表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キーナの魔法  作者: 小笠原慎二
赤い髪の女
110/332

返してくれ

メリンダさんは、巨乳です。

ダンッ!


水の結界を手放してテルディアスが宙に躍り出た。

結界は一瞬で蒸発してしまった。

これで大丈夫!と思ったのもつかの間、上空から炎の鎌首がテルディアス目がけて走る。

宙に浮いたテルディアスには為す術がない。

このままでは、テルディアスは炎に呑まれてしまう!

そうなったら…


「だめ―――!」


キーナが叫んだ。





白い光が辺りに満ちた。






「だめ―――!」


その叫び声を聞き、体がビクッと反応する。

炎の鎌首はピタリと動きを止めた。

金縛りにあったかのように、メリンダは動けなくなっていた。






ピタリと炎の鎌首が動きを止めた。

テルディアスはそのまま、地面に無事に降り立った。

赤い髪の女の後ろに、白い光を纏ったキーナの姿が見えた。







『やめて。その人を傷つけないで』


メリンダは強ばる体をゆっくりと後ろに振り向かせる。

そこには、白い光を纏い、白く長い髪を揺らして、一人の少女が立っていた。


「は…、はい!」


メリンダは纏っていた炎を消し、その場に跪いた。


(な、何? なんなの? 一体何が起こってるの?)


何故自分がその少女の言葉に素直に従っているのか分からない。

だが、従わなければならない気がした。

魂の深い所で、彼女という存在を認めている気がした。


(そう、なんだか…、なんだか…)


少女がゆっくりと近づいてきて、メリンダの顔に手を触れる。

見上げた先に、白い光を纏った少女の無機質な顔。


(懐かしいような…、嬉しいような…、なんとも言えない…)


その時、少女がにこっと微笑んだ。

その笑顔は今まで見た中で一番可愛くて美しくて…。


ドッキューン!


メリンダのハートを鷲掴みにした。


(ああ…もう…、あたしを好きにして――――ん)


今ならば、例えどこに堕ちようとも構わない、とメリンダは思えた。

白い光がフッと消え、少女が少年の姿に…、いや、よく見れば髪が短い少女の姿になっていた。

少女の体がゆっくりとメリンダに向かって倒れてくる。


「あわわわわ、あらららら」


自分でもよく分からない言葉を発しながら、少女の体を抱き留めた。

少女がうっすらと目を開け、メリンダを見る。


「火の…、一族の…、人でしょ?」


少女が少し苦しそうに、切れ切れに言葉を発した。


「え? うん! そう! はい! もちろん!」


なぜか緊張して余計に言葉を発してしまう。


「お願い…、テルの…、姿を…、元に、戻すのに…、宝玉が、必要なの…。力を…貸し…て…」


そのまま少女は気を失った。

いや、ただ眠っただけかもしれない。


ざ・・・


背後にダーディンが立った。

振り向くと、穏やかな顔をしたダーディン。


「返してくれ」


その言葉に、危険は感じられなかった。

むしろ、この男の元に返すことが自然に感じられた。

少女がこのダーディンを助けた。

それだけは真実だった。







ダーディンが大事そうに少女を抱え上げる。

本当に危害を加える気はなさそうだった。


「その子は…、その子は、一体何者なの?」


惹きつけられる。

側に居たいと思う。

全ての物から守ってあげたいと思う。

初めて会ったのに何故そう思うのか分からない。

少しの間こちらの様子を伺っていたダーディンが、


「騒がないと約束するなら話してやる」


そう言って、街に向かって歩き始めた。

このダーディンは危険じゃない。

不思議とそう確信できたメリンダは、ダーディンを追って歩き始めた。








宿屋の部屋にキーナを寝かせ、メリンダはダーディンの男、テルディアスにこれまでの事情を簡単に説明してもらった。


「色々と信じられないけど、全部本当のことなのね?」

「ああ」


再びしっかりとマスクとフードを着けているテルディアス。

その表情はうかがい知れない。

ベッドでスヤスヤと眠る少女、キーナを見る。


(この子が、まず女の子だって言うことにびっくりだけど…)


ずっと少年だと言ってましたもんね。


(光の御子…、だなんて…。そして、ダーディンにされた人間…)


光の御子でさえ、とてつもない希有な存在なのに、ダーディンにされた人間なんて、今まで聞いたこともない。

だが、実際、少女のあの姿を見たならば、光の御子であると言うことは納得できた。

ならば、ダーディンも…。


(普通に考えたら、ありえないわよね)


ダーディンが光の御子を騙して連れ歩いているとしか思えないが、だが、あの時、


(『やめて。その人を傷つけないで』)

(「テルの…、姿を…、元に、戻すのに…、必要なの…。力を…貸して…」)


少女はそう言った。


(この子がそう言うのなら、信じる。全部信じるわ!)


この少女が守りたいと思っているのなら、自分も守りたいとそう思えた。


「確かにあたしは、火の一族の者よ。あんた達が探してる火の宝玉も、あたしの村にあるわ」

「本当か?!」


テルディアスが身を乗り出す。


「ええ。代々火の巫女が宝玉を受け継ぎ、管理してるわ」

「その村はどこにあるんだ?」


メリンダの顔が険しくなった。


「言えない」

「?!」

「言っても、例え教えたとしても、辿り着くことはできないわ」

「どういうことだ?」

「火の力は滅びの力。使い方を誤れば世界を滅ぼすこともある。分かる? 私の一族の人間が一人戦場にいるだけで、戦況は大きく変わるのよ。そのために私達は他国から狙われるようになった」


その昔、まだ世界のあちこちで戦火が上がっていた頃、火の一族の力を求め、色々な国から出兵を求められた。

だが、元来火の一族はあまり争いを好まない。

一部の者達は賞金目当てに戦場に出て行ったが、ほとんどの者が残った。

だが、その一部の者達の活躍が噂で流れ、火の一族を戦力に加えれば、大きな力になると囁かれるようになった。

だが、火の一族といっても、皆が皆火の力を自在に操れるわけでもない。

一番に力を持つという巫女は、宝玉を唯一管理できる者であり、戦場に出すわけには行かない。

頑なに拒み続ける火の一族を、ある時から狩る者が出始めた。

火の一族の出だと言うだけで、力の無い者さえ。

そうなるともう今までのようには暮らせない。

一族は逃げた。

戦火から。

人から。


「だから、山の奥の奥の奥、滅多に人が入ってこられないような所に村を作って、外界と接触をほぼ断って暮らしているのよ。そして、念には念を入れて、村までの道に色々な仕掛けを施してあるから、常人には決して辿り着けないわ。極偶に人が迷い込んで来たりはするけど」

「だとしても行かねばならん。教えてくれ」


メリンダが困ったような顔をする。


「この子の覚醒を待つんじゃダメなの?」

「こいつが完全に覚醒するには、『運命の恋人』とやらの存在がいるらしい。それがもしかしたらあんたの村にいるかもしれない。だとしたらなんとしても行かねばならん」


メリンダが下を向いた。


「…そう」


ポツリと呟く。


(あたしが、案内してあげられればいいんだけど。でも…、あたしは…、あたしには…)


6年前、村から外に出る道を、あの人と一緒に走り抜けた。

そして今、この街で自分は必要とされていた。

メリンダの顔が険しくなった。


「ん…」


キーナの瞼が開かれた。

メリンダとテルディアスが覗き込む。


「キーナ、起きたか?」


がばっと勢いよく起き上がる。


びびるわ!


その勢いに圧倒され、キョトンとキーナを見つめるメリンダ。

キーナと目が合う。

すると、キーナが嬉しそうに笑って、メリンダに抱きついた。


「わーい! 良かった! いた~」

「わきゃ!」


いきなり抱きつかれて幸せそうに顔を赤く染めるメリンダ。

自分以外の人間に、さも親しそうに抱きつく姿を見て、固まるテルディアス。

まあ、こいつは置いとこう。

そんなテルディアスに気づくこともなく、キーナはメリンダの顔をまじまじと見つめ、


「お姉さん」

「は、はい?」

「火の村まで案内してくれるんでしょ?」


とにっこりと笑った。


さてさて、火の宝玉の場所が分かりましたが・・・?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ