宇宙で雨宿りを
トキは、宇宙にいる。
青い地球にうずまく雲を、自分の身体よりも下に見ている。
数分前。
大学生トキと同居人のきつねは、急な土砂降りの雨に見舞われた。乗るつもりもないバス停の、屋根の下に駆け込む。
トキは黒髪に黒い瞳の青年だ。
隣の少女は、きつね色のベリーショートの髪、耳、尻尾を持っている。耳と尻尾は偽物だが、引っ張ってもとれない。
雨が嬉しそうなきつねは、髪の濡れたトキのどんよりとした顔を見て不思議そうだ。
目が合うと、ニコッとした。
「トキさま、きつねに任せて!」
「いや、何もするな。しばらく待って、小降りになったら……」
きつねは水色のワンピースのポケットから『願いを叶えるおもちゃのスマホ』を取り出す。
「きつね? 俺は、雨をしのげる場所に行きたいなんて言ってな……あ」
ピッポッパッ
プルルルル…… プルルルル……
きつねのスマホは、壊れている。
願いは、ろくな叶い方をしない。
ガチャッ
トキは、宇宙に投げ出される。
死を覚悟するが、息ができることに気づく。
トキは、ふわりと月に着地する。
「……帰れるのか、これ?」
トキは慎重にスマホを取り出す。圏外だが、きつねに繋がるように念じてみる。
プルルルル プルルルル……
『大丈夫、トキさま! すぐ行きます!』
「きつね、おまえな……」
『わかってますってばぁ、寂しくなっちゃったんですか?』
トキはブツッとスマホを切る。
「トキさまぁ〜!」
きつねが猫を抱えてやってくる。
「おーまーえーなー……なんで猫?」
「宇宙といえば猫かなあって思いました!」
「おまえ最近、ネットに毒されすぎだぞ」
きつねはふわっ ふわっ と歩き、トキのとなりに座る。
ふたりで地球を見る。
住んでいる町に降る雨を思う。
「雨に降られて欲しくないなんて、トキさまって変わってますね」
「そうか? 普通、降られたくないだろ?」
「みんな、雨をください って、神様にお願いするじゃないですか」
「大昔でもあるまいし」
きつねは話をやめる。
トキにぴとっと寄り添う。
「宇宙で雨宿りなんてロマンチックですねえ」
「なあ、帰れるのか、これ?」
「トキさま、帰りたいんですか?」
トキは口をおさえる。
最近、願いを口にするのが怖くなっている。
「うーん 宇宙から、雨になって地球に降り注げば、もっとロマンチックですかね?」
「いや、燃えるだろ!? 絶対ダメだからな!?」
十五夜の時期だったが、月にはうさぎは見当たらなかった。
ただ、きつねが連れてきたから、月には猫がいた。




