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キーナの魔法  作者: 小笠原慎二
奴の名はサーガ!
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かまくらにて

雪山。


当然雪があります。

雪があるということは、雪が降ってくるということ。


夕方頃に怪しくなり始めた空から、ちらほらと雪が舞ってきたかと思うと、風が吹いてきて、これは誰が何と言おうと吹雪という状態なのであろう、という事態になった。

さすがにこんな中歩いたらあんた死ぬ気か?と問われるほどに遭難する確率が高いので、風が吹いてきた時点で男二人の提案により、簡単なかまくらを作りその中に避難していた。


持っていた携帯食料をほおばり、あとは各々のマントにくるまって寒さを凌ぐ。

空気用の穴から時折冷たい空気が流れ込んでくるが、かまくらの中はそれほど寒いものでもなかった。

体育座りの格好で、その膝に頭を乗っけて、器用に眠りこける、一見女にはさっぱり見えない少女、キーナ。

その姿を眺める男達の感想は、


(器用な奴…)


一致していた。


「よくこの状況で、んな態勢で寝られたもんだ」


サーガがポツリと呟いた。


「まったくだ」


テルも思わず呟いた。


同意を得られるとも思わず、特に得たいとも思っていなかった相手からの一言に、少し驚き、キモいなこいつという正直な顔を作ってテルを見つめるサーガ。


同意しようと思ったわけでもないが、なんとなく反射的に口から言葉が出てしまい、そんな自分がキモいなと思いつつ、痛い視線を受け止めるテルディアス。


視線を外し、お互いに距離をしっかり取りつつ、気持ちを治めあう二人。

外の吹雪の音も、少しおさまってきたようだ。

明日の朝にはここを立つこともできるだろう。


「それよりもお前、キーナに変なことはしていないだろうな」


サーガに鋭い視線を送りつつテルディアスが問いかける。


変なこと?


ちょっとムッとしつつテルディアスの方を見ると、鋭い視線どころか殺気を漂わせてこちらを睨んでいる。

おかしな答えでもしたら即斬られてしまいそうだ。


「してねーよ!」


正直に答えた。

実際にしてないのだから嘘はついてない。

してないというか、手を出せなかったというか…。


「そうか…」


少しの疑問は残るが、なんとなくちょっぴり煮え切らないような顔をしているサーガを見て、なんとなくだがその言葉に真実味を覚えた。

きっとできなかったのだ…。同類相憐れむ。

置いといて。


そしてサーガは思い出した。

テルディアスといば、巷では有名な…


「テルディアス、お前…、男色家って噂が…」


身の危険を感じ、さらにテルディアスから距離を置こうとするが、狭いかまくらの中では限界がある。


「違うわ!!」


テル君つっこんだ。

誰が男が好きなものか! ちゃんと女好き…

続けられない心の内の声を無視し、テルディアスがサーガに問いかけた。


「それよりもお前、なぜ俺に斬りかかった? 信用第一の仕事だろ? 契約を破ってまでなぜ俺を殺そうとした?」


傭兵という仕事は世知辛い。きちんと契約を結んでおかないと、過剰労働させられたり、下手をすれば難癖をつけられて契約通りの給金を受け取れないこともある。

なので契約内容はしっかりこなす。それ以上はやらない。それが傭兵の心得である。

少し考えた後、サーガが呟いた。


「女の為だよ」

「女?」

「昔の女の為に、お前の首を取って名を上げようとしたんだよ」


こんなに騒いでいるのに気付かず眠りこけるキーナ。

そんなキーナを少し寂しそうな瞳で見つめがらサーガが言葉を続けた。


「死んだあいつに俺がしてやれるのは、それくらいだからな…」


昔の死んだ女…。

テル君の顔が曇った。

死んだ…。


『テルディアスというの? 私は―…』


一人の女性の顔が浮かんで、消えた。

俺が…、俺がいなければ…、彼女は…


「それよりお前、本当にダーディンじゃないのか?」


ダーディンという言葉に反応し、テルが言葉を荒げる。


「俺は人間だ!」


幾度となく叫んだこの言葉。

だが、誰も耳を貸してはくれなかった。

たった一人を除いて。


「ま、こいつがいなきゃそんな話信じられなかったがな」


顎でキーナを指す。

すやすやりんと眠りこけるキーナ。

本当に起きないなこいつは。


少々複雑な顔でテルディアスは目の前の少女を眺めた。

この少女がいなければ…、この少女と出会わなければ…。

自分はいまだに孤独のまま、森を這いずりまわっていたかもしれない…。

一旦収まる気配を見せた風が、また強く吹き始めた。


この次のお話は、漫画で載せるつもりなのですが、あまりにも遅くなるようだと、小説ものっけることになると思います。遅筆ですいません。

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