02
小さな鼠の檻に手を伸ばす
選んだ一匹は、右前足を失っていた
僕が実験のために切断したものだ
暴れる鼠を強引に押さえつける
悲鳴にも似た鳴き声を無視し用意していた“素材”を欠損部にあてがう
そして、呪文を唱えた
「≪錬金≫」
光が集まり、素材が鼠の一部として組み直されていく
ひときわ明るく光った後、そこには再生された右前足があった
これが、錬金術
物質を組み替え、他のものへと変換する技術
鉄を金に、石を肉に、素材を命に変える
極めれば魂すら“錬成”できると伝えられる、最古の魔術体系
この技術に、僕は賭けている
死を超えるための、唯一の可能性として
「……やはり、限界か」
素材の品質、魔力の配分、術式の応用範囲――まだ不足がある
今の段階では、生体の部位再生が限界
魂や寿命への干渉には届かない
このままでは、僕はまたいずれ死ぬ
それを受け入れるわけにはいかない
「補助が必要か……そろそろ、次の手を考えるべきか」
僕の内心には焦燥と苛立ちが渦巻いていた
まだ幼いこの身体では、使える力に限界がある
知識はある。経験もある。だが、身体がそれに追いつかない
苛立つ。歯がゆい。死んでたまるか
ふと、朝の会話が脳裏をよぎる
「ノエル。貴様も八つになったのだ
いつまでも戯れに耽る年齢ではあるまい
今日の午後、奴隷市へ赴け
人を使うということが、どういう責務を伴うか学んでこい」
父マルカスの言葉だった
このアルデグリフ帝国においても、貴族の責務は血と共に継がれるものとされている
あれは教育の一環だ
貴族の子息として、他人を使役する訓練を積ませるための通過儀礼
僕は素直に従うふりをした。だが実際に求めているのは、従者でも従僕でもない
研究の補助となる存在――実験体たり得る“素材”だ
「……そういえば、今日は奴隷市だったな」
本来は、父の命令で人使いの教育の一環として出向く予定だった
もちろん、僕ひとりで行かせてもらえるわけもなく従者が一人同行することになっている
けれど、どう使うかを決めるのは僕だ
ならば――研究に活かすだけだ
浮かんだ選択肢に、僕はためらいもなく頷いた
使える存在があるなら、何だっていい
感情も、命も、その魂すら――僕が生き残るための“材料”だ




