家事分担にはロボットが必要だ
男女問わず、家事分担表ができるといい。二人は家事分担ができない夫婦である。いまやロボットに家事をやらせる時代である。家事は分担だ。あらゆることをロボットにやらせていこう。
まずは、掃除だ。部屋の掃除はロボットに任せよう。以前は iRobot のルンバが流行った。部屋をぐるぐる回ってあちこちのコンセントを抜き散らして、壁に穴を開けたり、外に飛び出して迷子になったりしたようだが、今は大丈夫だ。別の製品にした。ルンバが駄目ならば、他の製品があるじゃないか。ルンバにも老後が必要だ。いまでは台所の脇でひっそりと余生を送っている。たまに充電してやるとぴかぴかと嬉しそうにしている。
次に食洗器だ。食器洗いはロボットに任せよう。食洗器は、食器を入れてスイッチを押すだけで、あとは自動で洗ってくれる。食器を洗うのは面倒だ。食洗器に任せてしまえばよい。食べた後は、食洗器に突っ込む。食べ残しのハンバーグや、ポテトや、ナゲットの類も入れてしまう。食洗器は強い。80度の高温でがしがしと皿を洗ってくれる。更にこびりついた油や、醤油や、味噌の汚れも落としてしまう。ついでに、キャラクタの色付きの皿の模様や、プリントされている花柄も落としてしまう。なんといっても、色付きのコップを入れておけば真っ白になる。実にきれいに漂白された皿がでてくるわけだ。きれいさっぱり。ついでに漆の皿や、木の皿や、ガラス食器も入れてしまう。もう、きれいさっぱりになる。なんて断捨離なんだろうってぐらい。すごいぞ。食洗器。
次は洗濯機だ。洗濯機なんて昔からあるように見えるけど、今のロボット洗濯機は凄いぞ。部屋に散らかった服やら靴下やら下着やらを見つけては、洗濯機に放り込んでしまう。まさしく、歩く洗濯機というところだ。がんがんと洗濯物を取り込んで、80度の熱でがんがん回す。日本だと水道水の冷たい水で洗うようだが、この洗濯機はそんなやわなことはしない。まさしく熱湯で服を洗うのだ。回転は縦横無尽。従来型のように水平に回るものから、ドラム式のように横になるものもある。なんと、洗濯機が横倒しになったり縦になったり、洗濯機自身がぐるぐるとまわったりして飛び跳ねるのだ。さらに、部屋の洗濯物が無くなると、俺の服まではぎ取ってしまう。靴下から、パンツから何もかも洗濯機の中に入れてしまうものだから、俺は裸同然となってしまう。いや、裸そのものだ。しかし、ここで安心してはいけない。洗濯機から飛び散る熱湯を避けながら、やけどをしないように過ごすことが必要なのだ。なお、このロボット洗濯機は洗濯だけでなく乾燥機能もついているので、80度の熱湯で洗った後は、80度の熱風で洗濯物を乾かしてくれる。ぐるぐるぐるぐると1時間ほどまわった洗濯物は、乾燥モノになって飛び出してくるのだ。まるで干物のようだ。乾燥した洗濯物があちこちにまき散らされるのである。
そこで、洗濯物たたみロボットの登場だ。なんといっても、洗濯ものを畳むだけの専用ロボットという贅沢さだ。専用ロボットといえば、昔から半熟のゆで卵を割る機械とか、ゆで卵をうすく割るだけの機械とか、ビールの栓を抜く機械とか、ワインの栓を抜く機械とかがあった。いまでは、すべてロボット化されている。半熟のゆで卵を割るロボットや、ゆで卵をうすく切るロボット、ビールの栓を抜いてくれるロボットや、ワインの栓を抜くロボットもある。ありとあらゆるロボットがキッチンには溢れているのだ。もう、キッチンの引き出しはロボットでいっぱいになってしまうのだが、なに、そんなことは大丈夫。いまでは、キッチンの引き出しを整理するロボットがいるので、あちこちに散らばったロボットを綺麗に片付けてくれる。便利なものだ。
さて、洗濯たたみロボットに戻れば、洗濯機兼乾燥機ロボットが吐き出した干物...じゃなくて洗濯物を、洗濯たたみロボットが畳んでくれるのだ。これは便利だぞ。Tシャツもあれば、Yシャツもある、Aシャツもあれば、Zシャツもあるこの時代のあらゆるシャツをアルファベット順に並べて畳んでくれるのだ。勿論、洗濯たたみロボットにはシャツを順番に渡さないといけないのだが、そこもロボット化されている。シャツをアルファベット順にならべて洗濯たたみロボットに順々に渡していくのだ。それまでは、大変だった。アルファベットが少し間違えると、洗濯ロボットが拗ねてしまってだな。双腕を暴走させてしまうのだ。まるで赤ん坊がだだをこねるように腕を振り回し始めてしまう。これをなだめるのが俺の役目だった。いまは大丈夫。洗濯たたみロボットが腕を振り回したときには、子守ロボットがでてきて洗濯たたみロボットをなだめてくれるのだ。子守歌を洗濯たたみロボットに言い聞かせながら、少しずつ洗濯たたみロボットを落ち着かせていく。
ぴー、ぴー、ごごごごごごご、ぴー、ごごごごごごご
俺が聴いても雑音のようにしか聞こえない子守歌だけれども、なんともいい響きじゃないだろうか。洗濯たたみロボットは子守歌を聴きながら眠りに落ちてしまうのだ。
眠ってしまった洗濯たたみロボットを起こすのも、ロボットの役目だ。洗濯たたみの進捗管理をするマネージャ的な役割をする。居眠りをしているときには、時には竹刀でぱしぱしと叩くのである。これが人間ならば大変なことになって、やれ暴力だ、やれ虐待だ、やれ人権だ、ということになるのだが、ロボットなのでそんなことはない。しかしだな。最近は、ロボットの人権(ロボットなのだからロボット権か?それとも、奈良の鹿のように鹿権かもしれない)を主張する人がでてきて大変なことになっている。家庭内暴力だとか、もう警察が踏み込んできてしまうのだ。家庭のことなのだから干渉しないでほしい。ゲームは1日2時間です、なんてのは前時代的な話である。ゲームなんて24時間やっているじゃないか、いまや人生はゲームであり、すべての作業はロボットがやってくれるのだから。ゲームが1日2時間しかできなかったら、他の20時間は何をすればいいのだろうか?いや、寝ている時間があるから20時間フルという訳ではないのだが、ええと、それでいいのか? AI にちょっと聞いてみよう。
<暫し中断>
ああ、大丈夫。2時間のゲームをしたら、残りは22時間だ。まあ、それはいいとして、ええとなんだっけ。そうそう、洗濯たたみロボットを叱咤激励する洗濯たたみマネージャーロボットの登場である。マネージャーロボットは口だけ出して(と言いつつロボットには口はないので、竹刀しかないのだが)洗濯たたみロボットを働かせる役割を担っている。それまでは、人間があれこれと飴やら油やらをささないと不貞腐れてしまったものだが、いまならば大丈夫。洗濯たたみマネージャーロボットの登場であり、人間はそれを眺めるだけになった。うん、便利なものだ。洗濯たたみマネージャーロボットはあの手この手(とは言っても竹刀しか持っていないのだが)を使って洗濯たたみロボットを働かせるのだ。あっちを小突き、こっちを小突く、たまには、あっちをぐりぐりして、こっちをなでまわしていく。まるで、そう。なんかこっちが恥ずかしくなるぐらいに、ねっとりと洗濯たたみロボットを小突いていくのだ。それを見るとだ、なんとも洗濯たたみロボットのほうもまんざらではなさそうに、ちょっと頬を染めて(頬なんてないんだけどな)、嬉しそうにするわけだ。おい、小突かれているんだから、きっちりと畳んでもらおうじゃないか、と俺は思わなくもないのだが、そんな野暮なことは言わない。しあわせならばいいじゃないか。家庭円満が第一だ。
そんなところに、洗濯ロボットが割り込んでくるのだから困ったものである。洗濯ロボットは、洗濯たたみロボットと洗濯たたみマネージャーロボットがイイ感じになっているところに、洗濯ものをぶち込んでくるのだ。おい、いま、いいところなんだから、そんな野暮はいかんだろう、と俺が言うまでもなく、洗濯ロボットは、俺のTシャツや俺のYシャツや俺のパンツを突っ込んでくるのである。パンツなんて、縞々のものと、ブリーフのものがあるわけだが、いやそんなことはどうでもいい。さるまたけが生えていないだけで十分だろう。そんなパンツが飛び交う中で、洗濯たたみロボットが逃げ惑うのである。洗濯ロボットがガシガシと回転しながら迫っていくのだが、洗濯たたみロボットはおいそれとは追いつけない。ときには床に落ちてしまったフォークを取る給仕ロボットを避けて、あるいは床にパンのジャムのほうが落ちてしまったときに床を拭くロボットを飛び越えていく。もちろん、パンにジャムのついてないほうが落ちたときに床を掃くロボットもいるわけだが、このロボットの出番はない。なぜだろうなぁ。なんで、こんなロボットを買ってしまったのだろう。セールスマンロボットの口車に乗せられてしまった過去の俺を恨むように、過去の購入履歴を見つけてくれる AI ロボットが俺に囁くのを聞きつつ、洗濯たたみロボットを眺めているのである。なんて、平和なんだ。ロボットたちが家庭で仲良く暮らしているのを見るのが俺のなによりも幸せだ。なあ。
と、隣にいる妻ロボットの肩に手をまわしながら、俺は言った。
【完】




