表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/33

8:インターバル

 森の中、大きな大きな杉の樹の下で独りの少年が泣いている。

 少年は兄を待っていた。

 この島では少年はいつまでも7歳のままで、そして少年の兄も、はたちのまま。

 杉の樹も深緑の苔を生やして、空にはカケスの鳴く声、どこかで猿の遊ぶ音も聞こえる。すべてはあの頃のままだった。

 でも少年はそれらが、つかの間のまぼろしである事を知っている。知っているけれども、ここに来ずにはいられない。兄に逢わずにはいられない。この島以外には泣く場所など、無いのだから。

「ミツ、ほら、何を泣くの?石南花( しゃくなげ)が咲いているよ」

 ややテノールの兄の声に、少年は振り返る。

「おいでミツ、石南花がきれいだよ。見に行こう」

 広げた兄の腕の中に少年は飛び込んだ。

「兄ちゃん兄ちゃん……」

 胸に頭を押し付けて泣きじゃくる、年の離れた弟を、兄は優しく抱き上げた。

「兄ちゃん……おれじゃむりだよ…力がないんだ、みんな死んじゃう…悲しくておれ、もうだめだよう……」

 少年は、兄の体を強く抱きしめた。まぼろしと知っていてもそれは温かく。

「おねがい一緒に来てよ……誰も味方がいないんだ、おれ淋しいよ、淋しくてだめだ、兄ちゃん……兄ちゃんおねがい」

 けれど兄は悲しげに首を振る。

「可哀相に……ごめんなミツ、ごめんな……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ