082 礎術道具開発所
ディヴィエナ州アンクウィット市セントバシパー区にある礎術道具開発所。ここに、僕は今、コハルさんと一緒に来ている。色んな礎術道具を見ることができてワクワクなのは僕だけじゃない、コハルさんも楽しそうだ。
――さて、ラウツさんに会いに来たんだけどな。どこにいるのかな。
展示物を見やり、見学しながら、実は食堂なんかも使わせてもらえると聞いた。そんな事もありつつ見て回りながら、ラウツさんを探した。
正直、よくある魔法の道具みたいなものだから、見ていて楽しい。
あ、と思ったから僕から言ってみる。
「あれサイパイプピアノのプロトタイプだって」
「え、どこどこ――あホントだ、へえ……」
それは今より分厚い指袋と鍵盤の図と管。アコーディオンくらいの大きさの物が礎球にある今のサイパイプピアノの主流らしいけど、これはそれよりウンと大きい。音も太いんじゃないかな。調整されたんだろうな。コハルさんは知らなかったんだな、なんか感動してる。
「あんな風になってんだね」
「ねっ」
僕がそう返す。いつもの戦いの時間が嘘のように、幸せな時間。
ほかにも色んな物があるので、それらを見ていったんだけど――ペットに着けて腕輪にできる、リングサーチャーとリングのセットを見ていると――
「やあ、ユズトくん、来てくれたんだね」
声の方にラウツさんの姿が。前のボタンを開けて白衣を着ていて、ラフだなあ、なんて思っていると、それが解ったのか、
「窮屈でさあ、慎重な作業が必要な時は閉めてるんだけどね。内緒」
なんて言う。こういう人が、ガッと集中したら凄いことをやってのけるのも、何だか解る気もする。
ラウツ・クァルツと名札にもある。
そんなラウツさんに、紹介。
「恋人のコハルさん」
「おお、そうかそうか、ふうん」
「ふうんって何ですか、コ――というか僕を見て、そんな……。何です?」
「ふふ、青春してるなあと思って。僕も奥さんがほしいなあ」
「恋愛すればいいじゃないですか」
「まあほら、僕、集中しちゃうから、これに」
「まあ、解りますけど」
「初めまして」
ラウツさんが手を差し出した。コハルさんと握手。あ、そういえば僕もそんな握手してないぞ。
僕とも握手してから――僕からも話そうと思った。
「やっと休みが合致したんですよ」
とはいえ、レケを未来の僕が助けてすぐの今日で、中々いいタイミングだ。聞きたいこと――いや、話したいことがある。ラウツさんをあの時あそこで見たから。
「そうなんだね。うん、嬉しいよ、僕も君と話したかったんだよ」
サイパイプピアノの話、礎術道具を作ることについての話、それを礎術で行うことについて――その違いなんかについても話した。
「――そのためにはこの使術動物の礎術施行部の体細胞が――もしくは使術植物の一部が――って言う風に、色々と必要なものを組み合わせるんだ、それを組み込んで、練り込んだり……そうしたら金属的になったりもする。それらが作用し合った時に振動や風や礎力弾や磁場、エネルギーとして変換される訳で――中には礎術の現象そのものを引き起こすものも――だからそれを弄れれば――」
使術動物の鳥や蟹、虎、象、それらに似た礎球の生物などなど――その角や甲羅や、そういった物のこと。それを話すラウツさんは早口だった。なんだか可愛い。だからやっぱり、救えてよかった。
そんなこんなで予定していた話題に入ることにした。
「それで――時を超える礎術道具、時空ジャンパーというのを僕、前に作って、それはもう全部なくなったんですけど、ラウツさんがあの時――」
「ああ、そうだね、僕たちが僕を見た。うーん……じゃあ僕、作ってみるよ、そういう使術動物がいないでもないし」
「いないでもない? そうなの?」
「ああ。えっとね、子育てに過去に飛ぶことを活用するトキサカオオドリというのがいて――」
ほぇぇ――と興味を引きまくりの時間だった。これは期待が高まる。それにきっと、そのおかげであの状況になったのかもしれない。それにレケのことも。
それと、気になったことがもう一つ。
「ねえラウツさん、もう誰かに狙われたりしてない?」
「ん……大丈夫だよ。こうしてピンピンしてるでしょ?」
「それは確かに」
そして、ラウツさんがもう行かなきゃいけない時間になったらしい。
「じゃあ、僕はもうこれで。いやぁ、本当に君と話せてよかった。お礼も言えたし。ありがとね」
「こちらこそ!」
心温まる時間だったし、サイパイプピアノのことも聞けた。コハルさんは、僕に――
「まさか図の所にカザダマジカの頭の毛を使ってるなんて。はげちゃうっ」
「すぐに生えるって言ってたのが救いかな」
「ホントに」
って。そんなに笑うほどだから、本当に来てよかった。まあ話題的にカザダマジカには悪いんだけどさ。
それに、サイパイプピアノを作った切っ掛けが、深くて感動した。言葉を思い出す。
『近所の子が言ってたんだよ、場所を取るからピアノを置けない、持ち運びやすくて音もよくて設置しやすくて演奏しやすい、そんなものがほしいだなんてワガママだよねって。だから作ったんだ。息苦しいままでいてほしくないから』
嬉しかった。そんな人だと思えたこと、そんな人と知り合えたこと、そんな人を救えたんだということ。その全部が嬉しかった。
それから数十分が経ってから見学を終えた。
そして帰るという時、庭のベンチにラウツさんを発見。手を振りたくなる。敬愛する偉人だ。
そこからは、ゲート化させた黒い特大ビーズで帰ろうとしたけど、コハルさんが「道を覚えたい」と言ったから、地下鉄の駅へ向かった。
礎球の電車も地球の電車とそんなに変わらない。これは前にも思ったんだっけ。
そんな時だ。大事な想い人の後ろの男が、彼女のバッグを引っ手繰った。
「いっ――」
「コハルさん!」
肘をひねってしまって痛そうにしているのを癒してあげたいけど、今は――と思ったその時、男はこちらに手を向けていて、そこに狙撃手袋が無いのに、彼は手の前に青白い光みたいなものを既に生じさせていて――
――あっ……縛るだけじゃ! それに、地下!
こちらからあることをイメージして礎力を込めた瞬間、男の手からはその光が霧散した。爆発とかも特に起こらない。よかった。だけど――
――とっさに、奪ってしまった……
礎術道具を作る礎術は、上書きで恐らく消えた。
そんな事より。男を闇布で縛って駅員に明け渡すと――
「コハルさん。大丈夫?」
不透明な赤いビーズを生み出し、巨大化させ、コハルさんの腕をそこに通させた。エイド・レッドの機能を発動。
「あ。もう大丈夫」
「よかった」
ビーズを消した。無から生んだ礎物だったからそれで終わり。
そしてコハルさんの腕をさすった。
「くすぐったいけど――」
「痛くない?」
「うん。ありがとね」
「……僕が治すのは、当然だよ」
「うん。でもそう思ってくれるから、ありがとう」
「こちらこそ居てくれてありがとう。さ、帰ろう」
「うん」
肯き合ってから、歩を進めた。
それから改めて思ったけど――コハルさんが楽しめたことは、素直に嬉しい。礎術道具を作れなくなったことは、素直に気掛かりに思っている。レケを救ったあの状況を作らなきゃいけないから。
でもまあ、そこまで深刻でもない。きっとうまくやれる。そのはず。
僕はとりあえず、今を――共に歩くコハルさんを、心配させたくない。笑顔を作った。作ったとは言うけど、気持ちが伴ってないワケじゃない。大事にしたくて、幸せだ。本当にそう思う。




