8:インターバル
森の中、大きな大きな杉の樹の下で独りの少年が泣いている。
少年は兄を待っていた。
この島では少年はいつまでも7歳のままで、そして少年の兄も、はたちのまま。
杉の樹も深緑の苔を生やして、空にはカケスの鳴く声、どこかで猿の遊ぶ音も聞こえる。すべてはあの頃のままだった。
でも少年はそれらが、つかの間のまぼろしである事を知っている。知っているけれども、ここに来ずにはいられない。兄に逢わずにはいられない。この島以外には泣く場所など、無いのだから。
「ミツ、ほら、何を泣くの?石南花が咲いているよ」
ややテノールの兄の声に、少年は振り返る。
「おいでミツ、石南花がきれいだよ。見に行こう」
広げた兄の腕の中に少年は飛び込んだ。
「兄ちゃん兄ちゃん……」
胸に頭を押し付けて泣きじゃくる、年の離れた弟を、兄は優しく抱き上げた。
「兄ちゃん……おれじゃむりだよ…力がないんだ、みんな死んじゃう…悲しくておれ、もうだめだよう……」
少年は、兄の体を強く抱きしめた。まぼろしと知っていてもそれは温かく。
「おねがい一緒に来てよ……誰も味方がいないんだ、おれ淋しいよ、淋しくてだめだ、兄ちゃん……兄ちゃんおねがい」
けれど兄は悲しげに首を振る。
「可哀相に……ごめんなミツ、ごめんな……」