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さらに二年が過ぎた
「――じゃあ、最終試験だ
手に持った物で自害しろ」
僕が命令を下すと両手にロープの端を握った奴隷は遅疑することなくそれを引き絞った
そのロープが自分の首に巻き付いているというのに
「ぐ、げ…っ」
生きながら蛇に締め殺される蛙のような声が上がる
首締めは苦しい
味わったことがある人なら分かるだろう
呼吸をせき止められ、血の往来さえも阻害されて、気が遠くなる
酸欠で頭は霞み、眼球の裏が焼け付くように熱くなる
何分も苦しみ藻掻き続け最終的に下半身から大便尿をもらして死ぬのだ
しかし、それでもその奴隷は自らの手で首を締め続ける
そのすべては僕の言葉一つのために
「イリナ、魔法は作動したかい?」
「いえ、魔力の放出、術式の立ち上がり、いずれも検知されません」
「よし、なら問題ない」
その言葉と同時、被験者はガクリと痙攣しながら倒れた
ロープが滑り落ちる音と共に、体が硬直したまま床へ崩れる
直後、床に鼻を突くような悪臭が漂い始めた
死んだのだ。魔法ではなく、言葉の命令のみで
「被験体のバイタル停止を確認しました
実験、成功です」
イリナの静かな声が、この研究の飛躍的前進を告げた
端正に整えられた顔の奥、蒼い瞳の奥底で微かに喜びの光が揺れる
僕は高笑いしたい衝動を必死に堪えた
「……長かったなあ、脳改造による完全服従、ここまで展望するのに」
そう、脳改造だ
魔法による服従はあくまで仮初めに過ぎず最終的に確実な支配を成すには自らの手で制御構造を埋め込まねばならない
手術によって脳内に従属反応を強化する神経経路を形成し意思決定を僕への服従に最適化する
その結果が――自殺すら実行する、この結果だった
そして、イリナは忍耐を続けた末にこの術式による最高の服従を心から願うようになっていた
「この手術を受けたら、もっとご主人様の奴隷になれるんですね……」
控えめながらも頬をわずかに紅潮させ、そうつぶやく
その声は震えていない
目線は逸らさず、瞳は真っ直ぐに僕を映していた
それは、ただの命令に対する服従ではない
明確な自我と選択に基づいた“依存”の表れだった
僕は、その従順な言葉の奥にある欲望を見逃さない
支配されることに快楽を感じるかのような甘美な陶酔
それを形に変えるための意志
僕は、まだ幾ばくかの警戒を保ちながらもしっかりとその感情を記憶に刻み込んだ
イリナは、確かに“僕のもの”として育っている




