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04

 僕の初めての奴隷兼将来の助手候補・イリナ(仮)を家に連れ帰ると

 屋敷は案の定ちょっとした騒ぎになった


 玄関ホールの扉を開けた瞬間数人の使用人が目を見開き絶句するその視線の先にいるのは

 従者が背負った簡素な担架の上に横たわるボロ布のようなイリナ(仮)だった

 彼女の顔は腫れと汚れで原型を留めておらず衣服は麻袋を裂いたような粗末なもので血と汚物の跡が生々しい


 父は額に手を当てて深く嘆き

 兄は呆れと嘲りの入り混じった目で僕を見た口元にはわずかに皮肉な笑みを浮かべ

 まるで『また妙なことを始めたのか』とでも言いたげな表情だった

 使用人たちは顔を見合わせ、小声でざわめいている


 だが僕は気にしないむしろ、予想通りの反応に内心ほくそ笑んでさえいた


「……ノエルよお前、それはまさか――奴隷か?」


 玄関ホールの階段脇に佇みながら、父が重々しい声で問いかけた


「はい!買ってきた子です」


 僕は涼しい顔で応じた従者が背負う担架の上にはぐったりと横たわる少女がいる


「……まさか、お前が、手ずからそれを……」


「いいえ、これから施しますが命だけは何とか繋がっています」


 その言葉に、父は重く沈黙し兄は肩をすくめて呆れたように鼻で笑った


「へぇ、ノエル今回は随分と壊れた玩具を拾ってきたんだな壊し甲斐でもあったのかい?」


 その言葉に周囲の空気が一瞬凍りつくだが僕は動じないただ淡々と返すだけだ


「修理が利くかどうかはこれから見てみないとね」


 この程度で動揺してもらっては困る僕が連れてきたこの少女は、死にかけの素材ではあるが、確かな魔力を秘めていた


 僕は、その可能性に賭けたのだ


 そして、地下研究室へとイリナを搬送する


 館の奥にひっそりと設けられた地下研究室

分厚い扉を開けると冷えた空気と薬品の匂いが鼻を突いた石造りの壁には等間隔にランプが灯され

仄かな光が器具棚に並ぶ無数の薬瓶や金属器具を照らしている部屋の一角には仮眠用のベッド

その傍らには実験用の作業台と簡易手術台整然と並んだ道具の数々はまさに僕の“聖域”とも言える場所だった


 その仮眠用ベッドにイリナを寝かせた僕は静かに息を整え器具と薬剤の準備に取り掛かった


 まずは全身麻酔そこから増血剤と抗感染処置腐った組織を切除し砕けた骨を整形し人工皮膚を張る


 ……前世の僕が医者だったわけでもないただ、転生者としての現代医学の知識と魔法による回復の技術

錬金術による素材再生の技術を総動員すればこの程度の修復は可能だった


 実際には簡単ではなかった


 血の処理が追いつかず回復魔法が間に合わない場面もあった途中で目を覚ましたイリナが声も出せずに涙を流したとき僕は少しだけ躊躇したかもしれない


 けれど僕の目的は明確だった


 彼女は僕の“研究”に必要な素材であり、将来の助手である可能性を秘めた貴重な存在


 ここで死なせるわけにはいかない


 だから、切り裂いた繋いだ繕った


 何度も、何度も――


 そして、手術は成功した


 傷は癒え、皮膚は再生し、崩れていた顔の輪郭は滑らかなラインを取り戻していた


 もはや、かつてあれだけ酷い暴力を受けていたとは誰も思わないだろう


 鏡を前にしたイリナが、初めて涙を流し、微かに震える声で「ありがとう」と呟いたとき――


 僕は確信した


 この子は、使える


 その魔力の波動は弱々しくも緻密で確かな制御の素養を感じさせる処置の合間に触れた魔力の手応えはまるで繊細な糸を撚ったかのような純度と安定性を備えていた

あの再生手術の最中にすら魔力が暴走することは一度もなかった

それは、並の素質では決してない


これで、ようやく次の段階へ進める

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