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まずは体力づくりからだった
術後の経過観察が一段落した後僕はイリナを外へ連れ出した
森の外れに広がる起伏のある草原
足場の悪さ、風の強さ、予測不能な自然の変化そこを走らせるのだ
最初の数日は、五分も持たなかった
だが構わない
筋力、持久力、反射神経――全てを一から鍛え直す
なぜなら魔力の運用には膨大な体力が必要だからだ
魔力を使う度に体内のエネルギーは消費され魔力切れを起こせば意識すら失う
そうなったら僕の護衛も助手も務まらない
だから彼女には、まず基礎体力をつけさせる必要がある
鍛錬の合間に教えたのは薬の調合だった
乾燥させた薬草を計量し、砕き、煎じ、冷まし、瓶詰めする
単純な作業に見えて、その実は極めて繊細なプロセスで成り立っている
ただの労働ではない
調合の訓練は、正確さと集中力を要する工程を反復させることでイリナに冷静な判断力と忍耐力を養わせる狙いがある
繊細な作業に従事させることで、魔力操作に必要な感覚を間接的に育む訓練にもなる
いずれ複雑な錬金術式を扱わせる日を見据え、段階的に“道具としての資質”を育成する必要があったのだ
そして、もう一つの大きな理由――資金調達
錬金術の研究には多くの素材や装置が必要でそのためには資金がいる
父からの小遣いには限界があるしいつ打ち切られるかも分からない
薬の調合と販売は僕が独力で研究を継続していくための現実的な収入源だった
つまりイリナには助手としてだけでなく僕の研究を支える生産要員としての役割も担わせねばならない
そのための教育であり、訓練だった
数ヶ月は地道にやらせる予定だ