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キーナの魔法  作者: 小笠原慎二
始まりの出会い
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全ての始まり

ばっしゃーーーん!

ごぼごぼごぼ・・・


気がつくと川に落ちていた。


(にゃんだ?! にゃにが起きたん?!)


必死に手足を動かす。水面と思われる方へ向かって体を押し上げる。


「ぶへ!」


お上品も何もあったもんじゃない。

しかし川の流れは早く、息継ぎをしようにも波がバシャバシャと容赦なく顔にかかってくる。

一瞬開けた波間から、ちらりと遠い岸辺に人影を見た気がした。


「助け…」


バッシャア!


声を出した途端に大きな波が被さってきた。

息が吸えない。

パニックになり、とにかくバタバタと手足を動かす。

しかし水面に顔がでる気配はない。


(助けて!)


最早上も下も分からない。

肺の中の空気はもう残り少ない。

体が空気を欲しがっている。


苦しい。

苦しい。

苦しい…。

意識がぼんやりとしてくる。

ふと過ぎる「死」という言葉。

まさかこんな訳の分からない状況で死ぬことになるなんて…。


(短い人生だったな…。お醤油買いに行ってる途中だったのに…。今日肉じゃがって言ってたっけ…。お醤油なくてどうやって味付けするんだろう…。ああ、冷蔵庫のプリン…。僕が死んだら誰が食べるんだろう…。僕が死んだらみんな泣いてくれるのかな…。小百合たちは泣くな…。お母さんも泣くな…。お酒飲むと泣き上戸だから困るんだよね。ぐちぐちと聞くこっちの身にもなれっつーの!お酒は控えろってあれほど言ってるのに!お父さんも勧めんじゃない!って僕…死ぬ間際だってのに…何を考えているんだか…。つまらない人生だったなぁ…。もっと冒険したかった…。そうだ…あの本がまだ読み途中で…)


などということを刹那の間に考えていた。

意識が遠くなっていく。

薄ら開いていた視界に、光を背にし、羽を広げた天使がこちらに向かってくるのが見えた。

(お迎え…?)

お迎えって死んでからじゃ?

それが最後に思ったことだった。











暖かく柔らかいものを顔の近くに感じた。

そう感じた途端に意識が急速に目覚めていく。


「ごほっ!げほげほ!」


肺が空気を求めて動き出す。

飲み込んでしまっていた水が口から溢れ出す。

肺が痛い。

気管が痛い。

鼻が痛い!

でも生きてる!

生きてる!

なんで?


「気付いたか…」


空から声が聞こえた。

訂正。

上から声が聞こえた。

今横になっているから顔の前から。

目を開けるとフードをかぶってマスクをした、多分男の人、が僕を見下ろしていた。

顔が良く見えない。


「大丈夫か?」

「誰?」


頭がまだ少しボーっとしてる。


「通りすがりのお人好しさ」


そういうとひょいっと僕を抱き上げた!


(お姫様抱っこ!)


そっちにびっくりかい! なんて一人突っ込みは置いといて。


「向こうに火があるからそこで体を温めるといい」


そういうと軽々と僕を抱いたまま歩き出す。

初めてのお姫様抱っこに衝撃を受けたものの、


(悪くないなぁ…)


などとぼんやりした頭で思っている僕だった。












「そこの茂みで服を脱いで来い」


そういうとその人はマントを脱いで僕に渡した。

ぽたぽたと全身から水を滴らせながら、


「ほ~い」


と僕は言われた通り茂みへ入った。

パチパチと炎の爆ぜる音がする。

濡れた服を脱いでマントを羽織る。

見た目よりも暖かくて軽い。


「脱いだ」


と言って出て行くと、


「貸してみろ」


とその人に服を渡した。

すると何を思ったのか地面に手をついて、なにやらぶつぶつと唱え始めた。


「ウル・・・」


唱え終えた途端、地面が怪しげに光った!

するとそこからうねうねと木の根っこみたいのが伸びてきて、あっという間に服を干すのにちょうど良い物干しが出来てしまった!


(なんじゃこりゃ!)


「これでいいか」


当たり前のように服を干すと、


「どうした? 座れよ」


とその人は言った。


(そうだよ!まともに考えてみたら…ここどこ?! 僕はお醤油を買いにいって、帰りに川原で魔法陣書いて遊んでて、来年受験だ嫌だな~って思って、お月様にどうか進路がうまくまとまりますように~なんてお願いしてて、そしたら月がパーッと明るくなったような気がしたら、なんか突然暗いような明るいような変な所にいて、そしたら川に落ちて、って僕どうやって川に落ちたんだ? しかもここ近所の川原じゃないし! ってか森だし! ここどこの森?!)


とぶつぶついっていると、


「おい、とりあえず座ったらどうだ?」


とその人が魚を棒に刺して焼きながら言った。


「ねえ! ここどこ!」


ずずずいっと聞いてみる。


「は? どこって、ミドル王国に行く途中にある、リーヴ川のほとりだが…」


(どこだよ!)


聞いたこともない。

考えられることは一つ。

よっぽど僕の頭が変になっていないか、誰かが大掛かりなセットで騙していない限り、いわゆる神隠しみたいなものにあって、異世界に来てしまった。


・・・


そんなことあるわきゃない。

あれは空想の世界の話なんだ。

そうさ、これは夢なんだ。

じゃなきゃ幻か、はたまた…なんだろう?

とりあえず…

おうちに帰して~~~~!







「とりあえず、食わんか?」

「遠慮なく!頂きます!」


と言って差し出された魚をむさぼる。

悩んでたって仕方ない!

とりあえず食べて力を付けて、行動あるのみ!

それに大抵物語の中だと、運命の人とかが現れて、いろいろ助けてくれるのが筋だもんね!


いや、確かに小説ですが…

それはおいといて。


そこで気がついた!

大概最初に出会う人が、運命の人!



その時その男は感じていた。


(なんだか妙な視線を感じる…)



運命の人の条件はまずカッコいいこと!

そして強い!

だけど…



その時その男は感じていた。


(見つめられてる気がする…)



何でこの人、フードを取らないんだろう…?

しかも顔が見えないようにあっち向いて食べてるし。



その時その男は感じていた。


(なんだかだんだん視線が痛くなってきた…)



顔が見たい!

よし! なんとかして顔を見てやろう!


「あの、遅くなりましたけど、助けてくれてありがとうございます」

「ん? ああ、べつに」


軽くこちらを振り向いたが、相変わらず顔が隠れている。


「つきましては恩人のお顔を拝見したいです」


脈絡も何もない。


「は?」

「ちょっとでいいからそのフードを取ってくれれば…」


というが早いか、男は取るもんかとばかりにフードを押さえつけた。


(隠されるとよけーに見たくなるのよね~~)


というオーラを放つが効きやしない。

当然か。


「お、俺の顔は見ない方がいい。それがお前のためだ」


(よっぽど変な顔をしてるのか?)


魚はうまいが小骨が痛い。


「そ、それより、服もそろそろ乾いてきたし、食べ終えたら街道まで送ってやる」


逃げ口上だ。


「その後は?」

「帰るなり王国へ行くなり好きにすればいいだろう」


(つまりお別れ!?)


が―――――――――――ん・・・


(うっそーーー! 僕何にも分からないのに――!お金もないし、これからどこに行けばいいのかもわからないのに~!どうしろと言うの~~~!)

「わ――――! 何でも言うこと聞くから僕を見捨てないでー!」


とタックルをした。


「ぐえっ」


と聞こえたような気がするけど気にしない。


「お、おま、…何を」

「実はかくかくしかじかで…」


自分の身の上話を簡潔にまとめながら話し出した。












簡潔に話したつもりだけど…。

随分時間がかかったような…。

きっと気のせいに違いない。

話し終えて前を見ると、「胡散臭い」と言っている視線があった。

その人はポンと僕の肩に手を置くと、


「サンスリーにいい魔道医がいるらしいぞ」


と言った。


「どおいういみかしら?」

(ま、信じちゃくれないとは思ってたけどね…)


ん?

まどうい?

魔・道・医?

魔道?


「あ、あの、ちょっと思ったんだけど、これ、どうやってやったの?」


と、にわか物干しを指差した。


「ん? ああ、ウルバルを少し制御すると出来るんだ」

「ウ・ル・バ・ル?」

「地の魔法さ」

「魔・法!!!!」


魔法?! 魔法?! 魔法?! 魔法だって―――――?!


「本当に?!本当に魔法が使えるの――?!」


勢い込んで襟元を掴んで揺さぶる。


「や、やめれ…」


勢い込みすぎた。


「お、お前! …前!」

「え?」


身に付けていたのはマントである。

勿論ボタンなどない。

気をつけていなければすぐにハラリと前が見えてしまうのだ。

つまり丸見え状態。

いやん。


「うぎゃあ!」


バゴッ!


条件反射である。

悲鳴と一緒に右の拳が飛んだ。


「ご、ごめんなさい…、体が勝手に!」


そしてその人は殴られたところをさすりながら言った。


「お前…、やっぱり女だったのか…」


条件反射だと思う。

気がつくと僕の左手の拳が飛んでいた…。

今までなんだと思ってたのさ!


僕は正真正銘、れっきとした女の子だい!


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