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キーナの魔法  作者: 小笠原慎二
始まりの旅
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女の子の事情

朝の光が柔らかく大地を照らし始める。早起きの鳥たちがさえずりだし、世界は活動を始める。とても平穏な朝であった。


ガバッ


と跳ね起きたキーナ以外は。

窓の外では小鳥達が朝の唄を歌っている。しかしキーナの顔は険しかった。


(…嫌な予感)


とそっと布団をめくる。ほっと溜息。無事であった。しかしこのままでは時を置かず、予想した通りの事態になってしまうだろう。


「どうしよう…。こればっかりはテルでも…」


さすがに用意などしていない。いきなり来たというか飛ばされたというかだし。全くもってこういうことに対しての何らかの処置の仕方を考えておいてくれるとか、いっそのことなくなっちゃうとか、どうにかして欲しいものだ。

とぶつくさ言ってもなくなるものでもなし。しかしこの予感は確実であろうから、とにかく何かしらの対処をしなければならないというのが現状である。したがって、誰かに聞かねばならない。


「女将さんとか教えてくれるかな…?」


この世界の人たちはどうやって処置しているのだろう? 考えながらキーナは下へ降りていった。

サンスリーを抜け、フォースを通り越したところで日が暮れ、途中にあった宿に泊まったのだ。

時々街から離れたところで日が暮れてしまったという人がよく来るらしい。店はほどほどの混み具合を見せていたが、今は早朝ともあって誰もが寝ている。階下から時折聞こえてくる物音は宿の人達が朝の支度をしている音であろう。

階段を下りるとすぐ食堂だ。宿屋兼お食事処。こういうところではこれが普通の造りである。

窓から見えた井戸の所に女将さんらしき人がいた。どうやって行こうかと奥に続く廊下を覗くと、突き当たりに扉があるのを見つけた。裏口だろう。そこからキーナは外に出た。


「あのう…」


おずおずと声を掛ける。女将さんはキーナに気付くと朝の爽やかな空気のような笑顔を向けて言った。


「あら、ぼうや、おはよう。よく眠れた?」


キーナはずっこけた。


(そんなに僕って男っぽく見えるのかな?)


確かに髪はベリーショートだし、まだ発達途中で出るところも引っ込むところもないけど…。自分で言ってて空しくなっていく。落ち込んでいても仕方ない。


「あの、実は…」


と女将さんの耳にぼそぼそとなにやら耳打ちする。それを聞いた途端、女将さんが驚いた顔をした。


「ご、ごめんなさい!てっきり、その…」


となにやら謝った。


「あっと、そんなこと言ってる場合じゃないわね。いいわ、とりあえず私の使いなさいな」

「あ、ありがとう」

「いらっしゃい」


女将さんがキーナを促し宿屋に入っていった。

全くもって女の子は大変なのである。















食堂の席が半分くらい埋まっただろうか。起きてきた者達が欠伸をしながら席に座り、注文を取っている。既にキーナ達は食事を半分近く終わらせていた。

テルディアスは少し感心していた。キーナが呼びに行く前に既に着替え終わり、支度を済ませていたことに。サンスリーでは夕飯の時に起こそうとして苦労したのだ。

何となくそわそわしている感じがするが…。


「キーナ」


唐突にテルディアスが話しかけた。


「な、ななな、何?!」


明らかに挙動不審なほどにビックリしながらキーナが答える。


「いや、今日は頑張ってロックスまで行こうと…」

「あそ…」


と力なく返す。

不審に思って、


「何をびくついてるんだ?」


と聞くと、またまたびくつきながら、


「べ、別に!」


と返してきた。明らかに何かおかしい。

なんだかいつもより顔が青いような、ひや汗なんかも出ているような…。


「ロックスまで行くのかい?」


女将さんが残りの注文の品を運んできた。途端に反対の方を向くテルディアス。お前の方が挙動不審だ。まあ、食べている最中はマスクを外しているから仕方がないのだが。


「あ、はい」


とキーナが代わりに返事する。


「ロックスまでは遠いよ? せめて今日はゴイブにでも落ち着いたら?」

「急ぐ旅なんで」


テルディアスは相変わらず壁の方を向いて女将さんを見ようともしない。

そんなテルディアスに気付いているのやらいないのやら、キーナをジロジロと女将さんは見ながら、


「そお?」


と言った。何か言いたげな顔をして。












勘定を済ませ宿屋を出る。女将さんが、


「気をつけてね」


と見送ってくれた。何故一介の旅人にここまで親切なのか? テルディアスは不審に思った。


「ラッキーだね! 近道教えてくれるなんて!」


いつもの調子でキーナがるんるん歩いている。先程の挙動不審は何だったのだろう?


(ラッキーってなんだ?)


とテルディアスは思ったが気にしないことにした。


「だが、山賊が出ると言っていたぞ」


女将さんが言うにはその道を通ればかなり近道になるらしいが、少し険しい山を登らねばならず、よく山賊も出るということであまり使われなくなったらしい。時間はかかるが安全で楽な道を皆行くのだ。

余程の急ぎか、腕に自身のあるものしかあまり通らなくなっている。道には『山賊注意』の立て札があるからすぐ分かるだろうということだった。


「だーいじょうぶ! 僕がイラテマでやっつけてやる!」


とガッツポーズをとるキーナ。それを見て余計に不安になるテルディアスだった。


「四大精霊の御名は覚えたのか?」


というと、キーナはギクリとして、


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・い、イラ!・・クア!・・カウ!・・・う、ウル!・・・だ!」

「やっと覚えたか」


本当に『やっと』である。


「ねぇ~、覚えたんだからさぁ、新しいの教えてよぉ~」


とすり寄ってくる。


「そうだな」

「本当?!」

「精霊呪文を覚えたらな」


キーナは頭を抱えた。まだ覚えることがあるの?


「何事も基礎が大事なんだぞ」


さらっと嫌味を乗せてテルディアスが言った。


「テルのケチ!」


キーナがテルディアスを後ろから蹴りつけた。


「何をする!」


そして二人の珍道中は続いていく。


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