銀猫
ある秋の日の放課後。冷え冷えとした風に身を震わせながら、自宅までの道をのんびりと歩いていました。近々カーディガンを新調しよう、などと他愛もないことを考えていた矢先。ふと、道路脇に見慣れないものを見つけて足を止めました。それは所々罅割れたアスファルトの地面の上で、明らかな異質さを放っていました。
溺れるような朱殷の端に、一匙の白。鼻腔を突く強い鉄錆の匂い。それは仔猫だったものでした。あまりにも、むごい。わたしは目の前の惨状にえづきながらも、その場を離れることができませんでした。
見なかったことにしても、誰か親切な人がこの子を抱き上げて、供養してくれるかも知れない。そんな思いが一瞬頭をもたげましたが、近くの電柱にハシブトガラスの群れが止まっているのが嫌でも目に入りました。このままではこの子の身体が食い荒らされてしまう。或いは、それも自然の摂理? 自然の摂理という言葉を建前に、死から目を逸らそうとしているだけでは。
矢継ぎ早に巡る思考を振り切り、痩せこけた仔猫の身体をそっと抱き上げました。制服の袖が血液で汚れることなんて気にもなりませんでした。懸命に生きていたであろう、この小さな命の前では。枯葉のような軽さに、思いがけず頬を涙が伝い落ちました。
「おいで。もう一人にしないよ」
帰路に着いたわたしは、温めのお湯で濡らしたガーゼで埃にまみれた仔猫の身体を優しく拭きました。目の粗い平織りの生地がたちまち鈍い赤色に染まっていく中、柔らかな銀色の毛並みが顔を出します。黄昏時の明かりを受けて、毛先が透明に光り輝いていました。真綿の雪のような清らかさに、わたしは思わず目を細めました。こんなにも美しい命が、なぜ世界に拒まれたのでしょう。確かな理由などどこにもないと知りつつも、わたしは問いを捨てきれませんでした。
新しいガーゼで目元の汚れを拭うと、半分開いたままの両目が露わになりました。血管の色が透けた赤みががった虹彩は、割れたビー玉のように何も映していませんでした。この子は、最期の時に何を見たのでしょう。胸の奥がきゅっと軋みました。
「.....もう、何も見なくていい」
指先でそっと、両目を閉じてあげました。
物置からガーデニング用の大きなスコップを取り出し、庭にせっせと深い穴を掘りました。野生動物に掘り返されないように、充分な深さの穴を。勝手にスコップを使ったこと、見ず知らずの仔猫を埋めようとしていること、後々両親に叱られるでしょうか。否、あの方たちは自分のことにしか関心がないので、きっと気づかないのでしょう。
綿素材のタオルで仔猫を包み込み、僅かばかりでも弔いになればと、庭に咲いていた紫苑の花を添えて安置しました。掘り起こした土を丁寧に被せながら、切に祈っていました。あなたに安らかな眠りを。
盛り終えた土の上に、子供の頃川で拾った翡翠の石を目印として置きました。わたしの宝物だったもの。静かに瞼を閉じ、両手を合わせました。
わたしは忘れない。あなたが生きていたことを。




