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決断

ふと気が付くと真っ白な天井が見えた。


どこかで見た事のある天井だ。


静かに唸りを上げる機械の音と一緒に、一定の間隔で空気の抜ける音も聞こえる。


「コウちゃん!この子目を開けたよ!」


「あ!ホントだ!看護師さーん!」


驚いて声の方に目を向けると、若い夫婦がガラス越しにこちらを覗き込んでいた。


あの夫婦だ。


ということは?


ここは病院!


NICUだ!


安堵の笑みを浮かべる夫婦の後ろから、年配の女性看護師が公彦を覗き込んで驚いた顔をした。


ガラスケース脇にある機械を操作して何かを確認するとゆっくりと手を伸ばしてきた。


「まさか、俺はあの玉が入るはずだった子供に生まれ変わったのか?!」


看護師の大きな手が迫る。


しかし、その手は公彦ではなく、脇に寝ていた小さな赤ちゃんをそっと包み込んだ。


「あれ?俺じゃない」


抱き上げられた赤ちゃんは、両親と看護師の笑顔に囲まれて小さな手足をばたつかせた。


「もう大丈夫ですよ、まだしばらくは保育器の中だけどすぐ退院できるでしょう」


看護師はにっこりと笑顔で言うと、夫婦は顔を見合わせてホッとした。


特に母親は涙が落ちるのをグッと堪え、唇を噛み締めながら微笑んだ。


「間に合ったな」


後ろからレイジの声が言った。


「そうなのか?あの魂は入ったのか?そうか、良かった、ほんとに」


小さな赤ちゃんを見ていると、なぜか目頭が熱くなった


レイジはあまり表情を変えないが、ゆっくりと頷いている。


「おれ、母さんに悪いことしてたよ。親父が出て行ったのは全部母さんが悪いんだと思ってた。妹にまで八つ当たりしてさ。まだ保育園児なのに。ホントは俺が支えてやんなきゃいけなかったんだ」


公彦はゆっくり立ち上がると、母親に抱きかかえられている赤ちゃんに歩み寄った。


振れることはできないとわかっていても、そっと手を伸ばしてみる。


「あれ?これは」


伸ばした手の先が風に吹かれた砂のように崩れて始めている。


「だめか、まぁ仕方ないのかな」


なぜかそんな言葉が口を突いて出た。


残念な気持ちは当然あるが、それ以上に達成感で胸がいっぱいだった。


赤ちゃんの大きな瞳がしきりに辺りを見回しているのを見て、両親は涙ぐみながら喜んでいる。


「母さんたちが別れた理由は分からないけど、俺が産まれた時もこんな風に笑顔だったなら、俺は生まれて来てよかったと思えるんだけどな」


公彦はため息交じりに、でも何かスッキリした顔で言った。


「もっと笑顔だったよ」


「そうか。でも、もう何もできないんだな・・せめて母さんにありがとうって言いたかった」


そう呟く公彦を赤ちゃんの大きくて真っ黒な瞳がじっと見つめた。


「なんだよお前、俺が見えんのかよ?」


冗談半分に覗き込むと、その瞳には公彦の顔が写り込んでいる。


「え?なんで?」


「ふふ、この子が君にお礼をしたいそうだ」


「は?なんだそれ?何してくれるんだよ」


皮肉っぽくレイジを振返ると、そこは病院ではなく学校の見慣れた教室の中に変わっていた。



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