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キーナの魔法  作者: 小笠原慎二
始まりの旅

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刺客

「あの女・・・」


噴き出すどす黒い感情を抑えながらテルディアスは呟いた。どんなに感情を激昂させたところで、あの男にかなわないことは目に見えている。とにかく逃げるしかない。


「おいキーナ」


未だに起きようとしないキーナの頬をぺしぺし叩いた。とりあえずこいつが起きなきゃ移動できやしない。


「うん・・・」


うめき声をあげ、キーナがゆっくりと目を覚ます。

ところが、


「お空がぐるぐるのピーカンのモリモリ」


まだ目も頭の中身も回っているらしい。頭は元からか?


「おい!」


テルディアスが強く肩をゆすぶった。

ハッと気がついたような顔になり、やっとまともにテルディアスの顔を見つめる。


「あれ? テル!」

「やっと正気に戻ったか」


軽く冷や汗をかきながらテルディアスがほっと息をつき、真顔でキーナを見つめた。


「非常事態だ。刺客が来た。とにかく逃げるぞ」

「うえ?!」


この期に及んでこの娘は面白い顔をする。どうしてこんなに顔が崩れるのだろう。

ではなくて。

二人はだかだかだかと森の中を走り出した。


「刺客って?!」


走りながらキーナが尋ねる。


「あの女のお気に入りだ。お前の命を狙ってる」


お気に入り? とはどういう意味だろう・・・。

ま~考えてもわかりません。キーナくらいのお年頃ではね。

どうやら、テルディアスがあの女と呼んでいるのは、テルディアスの姿をこんなにした張本人の、魔女であるらしい。

だかだかだかと走っていたテルディアスが急に足を止めた。キーナは急には止まれずだかだかと通り過ぎようとする。


「止まれ!キーナ!」


と、そのキーナの首根っこをテルディアスがつかんだ。


「ぐえっ」


首が見事に絞まってキーナが奇声をあげた。


ざわり


と嫌な気配がまわりを取り囲む。


地壁(ウルロー)!」


テルディアスが呪文を唱えた。地の気をまとった壁が二人を取り囲む。


ドドドドドド!!


あちらこちらから放たれた力が壁に当たって四散した。


「ち、どこから撃ってきたのか分からん!」


ともすれば前から、そして後ろから。右から左から、全方向から放たれてきている。

途中で軌道を変えているのかもしれない。これでは敵の居場所を知ることが容易ではない。

壁にも限界がある。既にそこここにヒビというか切れ目のようなものが入ってきている。


「走れ! とにかく行けるところまで行くんだ!」

「う、うん」


魔法を解き、テルディアスはキーナの手を引いて走り出した。二人の後を追って黒い光球が降り注ぐ!

二人は風のように森の中を駆け抜けていく。

と、木々の切れ間から人影が見えた。

あのタレ目の男だった。

既にその掌の中には力が集結しており、解き放つ準備をして待っていた。


「終わりだ」


掌に集めた力を、こちらに向かって放とうと構えた。

一瞬早くそれに気付いたテルディアスが、キーナをたぐりよせ、懐に抱きかかえ込んだ。


「ブッ」


どうやらキーナが鼻をぶつけたようだ。

そして、タレ目男の掌から力が解き放たれるのと同時に、テルディアスが横へ飛んだ。


ゴウッ


不気味な音を残しつつ、暗い力が今までテルディアス達のいた所を飲み込んでいった。

テルディアスはキーナをかばいつつ、地面へ転がった。


「ぐああっ!」

「テル?!」


テルディアスの見込みは少し甘かったようだ。

全てを避けきれず、足の先が暗い力に少し触れてしまっていたのだ。

キーナが見ると、テルディアスの足先が真っ黒になっていた。


「何これ?」


キーナがそっと触れようとすると、


バチィッッッ!!!


「わっ!」

「ぐあっ!!」


電気が走ったような痛みが手をはねのけた。


「闇の力さ」


いつの間にかタレ目男がキーナの目の前に立っていた。


「暗き闇は激痛を伴いながら侵食し、最後は悶え苦しみながら逝くのさ」


不適な笑みを浮かべ、男は語る。


「馬鹿な奴だ。お前のような小娘を庇ったばかりに、自分で苦しみを負うことになって」


テルディアスは激痛のあまり何も喋れない。

キーナは自分が足手まといになっている事を悟った。自分がいなければ、テルディアスは避けられたのだ。


「娘、そいつを助けたいか」


タレ目が問いかけた。


「あ、当たり前だい!」


自分のせいで苦しむテルディアスなど見たくもない。


「ならどうだ? お前の命と引き換えにその男を助けてやろう」

「キーナ!!」


激痛を堪えてテルディアスが叫んだ。


「そんな奴の言うことに耳を貸すな!」

「どうする? 小娘」


腕を組んでタレ目男はキーナを見つめた。

自分の命が一番可愛い人間のこと。どういった反応を見せる?


「いいよ」


ほとんど迷わず、キーナは言葉を吐き出した。


「キーナ!!」


テルディアスが焦りの色を浮かべた。


「テルは命の恩人だもん。それでテルが助かるなら」


キーナは祈るように手を前で組んだ。その肩は小さく震えている。


「大した自己犠牲心だな」


感心した様子もなくタレ目男は言い放った。


「させるか・・・」


言うが早いか、テルはキーナの腰に腕を回した。


「風翔!」


懇親の力を振り絞ってテルディアスが呪文を唱えた。

風は言葉に従って力を発現させた。


「ぐあっ!」


突然の力の発動に、タレ目男は風に吹き飛ばされ、近くの木にぶち当たった。


「く、・・・まだ魔法が使えたか・・・。だがあの激痛では・・・長くは持つまい」


タレ目男はニヤリと笑うと、ゆっくりと痛む体をさすった。











「テル!」


高速で飛ぶテルにキーナが叫んだ。


「ダメだよ!そんな体で!」

「黙ってろ!」


キーナを抱えたままテルディアスは飛び続ける。が、


ビキィ!


「があっ」


激しい激痛に集中が途絶える。そのままぐらりと体が傾く。


「テルッ!」


キーナの声ももはや遠くに聞こえる。


「うわああああ!」


二人はそのまま森へ落ちて行った。














キーナの意識がゆっくりと覚醒する。

一瞬意識を失ったが、何かに呼ばれるようにキーナは意識を取り戻した。


(生きてる・・・)


死んだかと思った。だが、体はどこも痛みを発しない。


「グ・・・」


キーナの下からうめき声が上がる。


「テル!」


痛みが増しているのか、脂汗がひどくなっている。


(僕の下に・・・かばってくれたんだ・・・)


意識を失いかけながら、キーナをかばって落ちたのだ。


「テル!」

「ぐ・・・あ・・」


足を見ると、さっきは足首くらいまでだったのが、今は膝の上まで真っ黒な闇に包まれてしまっている。


(さっきよりひどくなってる・・・)


「がああっっ!」

「テルッ!」


痛みがひどくなっていっている。見ているだけでそれが感じ取れる。だけど・・・


「どうしよう・・・どうしたらいいの・・・? 僕・・・何も出来ないの?」


魔法の使い方もやっと分かってきたばかり。簡単な魔法しかまだ習っていない。自分に出来ることは・・・見ていることだけ。


(僕・・・僕・・・結局足手まといにしかなってない!)

「テルゥ!!!!!」


何も出来ない自分の不甲斐なさを呪った。魔女のことも甘く考えていた。自分が全て悪いのだ。だからテルディアスがこんな目に合っている。どうしようもできない。どうしようも・・・。


「いやだ!」


キーナは叫んだ。


「いやだいやだ! テル! 死なないで! 誰か! 誰かテルを助けてェ!」


テルディアスに覆いかぶさるようにしながらキーナは泣き叫んだ。どうしようもできない自分を呪いながら。


「キー・・・ナ」


テルディアスが声を絞り出す。

このままここにいてはタレ目に遅かれ早かれ見つかって殺されてしまうだろう。

残った力を振り絞り、キーナの頭にポソッと手を置いた。


「に・・げろ・・・」


こんな目に合っているのに、テルディアスは自分のことを心配してくれている・・・。


「テ・・・ル・・・」


キーナの中で何かがはじけた。


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