01
「……しばらく見てなかったのに、またか」
つぶやいた声に、籠の中の鼠がチチチと鳴いた。
まるで嘲笑うように。
原因は分かっている。研究が、止まっているからだ。
不死を目指す研究。
死を回避するための、僕の足掻き。
「時間は……まだあるはずなんだけど」
ランプの光に手を翳す。
短く未成熟な指。赤銅色の髪が手首にかかる。
そう、僕は――生まれ変わった。
ノエル・エラディン。年齢、八歳。
だがこの幼い肉体の奥には、別の人生を歩んだ記憶が眠っている。
――輪廻転生。
一度死に、そしてもう一度生まれた。
記憶も、意志もそのままに。
前世の詳細など語る必要はない。
現代日本で生まれ、早すぎる死を迎えた。それだけ知っていればいい。
重要なのは、「僕が再び死ぬ可能性がある」ということだ。
そして僕は知っている。
その死が、どれほど空虚で、絶望的なものかを。
だからこそ僕は、再び死なないための手段を探し続けている。
僕にとって、倫理も人道も、感情ですら副次的なものにすぎない。
目的は一つ。
――死なないこと。
あの“無”へ還る恐怖を、もう一度味わうくらいなら、他のすべてを犠牲にした方がマシだ。
記憶が剥がれ、言葉が消え、感覚も情緒も溶け落ちていくあの瞬間。
何も感じない、ということすら感じられなくなる。
そんな場所に、僕は二度と戻りたくない。
そのためなら、命も心も、君も、あれも、使わせてもらうよ。