も楽しく話しているだけで凄く嬉しいのよね」
と、そこまで口にした所で猿渡さんはこちらに顔ごと視線を向けて。
「ありがとう、ね?」
そう、控えめに笑った。
この4話で一応一段落つきますが、まだまだ続くんじゃないかと思っています。
少しでも更新を楽しみにしてくれている人は、感想etcを残してくれると更新のペースが上がる、かもです。
ひとまず、ここまで読んで頂いてありがとうございました。