表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第7話 引きこもり、始めました

 それから、「ヒロインの出自を嘲笑う」


 これはもう、カミラの常套句みたいなもんだった。


「平民はこれだから困るわ」「育ちが知れる」「身の程をわきまえなさい」


 ことあるごとに、リリアンヌちゃんの家柄や育ちを馬鹿にしてた。


 学園の食堂で、リリアンヌちゃんが質素なお弁当を食べているのを見つけては、「まあ、そんな貧相なお食事でよく満足できますわね。まるで家畜の餌のようだわ」とか。


 ひどい。ひどすぎる。人の心がないのか、カミラは!


 リリアンヌちゃんは、いつも毅然として「家柄や生まれで人の価値は決まりませんわ。私は、私の家族を誇りに思っています」って言い返してたけど、内心はすごく傷ついてたはず。


 そんなリリアンヌちゃんの強さに、攻略対象の王子様や騎士様たちは惹かれていくわけだけど……一方で、カミラの人間性は底辺まっしぐら。


 ああ、もう本当に、なんでこんなキャラに転生しちゃったんだ、私……


 それから、取り巻きを使ってヒロインに圧力をかけたり、嘘の噂を流してヒロインを孤立させようとしたり、他にも……


 こんなこと繰り返してたら、そりゃ断罪されるよ!自業自得だよ!


 ……はぁ。


 思い出すだけで、どっと疲れた。そして、改めて絶望した。


 こんな悪行の数々を積み重ねてきたカミラ・フォン・エルヴァーン。それが、今の私。


 もう、どうしようもないくらい、手遅れな気がする。


 リストアップすればするほど、カミラの悪行の数々に眩暈がしてくる。


 自己嫌悪で胸がいっぱいになって、ぎゅーっと布団を握りしめた。


「もう誰にも会いたくない……」


 こんな悪名高い女が、のこのこ外に出ていけるわけがない。石を投げられても文句は言えないレベルだよ、これ。


 しばらくして、アンナさんが軽食を運んできてくれた。


 銀のトレイの上には、温かいスープと、焼きたてのパン、それからフルーツが少し。美味しそうだけど、喉を通らない。


「……ありがとう。でも、やっぱり食欲ないから、少しだけいただくね」


 スープを二、三口だけ飲んで、パンには手をつけずにアンナさんに下げてもらった。


「お嬢様、本当に大丈夫でございますか? 顔色が真っ青でございますが」


「うん、大丈夫。寝てれば治るから……」


 アンナさんは心配そうな顔に見えるけど、多分ポーカーフェイス。そんな顔で、一礼して出て行った。


 そこから数日間、私の本格的な引きこもり生活が始まった。


 朝、アンナさんが「学園へは……」と恐る恐る聞いてくるけど、私は毎日「頭が痛いから休む」の一点張り。


 最初は「またいつもの癇癪か」くらいに思ってたかもしれない両親も、さすがに三日も続くと不審に思ってるかもしれない。でも、特に何も言ってこないってことは、やっぱり「何か企んでる」って静観されてるのかな。それか、もう愛想を尽かされてるか。どっちにしろ、今の私には好都合だけど。


 ベッドの中で、ただひたすらこれからどうすべきかを考える。


 ゲームだと、カミラは断罪イベントを迎えて、国外追放か、良くて修道院送り。最悪のバッドエンドだと、命の保証すらないかもしれない。


 それは、絶対に嫌だ。


 でも、じゃあどうすればいい?


 今から善行を積んでイメージアップ? 無理無理。だって、すでにやらかし済みなんだよ? 「あいつ、急に良い子ぶって、何か裏があるんじゃないの?」って思われるのが関の山。


 それに、そもそも外に出る勇気がない。


 学園の冷たい視線、陰口、想像するだけで足がすくむ。もう、人と関わるのが怖い。


 窓の外からは、時折、小鳥のさえずりとか、遠くで誰かが楽しそうに話している声が聞こえてくる。


 そういうのを聞くたびに、ズキン、と心が痛む。


 みんな、普通に生きてるんだ。私だけが、こんな部屋に閉じこもって、見えない何かに怯えてる。


 前世の私も、そうだった。


 教室の隅っこで、いつも一人。クラスメイトたちが楽しそうに話している輪の中には、どうしても入れなかった。誰かが私を見てヒソヒソ話してるんじゃないか、私のことを笑ってるんじゃないかって、いつもビクビクしてた。


 結局、悪役令嬢になっても、私は私なんだ。どこに行ったって、こうやって怯えて、引きこもって、誰とも関われずに生きていくしかないのかもしれない。


 でも、だからといって、あの悲惨な結末を迎えるのは……絶対に、絶対に嫌だ。


 とりあえず、これ以上ヘイトを稼がないことが最優先。破滅エンドだけは絶対に嫌だから。


 そのためには……うん、やっぱり、部屋から出ないのが一番安全だ。


 誰にも会わなければ、これ以上嫌われることもない。新たな悪行を「やらかす」心配もない。


 そうだ、それがいい。それが一番マシな選択だ。


 私は、布団をもう一度頭まで深く被った。


 真っ暗な布団の中で、小さく丸くなる。


 ここが、今の私の唯一の安全地帯。


 外の世界は、怖いものだらけだから。



いつも応援ありがとうございます!


【お知らせ】本作がKindleで販売中(個人出版)


販売先リンク

https://www.amazon.co.jp/dp/B0FCCZX5QX


Webで楽しんでくださっている皆様にも、書籍という形でこの物語をお手元に置いていただけたら嬉しいです。

皆様からのご購入が、今後の創作活動の大きな励みとなります。ぜひ、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ