3話 雨宮練
「うん」
猿渡さんは、あっけらかんと返事した。
「寝ぼけ眼を擦りながら本屋に向かって歩いていた君は、車に、ボーン、とね」
まるで見てきたかの様に語る猿渡さんは血でも思い出したのか、片手で口元を抑える。
が、数秒の後に離す。どうやらモーマンタイな様だ。
「……マジで?」
「マジで」
「マジかぁ」
「マジだぁ」
どうやらマジらしい。
「……っていやいやいやいやいやいや。そんな訳な――」
と、後頭部を掻きながら口を開いた瞬間に。
激痛。
「――――――――――――――ッ!?」
「あーあ。傷口触っちゃうから」
痛みに涙をこぼす両目から、包帯を持って近付いてくる猿渡さんが見える。
「普通は体が傷口を怖れるから触らない……って言うか『触れない』ハズなんだけどなぁ」
そしてぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
「よしっ、これで大丈夫!」
「いや大丈夫じゃないですよね適当すぎますよねこれ!」
「細かい事は気にしないの、男の娘でしょ?」
「漢字! いま漢字おかしかった!」
と、テンション高く叫んだ刹那、ズキンと。
「――――――――――――――がッ!?」
「ほらほら、大人しくしてなさいな」
……そう言えば、【うずまき】の前で目を覚ました時も、頭痛があったっけ。
思えば、アレの原因もコレなのかな……大分マシだったけどね。あの時は。
「で、雨宮練君は、やりたい事ってあるの?」
雨宮練。
それが僕の名前だったりする。
けど、今はそんなのどうだって良いよ!
折角くれた名前を『どうだって良い』呼ばわりしてごめんなさい両親、でも今はそれどころじゃないんだ!
「……まぁ、あると言えばあるし、無いと言えば無いですね」
このイエスともノーとも言わないこの感じが、いかにも現代人って感じだよね(偏見丸出しだけども気にしない)。
「なーるほど」
と、猿渡さんは片手の人差し指を自らの顎に当てながら呟く。
そう言う仕草の一つ一つが、こう、なんと言うか、うん。良いよね。
「って、あれ?」
と、思わず声に出してしまったが、これはもしかして大発見だったりするんじゃないだろうか。
だって。
これって。
「ん? どうかした?」
とか、僕を気遣ってくれるこの美人さんと。
二人きり、なんじゃね?