かきわけた
僕らはそのうち腹が減り、その汚らしい穴クラゲを食べて飢えをしのがねばならなかった。田中の奴は何故か穴クラゲの食べ方を知っていて、それはフリルの部分をマカロンから切り離す、というものだった。食べるのはフリルの部分のみで、真ん中のまるいところは捨てる。食べると死ぬからだ。穴クラゲのフリルはソフトさきいかのような味がして、いまいち腹が膨れない。
僕らは失ったからだの一部を探すため、穴の中を歩き回った。ときおり壁に穴が開いていて、そこを触るとやはりつぷぷと沈んでとろける心地がしたが、「今度は死ぬぞ」と田中に止められた。
田中はここで生まれ、ここで育ったから、ここのことはなんでも知っている。
田中の父親は穴の中の壁の穴に取り込まれて死んだらしい。
「ところで俺たちは何故互いを知っているんだ?」
どちらともなく言ったので、どっちがどっちに問うたのか考えるために僕らは少し立ち止まった。
「野暮だね」
田中が言った。その通りだ。この質問は野暮だ。僕らはなんとなく、暗黙の了解でこれを進めていかなければならない。とりあえず、田中は田中である。そんな田中がまた僕に教えてくれた。
「そろそろ穴蝉の羽化する頃合いだね」
気づくと僕らはそよそよとたなびく不気味な突起をかきわけて進んでいた。突起はやわらかくて簡単に踏み越えてしまえる、が、いかんせん数が多い。僕は苛立ってしばしば千切ったり潰したり蹴りつけたりしたものの、臭い汁を浴びる目に遭ういうことでそのうちしなくなった。
どうも意識しないうちに、いつの間にかここにきたような気がする。背後を振り返ると、視界に捉えられる範囲はすべてこの地面、壁、天井だった。
やがて僕は踏みしめる足の裏に違和感を覚えた。田中が足下を指差して言う。
「見てみなよ。穴蝉が穴から這い上がってきている」
穴蝉はようやっと外に顔を出したが、その顔がどうもいけすかない様子だった(いわゆる世間的な「賢さ」がしみだしていやがった)ので僕はかかと落としをお見舞いしてやった。
穴蝉は「ララ」と歌い、羽を散らして死んだ。