とてもきもちいよかったなああな?
僕は田中の尻を追って生梯子を一段一段のぼっていったが、先を進む奴の挙動がどうも怪しいのに気づき不安になった。穴を知り尽くしたはずの男・田中は怯えたような動きであたりをきょろきょろと見まわし、妙な慎重さで先に進んでいくのだ。
僕らがからだを上に運ぶ度、穴倫人の結合部はぬぷぬぷと音を立てた。この頼りない繋ぎ目は、僕らふたりの重さを支え切れるのだろうか。そのロケーションはまるで「蜘蛛の糸」。僕らのあいだに対立があるわけではないけれど、二人とも下へ落ちるのがある種「正しい」形のような気がしてくる――僕がそんなことを考えると、田中がふと下を向いた。
「どうやら、おまえのほうだったらしい。俺のじゃない」
いったいなんのことだろうか。
「俺はまた戻ることになる。胎児からやり直しさ」
わけのわからない文脈を残したまま、田中は落下した。田中が床に落下した瞬間に穴は激しく蠕動し、田中はあっという間に見えなくなった。僕の足元は激しい揺れに襲われたが、穴倫人の性器に腕を突っ込んでなんとか体を支え切った。
よくわからないけど田中が消えた。しかし何故か僕にはもともと「田中と一緒に脱出する」というビジョンがなくて、田中が消えたことに対して妙に落ち着いていた。
僕は頭上にぶらさがる提灯のような物体を掴み、振り子のように揺られて光へ飛び込む。そのひどく粘り気のある表面が手にこびり付いたのをなんとか剥がし取って、空中で前傾姿勢を取る。僕の身体は放物線を描いて光へと向かっていく。
(ジュポッ)
光がいきなり閉ざされて何か硬い異物が僕を奥へ突き飛ばす。
(ゾプゥ)
また明るくなった。僕は空中で姿勢を制御しようと試みる。しかしダメだ、腹が上を向いて、顔面だけかろうじて光のほうを向いている。ぶざまに口が開く。
(ジュポッ)
「うぐぐぐぐ」
追い打ちをかけるように差しこまれた棒状が、僕の口に突き刺さった。それはとても口に入りそうな大きさではないように思えたが、僕の口元で親指大に収縮し突き刺さった。
僕はなんとなく理解したが結論を得られずにいる。困ったなあ。
「やあやあ」
あ、田中だ。
奴はコウモリのような逆さ立ちで目の前にぶら下がっている。
「むげぎご」
「ははは。愉快な見た目をしている」
どうなってんだこれは。田中。
「まあリラックスしろよ。穴の中で、どんなイメージが登場したか反芻してみるんだ」
そんなことこんな状態で言われて出来るものかなあ。
「君はあのとき、『表側』と『裏側』を失ったんだよ」
あのとき。どのときだ? と思ったあたりで田中が射精した。僕に汚物が降りかかる。ああその表情か。つまりはあのとき、僕は表も裏もない存在になったのか。そうしたのちに腕ごと、おそらくは内側へ潜りこむことに。内側。内側だとすれば妥当な道程だったのかもしれないなあ。ならば田中はいったい誰か。それも自明なのかもしれないな。
田中が言った。
「ウロボロスというヤツだね」
そして僕は喉を開き、すべてを飲み込んだ。
リメイクだけじゃ前に進めないから何か新作を。と考えてこれだから絶望しました。終始イメージだけで書き連ね、最終的にもやはりイメージのレベルで、しかしなんとか回収することは出来たような印象。とりあえず働きながらもおそらくは1ヶ月で10000字程度、無理なく書けることはわかった気がします。次へ参ります。