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キーナの魔法  作者: 小笠原慎二
テルディアス過去編
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魔女の城

王都への道筋を順調に進んでいるはずだった。


「くそ! どこで間違えたんだ!」


いつの間にか森の中に迷い込んでいた。

行く道も帰る道も分からず、ひたすら歩き続ける。


(王都への道は一本のはずなのに、どうやったら迷うんだ!?)


ガサガサと草木をかき分けかき分け、森の中を進んでいくと、突然、目の前に大きな屋敷が現れた。


「城? 屋敷か?」


城とも呼べるほどに大きいその屋敷。

なんだか嫌な感じはしたが、とにかく道を聞かなければならない。

屋敷の入り口と思わしき扉をコンコンと叩いた。

不思議な音の広がりを感じた。


ギイ・・・


すぐに扉は開かれた。


「お待ちしておりました」


金に近い髪の色をした、少したれ目の好青年が目の前に立っていた。


(お待ち・・・?)


言葉の違和感を感じたテルディアスではあったが、今はそんなことを気にしている場合ではないと、口を開きかけた。が、


「どうぞ、遠慮なさらずに」


先に目の前の男が、意味不明の言葉を吐き出す。


「あ、いや、俺は…」


弁明しようとするが、


「こちらです」


そう言って男はすたすたと屋敷の中へ向かって歩いていってしまう。


「おい! ちょっと!」


慌ててテルディアスは後を追った。

とにかく道を聞かなければ王都へ行けない。


「待ってくれ!」

(誰と間違えているんだ?)


まさか本当に自分のことだとは思わない。

男を追ってテルディアスはどんどん屋敷の中へ入っていく。


「こちらです」


ある部屋の前で男が立ち止まり、促すように振り向いた。


「いや、だから、俺は…」

「お待ちしていましたわ。テルディアス・ブラックバリー★」


テルディアスの言葉を遮るかのように、女の声がこだました。

見ると、部屋の中央に、長い黒髪の、美しい女が座っていた。

着ているドレスも真っ黒で、部屋の中も何故か薄暗い。

しかし、何故かその女だけははっきりと見えた。


「何故俺の名を?」


初めてテルディアスは警戒心を覚えた。

違和感がある。

この場所に。

この女に。

何故ここまで来るのに気付かなかったのか。


「あなたは有名ですからね♪」


案内してきた男が、テルディアスの背中を押した。


「うおっ」


急に押され、テルディアスは部屋の中へ入ってしまった。

それを狙っていたかのように、どこからか触手のようなものが伸びてきて、テルディアスの両腕を捕らえた。


「な、なんだ?!」


触手はテルディアスの腕をギリッと締め上げる。


「ぐうっ!」

「あら、だめよ。もっと優しくしてあげて◇」


女がにっこりと微笑んだ。


「何の真似だ!」


近づく女にテルディアスが吼える。


「あら、怒った顔も素敵☆」


女が嬉しそうにテルディアスの顔に手を伸ばす。


「ますます私好み♪」


テルディアスが女を睨みつける。


「あなたは選ばれたのよ。私のコレクションに」


女が手を広げる。

すると、今まで何もなかった部屋が突如暗闇に変わり、何か透明な箱のようなものに入れられた人影が数体、現れた。


(なんだあれは?!)


よく見ると、その人影は全て男だった。


「気に入った男を水晶に閉じ込めて集めてるのよ♪ いい眺めでしょ」


女はさも嬉しそうに水晶体を眺める。


「時々出して遊ぶの。今はこれ」


先程の案内してきた男が女に寄り添う。

その目は虚ろで、何も映っていないかのようだった。


「さ、あなたもまずは心を封じるためにそれをお飲みなさい。最初はちょっと苦しいかもね☆」


にこやかに女が告げる。

と、どこから持ってきたのか、男の手に、壷のような物が握られていた。


「ふざけるな! 誰が!」

「お館様に従え」


有無を言わさず、テルディアスの口が開けられ、よく分からない液体を流し込まれた。

たまらずゴクリと飲んでしまう。

その途端。


「がああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


テルディアスが絶叫した。

頭の中が。

手足が。

体中が。

みしみしと音を立て、激痛が走る。


「っあう!!」


苦しみ悶えるテルディアスの姿を見て、女が官能的な表情をする。


「ああ…、いい…」


自分の体を抑え、湧き上がる衝動に身を任せているようだ。


「そそられちゃう…♪」


ぞくっとするような情熱的な瞳をテルディアスに向けたまま、女が自分の唇を指でなぞる。


「ぐ・・・・あ・・・・・」


激痛で、言葉さえまともに出てこない。

その苦悶の声さえ、女には甘美に聞こえているようだ。


「レイ、私達も楽しみましょう♪」

「はい。お館様」


二人はそう言って連れ添いながら、テルディアスを後に、部屋を出て行った。


「ま・・・ち・・・、やがれ・・・・・」


二人に向かって、テルディアスが言葉を絞り出す。

だが、その言葉を聞いているものはもう誰もいなかった。


「くそったれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


テルディアスの最後の足掻き声が、部屋にこだました。


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