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キーナの魔法  作者: 小笠原慎二
はぐれ闇オルト編
296/332

サーガはどこ?

前回のあらすじ~

キーナが暴走。どうにもならない所に現われた黒い服の腕。誰?

「キ…ナ…」


虚ろな目をして佇むキーナを、テルディアスが覆い被さるようにその体を抱きしめていた。


バキィン!


「ぐあああ!!」


体は半分以上元の色を取り戻し、髪も黒く、耳も丸くなっている。激痛を堪えながら、テルディアスはキーナの体を強く抱きしめる。


「キィ…ナ…」


テルディアスの声が届いたのか、キーナの瞳に光が戻る。

途端に、広がり続けていた光のドームが一瞬のうちに消え去った。

失われていた色が、音が、風が戻る。

激痛が消え去り、テルディアスがよろめきかけた。なんとか足を踏ん張り、体を支える。


「テル…?」


正気を取り戻したキーナが、ぼんやりと疲れた顔でテルディアスの腕の中からテルディアスの顔を見上げた。


「キーナ…」


呪いがほとんど解け、元の人の顔に戻ったテルディアスがそれを見下ろす。

キーナがそっとテルディアスの顔へと手を伸ばした。


「本当だ…。黒い…」


そしてそのまま、テルディアスに体重を預けるようにして目を閉じた。テルディアスはその体を優しく抱き止めた。















「う…」


光が消え去り、激痛が治まる。ダンは地面に倒れ込んだ。

痛みと疲れ、そして魔力のほとんどを失い、体を動かすことが出来ない。だがしかし、


(治療…)


サーガの傷が心配だ。早めに治療を施さなければならないだろう。

無理矢理瞼を持ち上げる。ぼんやりとした視界に、黒い影が2つ転がっているのが見えた。はぐれ闇の2人もあの光に巻き込まれたのだろうか。何故空間に逃げなかったのか不思議に思う。しかし今はそれどころではない。

3人を地上に出さなければと顔を巡らす。その視界にキーナを抱いたテルディアスが見えた。どうやら2人は無事なようだ。地面に手を当て、3人の気配を探す。しかし何も感じられない。


(魔力が…)


ないのだ。

魔法が使えないならばせめて手でと手を伸ばした所で、ダンは気を失った。














(まずい…。動けない…)


オルトも焦っていた。今の光に当てられて激痛を味わい、体力魔力共にごっそり奪われた。

なんとか開いた視線の先では、青い顔をしたルーンが同じように転がっている。

魔力が無ければ空間を開くことも出来ない。しかし早くどこかに身を隠さねばと焦る。

闇の力が使えなければ、2人もただの人間だ。先程テルディアスとの繋がりが切れた事も分かった。呪縛から逃れたテルディアスが、動けない2人をどうするかは目に見えている。

テルディアスもあの光に飲み込まれたのだから、すぐにどうこうということはないかもしれない。しかし早くどこかに身を隠さねば、向こうが先に動けるようになったら非常に不味い。


(くそ…くそ…!)


落ちそうになる意識を、必死に繋ぎ止めていた。















キーナをそっと地面に横たえる。

体中からパキリパキリと嫌な音がする。この後に起こるだろうことを予想し、キーナから少し離れる。


「ぐぅ…」


再び全身に痛みが走る。先程とはまた違う痛み。


「う…ああああああああ!」


そして、闇の力がテルディアスの体を覆った。

少しして闇が晴れると、銀髪、青緑の肌、尖った耳のテルディアスの姿。再びダーディンの姿に戻っていた。


(あれだけ剥がれていたのに…。解けないのか…)


8割か9割近く闇の呪いは禿げていた。にも関わらずまたダーディンの姿に戻ってしまった。なんと強力な呪いなのか。

荒げた呼吸を整える為、体勢を楽にする。さすがにすぐには動けない。

周りを見渡せば、あの時と同じように更地になった地面が広がっている。あちらに見える緑のものはきっとダンだろう。向こうに見える黒い2つの影ははぐれ闇の2人だろう。どうやらあの2人も光に巻き込まれたらしい。今ならきっと動けないだろうから、トドメを刺しに行くのは簡単だろう。

だがしかし、こちらもまともに動けない。距離的にはあのはぐれ闇の2人が一番キーナから遠い場所にいる。もしかしたらあちらの方が回復が早いかもしれない。

下手に野放しには出来ないが、今は何もできない。動けるようになってから考えることにする。それよりも、その他3人の姿が見えない。あれほどに目立つ赤青黄色。いればすぐに分かりそうなものだが…。

周りを見渡していたテルディアスの視界の一画で、地面がボコリと盛り上がった。


「ぷはぁっ! 誰ですの?! 地面の下に埋めるなんて!」


少女の甲高い声が響く。どうやら無事なようだ。

キョロキョロと周りを見渡し、


「な、何があったんですの…?」


まっさらの更地になってしまった周りを見て驚いているようだ。


「! テルディアス様?!」


少し警戒したような顔になる。しかしキーナの側で大人しく座っているのを察したのか、すぐに表情が和らいだ。


「テルディアス様…? 正気に戻られたのですの?」


シアの言葉にやはり意識を刈り取られていたのかと思いつつ、こくりと頷いた。


「て、テルディアス様ぁ~!」


シアが両手を広げて涙目になりながら走り寄ってきた。思わず手を出すテルディアス。拳にしなかっただけ褒めて欲しい。


「テルディアス様…」


テルディアスの胸に飛び込もうとしたシアの頭を掌でがっしりと固定して、それ以上近寄らないようにする。


「こ、こっちはいいから、ダンの様子を見てきてくれ…」


微妙に気まずいものを感じながら、テルディアスはシアを遠ざける為の案を出す。いや、ダンが心配だからだよ?


「は! ダンは?!」


再びキョロキョロしだすシア。

テルディアスが指さす方を見て、ダンに気付いた。


「ダン!」


シアがダンに向かって走って行った。

テルディアスはほっとして息を吐き出した。

一度根付いた苦手意識はそう簡単には取れない物である。















「ぷはぁっ!」


再び地面が盛り上がり、今度はメリンダが這いだしてきた。


「何よこれ、なんで埋まってるのあたし」


体に付いた砂などをはたき落としながら、周りを見渡す。


「これって…」


メリンダの顔が青くなる。メリンダは一度経験している。あの港町のことを。


「ダン! ダン!」


シアが倒れているダンを揺すって起こそうとしていた。ダンの顔も青い。メリンダはなんとなく状況を理解した。

キーナの側に座っているテルディアスを発見し、よっこらと立ち上がりそちらへと歩き出す。テルディアスに殴られた腹が地味に痛い。後で文句を言っちゃろうと記憶に刻みつけた。

女性は特に嫌なことは記憶に残し、あとでぐちぐちというのが得意なのです。(いらん情報)


「テルディアス?」


若干疑問形なのは本当に正気に戻っているのか確かめる為。


「ああ」


察したのか、テルディアスはメリンダを見上げてこくりと頷いた。

ほっとするメリンダ。お腹も痛いのでテルディアスの側に腰を下ろした。


「まさかとは思うけど、キーナちゃん?」

「ああ。また暴走した」


テルディアスの肯定の言葉に、苦しそうな顔をするメリンダ。やはり闇の御子が見つかっていないせいなのか?

そこでふと気付く。


「サーガは?」


周りを見回してもその姿は見えない。どこかへ逃げたのだろうか?


「分からん。だが、お前らが埋まっていたということは、奴もどこかに埋まっている可能性がある」


お前ら?

メリンダが首を傾げる。自分と、あと考えられるとしたら、あそこでダンの介抱をしようとしているシアだろう。ダンの体が大きいので動かすこともできずオロオロしている。

そこでメリンダは先程思ったことが当たっていたと確信する。

最初にテルディアスに吹っ飛ばされたダン。途中で意識を取り戻していたのだろう。そしてキーナが暴走し始めた時点で、気を失って倒れている3人を地面の下に埋めたと思われる。きっとあの悪寒をダンも感じたに違いない。今ここで自分がそれほど痛手も受けずにぴんぴんしているのが何よりの証拠だ。


「じゃあサーガも…」


このどこかに埋まっている。しかしどこに?それに、何故いまだに出てこないのか。

なんだか嫌な予感がしてメリンダは立ち上がる。


「ダン! 目が覚めまして?」


シアの声に反応したのか(うるさかったからかもしれない)、ダンが目を開けたようだ。そして震える手をとある方向に向けて突き出した。


ボコリ


地面の一カ所が盛り上がった。


「ダン!」


シアの声がして、ダンがまた意識を失った。よほど魔力が枯渇しているのかもしれない。

メリンダが地面が盛り上がった場所へと急ぐ。先程自分が埋まっていた場所からあまり離れていない。嫌な予感が強まる。最後にメリンダが見たサーガが倒れていた場所と全く違う場所だ。そこにはキーナがいたはず。

お腹の痛みも忘れて駆け寄り、夢中で地面を掘り返す。それほど深くは埋まっていないので、すぐに黄色い頭が見える。


「サーガ!」


夢中でサーガの頭を掘り出す。その顔色の白さに血の気が引いた。


(何、なんでこんなに…)


死人のような気色。メリンダがサーガの体を覆い隠す土をどんどんとどけていく。


「!!」


息を飲んだ。真っ赤に染まった背中。そしてその下に広がる赤い色。


「いやああああ!! サーガ! サーガ!!」


気が動転し、サーガの体を揺さぶってしまう。ぐじゅり、と嫌な音がした。慌てて手を放す。


「やだ、いやよ…。そうだ、ダン!」


治療のエキスパートのダンの名を呼び振り向くが、ダンも青い顔をして気を失っている。メリンダの顔からも血の気が引いた。


「そんな…。嫌よ…。誰か! 誰か…!」

「どうしたんですの?!」


メリンダの異様な雰囲気に、シアが駆け寄ってきた。シアの視界にサーガの惨状が飛び込んできた。


「なんてこと…!」


シアが慌ててサーガの側に座り、回復魔法を掛け始める。


「治せるの?!」


回復魔法はほとんど使えないメリンダが、シアにすがりつくように問いかける。


「ちょっと静かにしていてくださいまし!!」


シアのいつもと違う気迫に、メリンダが口を閉じる。いつの間にかその両目から涙が流れていた。


「サーガ…」


祈るようにメリンダが手を合わせ、目を閉じる。

異様な雰囲気を感じ取ったテルディアスも、キーナを抱えつつ側にやって来た。サーガの惨状を見て顔を顰めた。


(これは…)


よくは分からないが、刀傷に見える。いや、そうとしか見えない。この場で剣を持っているのは、サーガを抜かせばテルディアスしかいない。つまり、テルディアスがサーガの背に剣を突き立てたということになる。

さすがのテルディアスも良い気はしない。テルディアスが剣を抜いていたということはそれに応戦していたのはサーガだろう。サーガ以外にテルディアスの剣を受けられる者はいない。つまりサーガはテルディアスの攻撃を一身に受け、キーナ達を守っていたのだ。

側にキーナの体を横たえ、サーガの様子を見守る。しかしその白い顔が血の気を取り戻す気配はない。


「駄目ですわ…。私では…」


シアが魔法を掛け続けながら唇を噛む。


「そんな…」


メリンダの顔も青い。ダンに目を向けるが、眼を覚ましそうにない。かと言ってテルディアスもこんな重傷を治せるほどの腕前はない。そして眠るキーナも今は魔法が使えない。

八方塞がりだ。


「これだけの重傷ですと、やはりダンでなければ難しいと思いますわ」

「でも…でも、ダンは…」


魔力切れで気を失っている。多少回復した程度で治せる傷とも思えない。できるだけ万全の状態でなければ、ダンでも難しいだろう。


「ダンの回復を待っていたら…、不味いかも知れませんわ」

「!」


メリンダの顔が青を通り越して白くなった。フラフラと倒れそうになるのを、テルディアスが支えてやった。テルディアスにしては珍しく優しい。それなりに責任を感じているのだろうか。

シアが目を閉じ、何かを決意したかのように目を開けた。


「何より、血を流しすぎていると思いますわ。ですから、輸血をすれば多少はもつかもしれません」

「輸血?」


聞き慣れない言葉に、メリンダが言葉を繰り返した。


お読みいただきありがとうございます。


なんと、前より考えていたお話を勢いに任せて書いてしまいました。

「妖しのハンター」ろよしくです~。

キーナもまだ終わっていないというのにどうするんだとちょっと慌てている所です。

とにかくなんとか書いていこうと思ってます。

思ってます。

思ってます・・・。

思っているだけです・・・。

ふふふのふ・・・。

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