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キーナの魔法  作者: 小笠原慎二
狙われる御子
208/332

暗転

「光の枷だよ」


扉が開き、1人の男と、仄かに全身を光らせた女性が入って来た。

女性は被り物の上に口元を布で覆ってしまっているので、目しか見えない。

男の方は20代くらいか、金髪碧眼、整った容姿。高圧的な態度と来ている。


(く…、ちょっといい男…)


メリンダ、自重しましょう。


「なんだてめえは!」


見るからに分かりそうなものだけれども、サーガが声を上げた。


「無礼者。この方はこの国の王、ラハルト陛下だ」


女性が声を張り上げると、光の枷が少しきつくなった。

サーガが女性を睨み付ける。


「何故…、光の者がいる?!」


仄かに光を放ち、光の力を操る。

そんなことが出来るのは光の者しかいない。

だが光の者は、発見され次第、光の宮に連れて行かれるはずだ。

なのにその女性は当たり前のようにその場に立っていた。


「この者はこの国で生まれた光の者だ。この国の民をこの国に住まわせる事に何の不思議がある」


王が当然のごとく言い張る。


「それにこの者がいれば、光の恩恵を受け続ける事が出来るだろう? 子を成して増やそうとしたのだがな。子のできにくい体質らしく、まだ1人も出来た事はない。まったくの誤算だ」


女性が少し顔を俯かせた。

その瞳は少し悲しそうに、どこかをボンヤリと見ているようだった。


「ん?」


王がテルディアスに気付く。


「ダーディン? 何故ダーディンなど卑しい存在がここにいるのだ? 穢らわしい!!」


テルディアスの顔が歪むが、枷は外れない。


「ほう…」


一番戸口に近い所に貼り付けられているメリンダを見て、王が溜息を漏らした。

燃えるような赤い髪、挑むような目つきの赤い瞳。

胸の双丘は文句なしに張り出しており、引き締まった腰からなだらかに膨らんでいく曲線は見事なもので、しかもそれを見せつけるかのように必要最低限しか隠されていない。

男ならば誰でもその肢体に魅せられるであろう。


「フム…、女、特別に我がハーレムに入れてやろう」


王の言葉に、メリンダの顔が可笑しそうに歪んだ。


「おあいにくさま。そんな檻に入れられるなんてゴメンだわ。あたしあんたみたいな口だけの自尊心ばかり高いだけの男は嫌いなのよ。感じてるフリ(・・)するのも疲れるってもんよ」


ハン、と鼻で笑う。

王の笑顔が少し険しくなる。


「面白い…。そなたには特別な調教をしてやろう」

「できるものならやってご覧なさい。ヤケド(・・・)するわよ」


王とメリンダが睨み合う。

そんな2人を眺めながら、何故か冷や汗をタリタリと垂らしているサーガ。


(感じてる…フリ?)


さすがのサーガもベッドの中でのことは、演技か本気か分からないらしい。

いや、それどころではなくて。


「まあよい。今はそれよりも光の御子様だ。程よく薬も効いていい気分になられているだろう」


王がキーナの寝ているベッドへと向かう。


「ちょっと! キーナちゃんに触んじゃないわよ! 指一本でも触れてご覧なさい!大事な所を灰に…フグゥ!」


メリンダの口元に光の枷が現われ、口を塞がれてしまう。


「口を慎みなさい」


女性がメリンダを睨み付けた。


(光…!)

(光…)

(…)


例え今魔法が封じられていなかったとしても、四大精霊の上位にある二神精霊の力には、四大精霊の力では抗う事は出来ない。

なんとか枷を外せないかと藻掻く3人であったが、それはビクともしなかった。


「貴様らのような下賎の者が御子様のお側に近づくでないわ。御子様が穢れてしまうではないか。御子様のお側には、私のような高貴な血の者が相応しい」


王が横たわるキーナを見下ろす。

その視線に気付き、キーナが顔を歪めた。

とてつもなく嫌な感じがするので這ってでも逃げ出したいのだが、体に力が入らない。

ただ顔を、テルディアス達の方へ向けるしか出来なかった。


ガッ・・・グッ・・・


「!」


光の女性が意識を集中させた。

テルディアスの力が一層強まる。


(こいつ…。なんて力だ…。光の枷を解こうとでも?!)


外れる訳がない。

そのはずなのに、テルディアスはより一層力を込めていく。


ザワリ・・・


(! バカな! 四大精霊の力は封じたはず!)


二神精霊の力でもって、今この辺りは四大精霊の力を使えないようにしてある。

のはずなのに、何故か貼り付けられている赤い女と黄色い男の周りで、四大精霊の気配が強まる。


(なんなんだこいつらは…!)


女性が3人への警戒心を強めた時、


「おい、早くそやつらを連れて行け」

「は、はい」


王から早く3人を牢へ入れに行けと指示される。

枷を操れば、3人を連れて行く事など容易い事なのではあるが、女性は少し躊躇う。


「私はこれから御子様と大事な用があるからな」

「はい…」


大事な用。その言葉を聞いて女性の顔が曇った。

女性にとっては苦痛以外の何物でもないその行為。

そして、これから御子がその餌食になろうとしている。

御子にその役目が渡れば、もしかしたら女性はその任を解かれるかもしれない。

しかし、年端もいかぬ少女、ましてや御子という存在を、ただ一国の王というだけの人物が汚していいものなのか。

しかし女性に選択権はない。

大人しく3人を連れ出そうと意識を変えるが、


「やめろ!!」


ダーディンの声に気圧され、足が竦んでしまう。


「キーナに…、触れるな!!」


怒りのオーラが見えるかという迫力に、王も一瞬気圧され、固まってしまう。

だがしかし、相手は光の枷に捕らわれ、身動きできないのだと気持ちを奮い立たせる。


「ダーディンごときが何を言う…。光の御子様の血が我が王家に入れば、この国に永遠の繁栄をもたらしてくれるであろう」


王の手が、キーナの体の上を這う。

胸の敏感な部分を通り、腹を伝い、下腹部の更に下へ。

キーナの顔が恥ずかしそうに歪んだ。

テルディアスの目が見開かれる。

渾身の力を持って枷に抗い出す。


(枷が…。なんて力だ…)


女性が更に意識を集中させた。

気を抜けば外されてしまいそうだった。


「故に、御子様と交わるは天命だ」


王がキーナの顔に手を添える。


「や・・・。テル・・・」


テルディアスの方へと向けられていた顔を、無理矢理王の方へ向けさせられる。


「さあ御子様。私の子を、産んで下さいませ」


キーナが目をぎゅっと閉じた。

王の顔が、キーナの顔に被さった。



ブチッ



テルディアスの視界が黒く染まった。









「「「!」」」


(何?!)


メリンダが一瞬感じた悪寒に身震いする。


(何だ?!)


サーガが一瞬感じた悪寒の元を探そうと顔をキョロキョロと動かす。


(今のは…?)


女性が一瞬感じた異質な気配に、部屋を見回す。

そして3人は気付く。

光の枷に捕らわれ、身動きできなくなっていたはずのテルディアスが、何故かベッドの横に立っていることに。


(え? え?)

(ええ?!)

(?!)


キーナの上に覆い被さっていた王が、テルディアスに気付いて顔を上げた。


「貴様! どうやって…」


その先を言う前に、テルディアスが王の胸ぐらを掴みあげる。

そして、握り込んだ拳を、その顔に思い切り叩きつけた。


ゴッ


鈍い音がして、王が吹っ飛んだ。


「陛下!!」


壁に当たってずり落ちた王が、とりあえず死んではいなさそうだと確認し、女性がテルディアスに向かって両手を掲げる。


「貴様…!」


女性の体の光が強くなったと思った次の瞬間。


「キャア!!」


何故か女性は悲鳴を上げ、床に崩れ落ちた。

崩れ落ちると同時に、メリンダとサーガを拘束していた光の枷も消えた。


「あら? 取れた」

「気絶したみたいだな」


術者の意識がなくなれば、魔法もその効力を失う。

拘束されていた手首を少し確認して、メリンダとサーガはテルディアスを見やる。


「テ…、テルディアス?」


恐る恐る声を掛けたメリンダにも何の反応も見せず、テルディアスはキーナを抱え上げると、静かに窓に近寄り、そのまま何も言わず、風を纏い空へと飛び出して行ってしまった。


「行っちまった…」

「どうなってんの?」


サーガに聞かれても分からない。


「よく分からんが、俺達も行こう」


とメリンダに手を差し出すと、


「! ちょっと待って! キーナちゃんの服!」

「あ、そーね」


キーナ、際どい格好のままテルディアスに連れて行かれちゃったものね。

メリンダがキーナの服を適当に見繕って引っ張り出し、ついでに置かれていたキーナの荷物も発見し纏める。

サーガは倒れている光の者である女性を少し見ていた。

気を失ったまま動かないその女性。


(光の力を…、跳ね返したように見えたけど…。まさかなぁ…)


あの時、女性がテルディアスに向かって手を掲げた時、テルディアスが一睨みした途端、女性は力の反動を受け、気を失ったように見えた。

しかし、光の力を跳ね返すなど、光の御子であるキーナならともかく、何故テルディアスができたのか。

それに、光の枷を、どうやって解く事が出来たのか。

考えても答えなど出ない。

荷物を纏め終えたメリンダを抱えると、サーガは考える事を諦め、テルディアスと同じように窓から空へと飛び出して行った。

暑いせいです。執筆が進まないのは暑いせいです。暑いせいなのです。

暑い・・・。

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