みつけた
とてもキモチいい穴を見つけた。
それは庭にあるような普通の穴ではない。床をうがったわけでもないし、道路に作られていたわけでもない。まして女の穴でも、男の穴でもない。
ある朝目覚めて起き上がったとき、ちょうど首のあたりにそれがひっかかった。
それは穴だった。
穴は穴としか言えない穴だった。
穴の入口は、床に対して垂直にひらいていた。
ちょうど座ったときのアゴの位置。立ってときはだいたい腰のあたりにくる。
入口は黒くて、中は暗いからよくわからない。
指をつぷりと入れてみて僕はすぐに悟った。
悟るや否や、とうぜん僕はそこにペニスを挿入した。
あらゆるリスクは後から思い当った。
その「後」というのはずいぶん後のことだ。およそ二〇時間は経っていたと思う。僕はその間ずっと、とろけていた。それは女の粘膜より何千倍も良い塩梅の、なによりなまぬるくて、やわらかで、包みこむ、穴だったのだ。
その体験はある種、知的な行為だった。すべての快感を凌駕した僕は、この世のすべてを知ったも同然だった。僕は全知の生きた神で、圧倒的優越を感じた。僕は感じたすべてを、それが薄くのびて流れ去ってしまうまで、幾度となく反芻した。そして悶えた。あるいは絶叫していたかもしれない。ひたすらにとろけて、溺れていた。
ようやくそれが落ち着いて、僕は穴に恐怖を抱いた。
まず、なんなのだこの穴は。
どこに通じているのか。なにで出来ているのか。どうして空間に浮いているのか。
次元を超えているのか。現実を超えているのか。僕の妄想の暴走か。
なにをしやがったこの穴は。
僕が恐怖と、怒りと、それともうひとつ寂しさのようなものを感じた理由は――やはり、挿入したペニスが溶けてしまっていたからに他ならない。
ペニスがあった空間を右手で何度か撫でまわす。穏やかな恥丘が広がっていて、その先はつるりと内側にカーブしている。穴は尿道をどこへやったのか。僕は得たいのしれない攻撃におそれおののいたが、しばらくの逡巡のあと、穴のことだから穴は穴として穴の中に持ち込んでくれたのだと推理した。
つまり今日以来、僕が放尿あるいは射精したとき、液体はこの穴の内側に放たれる。
まあそれはそれでよしとしよう。しかし、穴に入れたもうひとつの棒状、僕の右人差し指も溶けてなくなっているのにはむかついてしまう。
僕は穴を睨んだ。穴は吸いこまれるような瞳をしている。僕は見つめ合って、それから奴の眼球へ手を伸ばして、穴の中へつぷりつぷりと潜っていた。右の指、手、肘、肩、右半身までぬるりと浸かった。あとは少しからだの力を抜いてやると、ぼくはつぷりつぷりつぷり、やわらかく沈み込んでいったのだった。