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33話 「俺には俺の考えがある」

「最初は、ただ音楽と関わりたい奴らの集まりだったんだよ」

 ぽつり。

 顔に浮かべた怒りを――故意ではないのだろうけれど――解きながら。

「だがある時、バンドの中でカップルが生まれた」

 遠い過去を、思い出しながら。

「練習中もイチャイチャしててさぁ、集中できねぇし羨ましいし、空気がドンドン悪くなってってな」

 その表情を、歪めながら。

「結局、その空気に耐えきれなかった奴がバンドを抜けた」

 もはや、僕に視線も向けず。

「二人辞めたんだが、その内の一人が俺だ」

 誰に語っているのかすら、荒谷は分かっていないだろうに。

「頑張ったよ。でも、世間の荒波に揉まれながらのバンドは心を折りにきてよぉ」

 ただ、語る。

「で、ついつい【うずまき】に、な」

 区切る。

「もう、色恋沙汰で荒むコミュニティは見たくねぇ」

「……」

 確かに、前から不思議ではあった。

「俺は、そこにいる全員が横に並んで、前に進んでいきたいんだ」

 荒谷が、なぜ猿渡さんに気持ちを伝えていない――ように見えていた、実際にそうだった訳だけど――のか。

 その理由が、これ。

 玉砕にせよ両思いにせよ、告白は人間関係を大きく左右する。

「……荒谷」

「あぁ?」

「荒谷は、皆で横に並んで歩む関係が良い、って言ったよね?」

 言った。

 少し前に。

「あぁ」

「……だからって、ギクシャクしたまま横に並んで、何の意味があるって言うの?」

 猿渡さんが、僕の想いを知っている。

「表面だけ取り繕って、内面で苦しむ――そんな必要がどこにあるのさ?」

「説教なら聞かねぇよ」

 だったら、猿渡さんの中でその事実が変な方向に膨らまないうちに……って。

「え?」

 あれ?

 これっておかしくないかな?

「『え?』なんて間抜けな声出してんじゃねぇよ」

「いや、だって……」

「俺には俺の考えがあるし、オマエに変えられるほど柔いモンじゃねぇ」

 そう言いながら、荒谷は海の方へ歩き出す。

 足が濡れるのも無視して。

「それはオマエも同じだろ?」

「……」

 無言で頷く。

「その首の動きが本当なら、好きにしろ」

 そして、一度だけ荒谷は振り向き。

「ただし、【うずまき】の空気が悪くなったら、その頭の傷を殴ってやるよ」

 海に、泳ぎだした。

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