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キーナの魔法  作者: 小笠原慎二
出会い
202/332

出会い

今週は書けたぞ~。やった~い。

朝、目が覚めて、いつもの脇に、いつもの奴がいない。

それが当たり前で、普通で、安心できる状況のはずなのに…。

テルディアスは上半身を起こし、爽やかな朝の光が部屋を照らす中、頭を抱えた。

当たり前であるはずのこの状況に、違和感を感じるようになってきてしまっていることに…。







「じゃ、俺は用はねーな」


キーナが女の子の事情で動けなくなったことを知ると、サーガは早速鎧を脱ぎ捨て身軽になり、


「遊び…、じゃなくて情報収集に行ってきま~す」


とルンルンと出かけていった。

遊びってはっきり言ったよね?

メリンダはサーガの背中を睨み付けて見送った。


「じゃ、俺も行ってくる」

「はいはい」


キーナの様子を見てから、テルディアスも情報収集に行こうと、メリンダに声をかけた。

その背中を見て、メリンダが声をかける。


「あんたも少しは羽目を外して来たら?」


テルディアスがずっこけた。


「奴と一緒にするな!!!!」

「ハイハイ」


プリプリと怒りながら、テルディアスも出かけていった。


(真面目なのはいいけど…、そういう奴に限って、いろいろ心配なのよね~)


真面目なのはいい。紳士的なのもいい。

ただ、そういうお年頃なのに、興味も示さないのはちょっと…。

しかも戦闘に身を置く者としては、そちらも発散させないといけないはずなのだけれど…。

まあ、テルディアスのことだから、女性に乱暴はしないだろう…、と思うけれど、溜まりに溜まったものがいつか爆発するのではないかと、メリンダちょっぴり心配であった。


見てない所でちゃんと自主的に発散させているのだろうか?

なんだかテルディアスだとそういう事も想像がつかず、メリンダは首を傾げながら、部屋に戻った。

男性の場合、自主的に発散させることもしないと、病気になってしまうと聞いたことがあるので。

女と違って大変だ。

最悪、無理矢理にでも発散させてやろうかなどとメリンダが考えていると、


「ごめんねぇ、メリンダさん…」


ベッドの方から弱々しい声が聞こえてきた。


「気にしなくていいのよ、キーナちゃん」


向かいのベッドに腰掛けて、借りてきた本をメリンダは開く。


「あたしもまだ地底宮の疲れが取れてないし、いい骨休めだわ」

「ふにゃぁ…」


キーナが動けないので、メリンダがそのお世話のために残ったのである。

キーナは、自分のせいで皆が足止めをくらい、しかもメリンダは部屋に缶詰状態になってしまったことに、申し訳なく思うのであった。

しかし、こればかりは体が言うことを聞いてくれないので、仕方がない。

とにかく痛みを忘れるため、キーナは眠ってしまおうと布団を被り直した。








街中を歩くテルディアスの元に、警備兵が2人近寄ってきた。


「お顔を拝見できますか?」

「は?」


テルディアスの格好は、もちろん、いつものフードにマント。

顔が見えないようにフードを目深に被り、口元にはマスク。

長く伸ばした前髪で、ほぼ顔は見えないようになっている。

不審者に見られても可笑しくはない格好ではあった。


「いやなに、隣の町で、連続殺人をしでかした凶悪な奴がこの街に来たらしいという情報がありまして、皆様に確認させて頂いてるんですよ」


と、一枚の指名手配紙を見せてきた。

そこに描かれている肖像画は、テルディアスとは似ても似つかない、丸顔の団子鼻、目が小さくて目つきの悪い、青みがかった黒髪の男であった。

まあ、髪の色はどうとでも変えられてしまうので、あまり関係ないかもしれない。


が、絶対に違う。

断じて人違いである。

なのではあるが、テルディアスは絶対に人に顔を晒す訳にはいかないわけでありまして。

顔を見せたら違う騒動が巻き起こり、今動けないキーナ達も巻き込まれてしまう危険性もありまして。

いくら口で「違う」と言っても、顔を見せなければ納得されないであろう。

となると、取る手段はただ一つ。


逃げた。


ダッシュで。


「逃げた?!」


突然ダッシュで逃げ出したテルディアスを、警備兵達が追いかける。


「待て――!!」


この時点で、警備兵達にとっては、テルディアスは犯人であると確定されてしまったのであった。

人違いなのに。

うまく建物の陰を利用して、上空に飛び、屋上に身を隠す。

路地を覗き込んだ警備兵達が舌打ちする。


「しまった…。逃がした…」


先の曲がり角も一応覗いて確認するも、どちらへ行ったのか検討がつかなくなってしまった。


「緊急配備だ! 灰色のフードにマントの長身の人物!」

「おう!」


一人が報告しに行くのか、通りに向かって駆け出していった。

残った一人は路地を警戒しながら進んで行った。

それを屋上から覗き見していたテルディアスは、こっそりと溜息を吐いた。


「まずいことになった…」








コンコン


本を読んでいたメリンダが顔を上げた。

なんだか窓の方から音がする。


コンコン


振り向いて目を剥いた。


「テルディアス?!」


窓の外に、テルディアスが浮かんでいた。

慌てて窓を開けてやる。


「なんで窓から?!」

「実は…、困ったことが…」


窓からのっそり入って来たテルディアスが、今し方あったことを簡単に説明した。


「ブッ…」


ククク…とメリンダが肩を震わせる。


「おい」


人が困っているのに笑っている場合ではない。

が、ベッドの方からも、くっくっく…と小さく声が聞こえてくる。


「キーナまで…」


テルディアス、ちょっぴり傷ついた。


「ゴメンゴメン、大丈夫よ。外を歩けるようにしたいんでしょ?」


今のままでは外を歩けない。となると、


「あたしにまっかせなさ~い!」


メリンダが胸を叩いた。








数分後、化粧を施し、服も着替えたテルディアスが街中を歩いていた。


(落ち着かない…)


化粧をしているメリンダの生き生きした様と言ったら…。

何故男に化粧をするのにそんなに張り切るのか、テルディアスには分からない。

おまけに、どこかから服も借りてきて、


「服も借りてきたわ~。はい、それ脱いで着替えて! そのフードとマント、この街出るまで着用禁止ね!」


ひん剥かれそうになったのをなんとか阻止し、素直に着替えたらフードとマントを取り上げられた。


「自由に歩き回りたけりゃ、多少は我慢なさいっ」


と追い出されたのだった。

頭にはもちろん布を巻き、耳を隠している。

おまけに多少ではあるが髪も整えられ、いつもと違って視界が広がり、なんだか道行く人達の視線が痛い(実はほぼ女性の視線なのだが)。


(まあ、今は仕方ない…)


途中で先程の警備兵達と擦れ違ったが、今度は顔も隠していないせいか、声も掛けられなかった。

どうやら彼らは先程までのテルディアスを探しているようである。

彼らがちゃんと凶悪犯を見つけられるように、祈るしかない。







窓辺に立って外を見たその人物は、女性達の視線を集めながら道行くその男の姿を見て、驚きの声を漏らした。


「あれは…」







メリンダがふと顔を上げると、キーナはすやすやと眠っていた。

生理中はいつもより体が重くて眠気も倍増されるので、薬の効き目も待たずにキーナは眠ったようであった。

その寝顔を見て微笑みながら、メリンダは読んでいた本をぱたりと閉じる。


(キーナちゃんも寝入ったし、しばらくは起きないだろうし、あたしもちょっと買い物行ってくるかな~? テルディアスの服も借りっぱってなわけにはいかないしね~)


そして、そっと、その腰の革袋に入れていた鉱石に触れる。


(ついでにコレ、いくらになるか聞きに行ってみたいし~)


とにやりと笑う。

キーナの為にも、お金、資金は必要だ。

特に生理中などは野宿ではなく、宿屋のベッドに寝かせてあげたいし。

お金がなくて野宿なんて、そんな悲しいことキーナにはさせられない。

音を立てないようにメリンダはそっと部屋を出て行く。


(ちょっと行ってくるわね~)


心の中でキーナに声を掛け、静かにドアを閉めた。

メリンダの足音が部屋から離れて行った後、その部屋の窓の外から部屋の中を窺う、小さな影が動いた。







「テルディアス様?」


足早に歩いていたテルディアスに声を掛けてきた者がいた。


「テルディアス様でいらっしゃいますか?」


声を掛けてきた男をチラリと見るが、特に怪しい気配はなかった。

一見、従者のような出で立ちをしている。


「何者だ? 何故俺を知っている?」


警戒しながら、問いかける。

一応そこそこ名が売れていることは自覚している。

3年の月日が経っているとは言え、テルディアスの顔を知っている者がいてもおかしくは無い。


「ああ、いえ、私ではなく、私の主人があなた様をよくご存じだと…」


(主人?)


どうやら見かけ通り、誰かの従者であるらしかった。







ボソボソと何かを喋っている声が聞こえ、キーナが薄く目を開くと、向かいのベッドに座っている人影が見えた。

本来ならば、そこにはボインの女性が座っているはずなのであるが、何故かそこに居たのは、年の頃5歳くらいか?の小さな男の子。

なにやらがっかりしたように、一人でボソボソ呟いている。

キーナが目を見開いた。


「あ」


男の子が気付く。

キーナが起き上がった。


「こりゃ失敬。起こしちった?」


男の子が済まなそうに頭をかいた。


「メ…」


キーナは自分の中で思った疑問を口に出して叫んだ。



「メリンダさんがちっさくなっちゃった!!」



んなわけあるかい。

男の子もベッドから転がり落ちそうになっていた。







その男に案内され、テルディアスはとある宿屋の一室に案内された。

扉を開けると、中で待っていた人物が、飛び上がるように立ち上がった。


「テルディアス?!」


嬉しそうにその人物は足早にテルディアスに近づいて来る。


「来てくれないかと思ったよ…」


少し安心したような、それでいてどこか不安そうな顔で、その人物はテルディアスを見つめた。

テルディアスもその人物の顔を見つめる。

自分とよく似た顔のその男。

テルディアスは深々と頭を下げて、挨拶をした。


「お久しぶりです。クラディウスさん(・・・・・・・)


その他人行儀な挨拶を受け、クラディウス、テルディアスの父親は、少し悲しそうな顔をした。


「あ、ああ…。久し、ぶりだ…」








目の前の男の子が、メリンダさんではないと納得したキーナが、次の質問を口にする。


「君は誰? どこから来たの?」

「おいらボン。そこの窓から来たの」


言っている事に間違いはない。

ニュアンスの違いはあるが。

しばし黙って見つめあう。

キーナの目つきが悪くなっていく。

まあ、寝ている間に黙って部屋に入ってこられたら、誰でも警戒するでしょう。

あれ? そういう本人が毎度やってる気が…。


ゲホゲホゲホン。


「で、何故ここにいる?」


ワントーン低くなったキーナの声を聞き、ボンが冷や汗を垂らす。


「あ~、ちょっと、人を探してて~」


元より隠す気もないのか、ペラペラと喋り始める。


「似た気配を追いかけてきたらここに着いたの。人違いだったけど」

「人捜し?」

「そ」


ボンがにっかりと笑う。


「君と同じ、異世界からの異邦人」


キーナの目が、驚きに見開かれた。

お仕事にまだ慣れていないので、突発的に連載をお休みすることがあるかもしれません。

なるたけ頑張りますが、お休みしたらすいません。

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