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加速

「時間は残り僅か、間に合うかな?」


レイジは手のひらに乗せた砂時計を眺めて呟いた。


足元は白く煙ってよく見えないが夢中で足元を蹴り付けた。


「何でだ?うまく飛べないぞ?」


少し動くだけで体中に切り刻まれる様な激痛が走るが絞り出すように呟いた。


「ココでは飛べないんや!玄関みたいなもんやからな!」


「玄関?だからこの玉も小さくなってんのか?」


「ん?それはアカン!時間切れや!急がな肉体が死んでまうで!」


「なんで?レイジは2日は持つって」


「人間の時間とは違うねん!早う!走れ!」


コッチは取り乱してぐるぐると変な回転をしながら叫んだ。


「向こうが少し青くなってるやろ?!あの向こうに階段がある!」


「階段?帰りは階段か?くそぉ!」


白い煙が絡みついて足が重く感じたが、両手でしっかりと球を掴んだまま歯を食いしばって走り続ける。


辺りの白い空間が徐々に色付き、真っ青な空が目の前に広がった。


「うわぉ!なんだこりゃ?!」


足元の白が突然途切れると、そこから半透明の階段が延々と地上へ伸びている。


それは気の遠くなるような長さだ。


「時間がない、止まるな!!」


「わ、わかってるよ!」


声が上ずった。


雲海が遙か眼下に広がっている。


顔を上げると限りなく黒に近い空があった。


余りの高さに足が竦み膝が笑う。


「宇宙・・か?」


大きな深呼吸を一つすると倒れ込むように階段を駆け出した。


遠くに太陽が沈んでいく地平線が黄金の帯状に光っている。


轟音を立てながら吹き荒れる風の中、思わず放しそうになった手には無意識に力が入った。


「待ってろよ、今行くからな」


一段飛ばし、二段飛ばし、徐々に飛ばす段数は多くなりグングン速度が上がっていく。


やがて足元の段差もよく見えなくなるほどスピードが上がり、飛んでいるかのごとく走り続けた。


そのスピードと高さに心は委縮し、緊張は頂点まで後僅かまで迫った。


「怖くない、怖くない!レイジ、捕まえたぞぉ!」


顔を皺くちゃにして力の限りの大声で言った。


「俺を元に戻してくれ!」


  すでに肉体は無いのにどうやって戻る?


「何とかしてくれよ!役目は果たしたぞ!」


  子供の肉体は死にかけてる、間に合うかどうか


「間に合わせる!だから俺を元に戻してくれ!みんなの所に帰らせてくれ!」


  ・・・


「このまま一人で消えていくなんて嫌だ、まだみんなと一緒に居たい、母さんに謝りたい、智華に優しくしたい、もっと一倉と話がしたいよ!頼む、帰らせてくれ!」


最後の言葉は震えて、いつの間にか流れ出した涙は止まらなくなっていた。


「うおおおおおおぉ」


スピードはさらに増して、階段や周りの空と地上の景色が歪んで白く輝きだした。


公彦は体中の感覚と意識が遠ざかって行く中、ひたすら祈り続けた。



 ・・・母さん。



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