ふられた
指を一本ずつ穴ワカメで覆って、わたあめを作る要領で巻きつけた。そういえば右手の人差し指がなくなっていた。ペニスもない。
指にからめた穴ワカメに風をあてて水気を飛ばす。少しだけ渇いたそれはヘドロの香りだったが、味は「ごはんですよ」にそっくりだった。湖の水がやけに酸っぱくて、それが穴ワカメの甘みと上手くマッチしたらしい。だが白メシがなければ何のありがたみもない。
さて、僕らは湖のほとりをゆっくりと歩いていった。
あたりの空気は初秋の夜のような冷え方をしていた。独特の静けさと、寂しさのある肌触り。そんなとき共に歩く者がいれば、それがどんなゴミ散らかしたハゲでも愛おしくなってくる。されど田中は僕のことなどまるでどうでもいいらしく、さりげなく握った右手を左手で握り返してはくれなかった。
湖は少しずつ浅くなり、底に見える赤い地面は色を濃くしていった。
「そろそろ穴猫が出てくるはずなんだが。どうも見ないね」
田中が言った。僕らは湖を通り過ぎ、小さくて細い、天井の低い道を這うように進んでいた。穴猫というやつを、僕は一目見てみたいと思った。いじらしいフォルムをしていることだろう。なんなら指にこびりついたままの穴ワカメを喰わせてやらんでもない。
「あー、わかった。どうも穴ウサギが大量発生しているみたいだ。これじゃあ穴猫は怯えてでてこないよ」
田中が指差した先には、壁に開いた穴に必死で腰を打ちつける穴だらけのウサギが七羽まとまっていた。あまりに打ちつけるものだから、紅色の壁はびくびくと弾み、その粘膜は逃げ場のない平面でのたうち回っているように見えた。