077 同時出撃準備
「全員でまず安全な場所に」
レベッカさんがそう言って木工品店の前の地面に手を向けると、そこに土壁が盛り上がった。
急なことだった。きっと、店の前にいる全員がそれを見ていた。
その土壁がゲート化してどこかに繋がったようだった。だから向かう。
「じゃあ資料を持ってくる」
ツミスさんはそう言って店に入った。彼がすぐに戻ってきて、最後に彼が通った。
辺りを見ると――そこはルタの旅館の前の森の中だった。
全員がそのゲートを通ってから、土壁のゲート化が解かれた。そしてレベッカさんが土壁に向け続けていた手を更に伸ばしひれ伏させるように動かすと、数秒後、土壁が地面へと潜っていった。
そこだけ地肌が見えている。辺りには木の葉が絨毯になっているのに。
――こういうのが何かの証拠として写真に撮られたりするんだろうな……悪人がこんな移動をしていれば――
さっと木の葉を足で掻いて地肌をある程度隠すと、レベッカさんが言った。
「彼らの組織――あの場に集まる人数は、全部で何人ですか? それともまだよく解らない?」
「いえ、ほぼ調べは付いています」
涙を拭いていて今は冷静なのであろうヨイギンさんが、ツミスさんの手にある資料を手で示しながら――
「汚職警官のよく行く場所もそこで、それがまず二人、それ以外でその店に集まるのは店員や警備に扮した八人」
「じゃあ十人……と、ミターガ」
レベッカさんがそう言ったところで、僕は写真が気になった。
「ミターガの警護っぽい人が二人、写真にはいたから、それも注意しておかないと」
コクリと頷いたレベッカさんの隣から、男性の声が。
「近くの整備工場もカモフラージュのため奴らの仲間がやっている。たまに別の場所で集まる時には彼らも集まることがあった、何度も」
資料を見ながらのツミスさんの声だった。彼にテオさんが問う。
「そっちは全部で何人なんです?」
「四人です」ヨイギンさんが親指以外を立てた。「無関係な者を雇う気はなかったのか、全員が奴らの仲間です」
――組織もその楽さを選んだのか? こちらとしても都合がいい……
と僕が思った時だ。レベッカさんが「今我々には」と話し始めた。
「人数が必要です、当日はラウツさんがルシス・アスマイルを監視……お願いしていいですか?」
「ええ、そのくらいなら」
あとはどう分担するか。
気付かれずに近付き瞬時に逮捕する手段はある、ビーカーを操る礎術を使えば……。ただ、あれは一人用だ。その隙に異常事態を伝達され逃げ出されると大元の逮捕が叶わない可能性が出てくる。
――全員逮捕できれば。そのためには……
「各所担当を決め、全員が同時に」レケが言った。「それしかない。誰がどこをやる?」
僕がそちらを向いて頷いた。
その時、ツミスさんが紙をひらひらと示した。
「そのために、私たちの集めた別の情報も見てほしい」
そう言ってツミスさんが屋根のある憩いの場に向かった。今はそこに人もいない。
僕は「何かあったらこれを」と、ジオガードのバッジをラウツさんに投げて渡しつつ、みんなと移動。ラウツさんの敬礼を横目に行くその最中、ツミスさんの声が。
「名前と能力です、組織的にカモフラージュとして何の役職を担っているのか……まだ判っていない者もいますが」
東屋の屋根の下のテーブルに置かれた紙を見て、想像していった――誰が彼らと相性がいいのかと。
その紙には、どこからか隠し撮ったような写真も載っている。
『整備工場の四人』
○整備士の男、金髪の中肉中背、ロルフェ・ノフィクスはフルフェイスのヘルメット使い。
○同じく整備士の男、黒髪で小太りのホミケーダ・モノルカノルはドリンクホルダー使い。
○事務員の線の細い女、白髪のエリザ・カウストはウエストチェーン使い。
○オーナー、高身長の銀髪の男、ジジュー・シャクラ…不明。
『怪しげな店の八人』
○すらっとした金髪のバーテン、イガフィ・エゲナチナは、位置入れ替えの礎術を持っている。
○警備のスキンヘッドの巨躯の男、トッツィ・クォバーノカはバット使い。
○黒髪のウェイトレス、ユチカ・ウィトゲイは懐中時計を操る。
○バー支配人は男、黒髪、ボアキン・ナモウという名で、毛布使い。
○バー事務員、女性的な仕草をする男ロイン・パストアの礎術は不明。
○女性バーテンダー、髪を黄色に染めていて粗暴、ターナ・ノフコノは刀を礎術でも操る。
○レジ係の黒髪の男、ゾルニフ・テューザー、礎術不明。
○警備の黒い髪がある方の線の細い男、イーパリオ・ポオーテ、包丁使い。
『第二土曜のその店になぜか来る警察官』
○巡査部長の男、体格がよく白髪、ルサリコ・ラオツク、製氷皿を操る。
○巡査、金髪の男、グロミット・ジョーノフは純粋に狙撃手袋だけを使用。礎術を恐らく使えない。
「イーパリオは包丁をゲート化させられる」
「見たのか?」とはテオさんが。
「ラウツさんを助ける時に。ラウツさんを殺したのはイーパリオだ、こんな奴だった」
「なぁるほど」これもテオさん。
――あの時は蘇生を優先しなきゃいけなかったけど、逮捕できる……
「エリザも要注意だ」
「チェーンのゲートだな」
「ああ」
「それで言うと、懐中時計、毛布、刀も要注意か、包丁もあれだから」
「バットを使うトッツィも、円を描かれたらまずい可能性がある。イガフィも」
「結構きついな」
「どうやって同時に逮捕する?」
と、各々発言した。すると、
「やっぱりあれだろ」レケが。「逃走経路を閉ざすのは前提。ゲートを使えそうな奴は最優先で逮捕。それからほかの奴を」
「お互いに能力を把握しておかない?」
レベッカさんがそう言った。
「あたしはヘアボムだけ」
「そのネーミング、いつ聞いても思うんだよな」トジィさんが。「『ゴム要素どこだよ』って。ヘアボムじゃ髪が爆発――」
「可愛いからこれでいいの! だいたいさ、爆発するヘアゴム~って長いじゃん、ヘアボム四文字だよ? もうみんなあたしの力は知ってるし、自分たちの間で解ればいいんだから。ヘアボム、よくない?」
「まあ、いいけど」
トジィさんがそう言ったあと、レベッカさんがそれについてを。
「もう話は分かったし、今後ヘアボムで通してもらって構いませんから」
「ありがと」とはミカさんが。
「ボクも木ネジだけです」トジィさんの声。
「私は蛇腹のコートハンガーだけ。さっき知られた情報で全部です。ヨイギンは人形だけ」
「では、あとはこちらから。私は結束バンドを操作します、ベレスといいます」
自己紹介が終わるとそれを加味して作戦を考える。僕はそのために最後に言おうとした。自分の紹介の番になるといつもの自己紹介のあとで――
「――あと、専心礎術を覚えたよ、ビーカーを操れるようになった。で――判定ができるようになったかもしれない」
「判定?」レベッカが驚き顔。「それがあればもしかして、ゲートを使える者がほかにいても判る?」
「ええ。まあでも、まだ慣れてないからそれに頼りたくはないけど、できる範囲でだけ使います」
ビーカーへ礎力を込めること単体で水を生むことができた。
リミィさんのやり方を知っている。別の方法を取る必要は無い。紙に書いて入れた。数分の時間は掛かったが、本当にできるようになった。同じ表記で、水が赤くなる人とならない人がいた。
ゲートを使うのは四人。
ホミケーダ・モノルカノル、ドリンクホルダー使い。
エリザ・カウスト、ウエストチェーン使い。
イーパリオ・ポオーテ、包丁使い。
ユチカ・ウィトゲイ、懐中時計使い。
「ボアキンは違うのか」
「ターナも違うんだな」
「バットの奴も」
これで全部かどうかも確認。一人ずつ足していってそれで全部だと書いた紙を水に入れると、どの時も赤くなった。幾つ足してもだ。
「どういうことだ?」ツミスさんが言った。
「もしかしてこの中の誰かが無関係? だから常にこれで全員ではない?」
一人ひとり確かめる。『ターナ・ノフコノは関係者だ』と書いた紙の時だけ赤くなった。
「つまり彼女は……えっと」レベッカが言葉を探した。「関わりを断てなくなっているだけ?」
「そうかも」とは僕が。
彼女抜きで人数を確かめると、十六人の時に反応が無かった。それが真実だという証。
つまりシミーパシバー区長のミターガのほかにあと二人。やっぱり写真の、一緒のSPが怪しい。あえて彼らは無関係だとして判定するとビーカーの水が赤くなった。つまり関係者。それで全部ではない――と、あえて判定すると赤くなった、これで全部だ。
「ミターガやそのSPの礎術は?」
レケがそう聞くと、今度はテオさんが。
「えっと……小型のアルミケースらしいです、隣の二人の情報は出てないのかな」
「とりあえず僕は三人がゲート能力持ちかどうかを判定――」それもすぐ済んだ。「黒髪のSPの時だけ赤くなった」
「よし、じゃあ位置を決めよう」
レベッカさんがそう言った。




