28話 歯磨き
現実――と言うか《創造捏造》の事件(?)も終わりを迎え、翌日。
いつも(まだ日は浅いけど)の通りに朝食――朝からチキンカレーだ――を食べながら、僕は考えていた。
猿渡さんの様子が、おかしいのだ。
目があえばすぐに逸らされる。
手が当たればすぐに離される。
声をかければすぐ逃げられる。
これには、どう考えても明らかな理由がある。
今、僕が着ている服だろう。
下着から何から女物。
猿渡さんが着ているのを見たことは無いけれど、猿渡さんの所有物。
それを(他に選択肢が『全裸』しかなかったからとは言え)、つい着てしまった僕が悪いのだろう。
いや、猿渡さんの服だから着た、とかじゃないんだ。
だから僕は衝動を抑え、服の匂いを嗅ぐのを我慢している。
さてどうしよう。
好きな人に逸らされ続けている、なんて状況が好ましくないことくらいは僕にだって分かる。
大体、健全な男子高校生は好きな人に逸らされる度に絶望が1ポイント貯まる。
それが1億も貯まった日には、もうついうっかり何か犯罪に手を染めちゃう可能性すらあるレベルだろう。
僕はどこにでもいる普通の高校生――生死の境なんて場所に来ていることを除けばきっと――だ。
だから、この状況をどうにかしないと悲しすぎて死んじゃうかもしれない。
さて。
「ごちそうさまっ」
ぱんっ、と両手を鳴らしながら立ち上がる。
そして洗面台へ向かい、気付いたら僕用に用意されていた歯ブラシで歯を磨く。
シャコシャコシャコシャコ。
……さて、どうやって溝を埋めるか、だよなぁ。
シャコシャコシャコシャコ。
アリスはもう居ないし、荒谷を頼ると殺されそうな話題だし、現さんは食べるのが遅いからまだチキンカレーと格闘しているし、猿渡さんは当の本人だし。
シャコシャコシャコシャコ。
「ふむ」
思考に一段落がついたところで口の中をゆすぎ、歯磨きを終える。
そしてクルッと踵を返し、【うずまき】の出入口から海へ出ようと歩を進めた時。
「……、話、が、ある」
そこには、現さんが立っていた。




