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星のバラスト  作者: 弧川ふき@ひのかみゆみ


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  活きて躍る その2

 あの住所の時計店で、メモリ表示や年数表示なんかが多くて使えそうな腕時計を見付けた。今度はよく値札を確認。まあ当然、値段が高い。


 ――お金を集めなきゃ。四つくらい買いたい。失敗も考慮しないと。


 四つともとなると生活への足しも考えて1200万リギーは要る。

 何か手っ取り早い稼ぎ方はないかと、図書館のパソコン、警察の掲示板、色々な所の前に足を運んだ。そして思ったのは――

 やっぱり自分が未来のジオガードだから、こういう特技で高額報酬なんかを貰えればそれが一番……

 その方向で再調査。

 警察の掲示板を見て解ったことがある。『強い礎術師(そじゅつし)であれば参加可能な自警組織がある』ということ。……これってジオガードが活動し難くなっているかららしいけど、一時的なことなのかなぁ。

 この情報は警察の掲示板にしかないようだった、ほかで見なかった。情報が漏れることを警戒していそうだ。対策になっているかはともかく。

 その掲示板をもっとよく見た。どうやらヒガシャーザ区の自警組織について。そしてその意志がある者は、とある廃校の校庭にある掲示板前に集まるらしい。

 行ってみようと思ってすぐハッとした。


 ――大金を得るほど活動すれば嫌でも目立つよな。有名になっちゃうんじゃないか、過去で。それはちょっと……


 じゃあ顔を隠そう――とは思ったが、そうすると怪しまれる。自分が捕まる訳には。

 手柄を見せて信用されれば顔を隠しても大丈夫――だったりしないかな。

 そう思いながら店への道を歩いていた時、大道芸人を見てふと思い付き、デパートに行き、パーティグッズを買った。

 それからまずは信用を得るための仕事探し。そう思って警察署に行った。指名手配犯の顔写真と容疑の内容の書かれた紙を、「協力するので」と言って受け取ると、なぜかすんなり拘束パーカーも何着か分けてもらえた。奥にいた誰かが、僕の目の前の受付の人と話してからそうなったから――多分、判定能力でも使ったんだろうな。……過去に飛んできた人物だって知られてなければいいけど。

 署を出て少し離れてから巨大ビーズに乗って空に浮いた。

 そしてサファイアのようなビーズを巨大化させ足元に置き、見下ろした町全体を、その輪の中に見られるようにした。


 ――ビューパスト!


 その巨大ビーズの輪を通して見た景色の中では、僕が探したくて念じた怪しい人物の少し前の動きが青いシルエットで現れる。現れない時もある――イメージした人物がどこか遠くに逃げている場合。なら、別の人を想像する。……よし、あそこだ。

 と、古いアパートの窓の前まで近付き、空中から覗き込むと、「なんで!」という声が聞こえた。瞬間――


 ――ゼロビジビリティ・ホワイト!


 顔を白いビーズで覆われたその男は、慌てふためいた。あとは。


 ――黒の力を借りるよ。


『うむ』


 イブキの声のあとで、イブキの力……闇布(あんぷ)で男を縛った。拘束パーカーを着せると、布から解放。

 そして……ふざけているように見えるかもしれないが、仮面を被った。そして薄手の白いマントも。どちらかと言うとコートっぽくは見えるが、これによって体型からの推察もされ難くなる……はず。


「お前俺をどこかに売る気か?」


 恐ろしくすら見える仮面を見たからだろう。

 まあ確かに、自警組織を通じて警察に売る。


「そうだよ。ふふ」


 つい笑ってしまった。すると男は何やらブツブツと――「そんなぁ」などと言うだけ。静かになった。

 その格好で、男を連れて自警組織の掲示板の前へ向かった。

 廃校なんかが何かの施設に流用されることはままある。今やそこに礎術や体術においての腕自慢が集まっているというのもシュールだな――と、仮面の下で思いながら、元運動場を掲示板まで歩いた――けども、その間、視線が痛かった。

 そこにいた者からは、何だアレは、誰だ、と思われた。絶対思われた。

 ただ、どう言われようが、どう思われようが、仮面は取らない。

 掲示板の横には昇降口への矢印の看板が設置されていて、そこに『犯人を捕まえた方はこちらへ』と書かれていた。向かった所――元教室の一部屋が、報酬の明け渡し場所らしい。引き渡された男はそこから警察に送られるという仕組みか。


「拘束パーカーが足りなくなったら横の教室で」

「ええ、どうも」

「その仮面、見辛くないですか?」

「……大丈夫です」


 わざと低い声を出してみた。きっとその方がいい。

 最初は警戒されたが、今は心配されるだけだ。この感じなら顔を知られずにやっていけるかもしれない。

 依頼の詳細や指名手配犯の写真が張り出されている掲示板――その前に立って見てみた。

 使術動物(ジオアニ)退治のものもあるが、それ以外もある。

 人身売買、違法薬物製造、ブラッドキャンディ製造、殺人、使術動物(ジオアニ)の違法入手・販売、使術植物(ジオベジ)違法入手・販売・無断植樹、強盗、強姦、空き巣、スリ、窃盗、器物損壊、詐欺、脅迫、警官殺し、ジオガード殺し……ありとあらゆる犯罪者の写真と目撃情報からの依頼が載っていた。


 ――ええっと……『写真を()がさずに、写真を写真に撮るか、昇降口の所の棚から印刷された紙を持っていけ』と。ふむふむ。


 その紙を手にし、情報を一新。とにかく賞金首を片っ端から捕まえた。

 200万くらいの報酬を四回ほど受け取った頃には、


「おお、仮面の人だ」


 という、別の目立ち方をするようになった。

 それだけなら別にいい――自分はいつも通りに。

 上空から半透明の青いビーズ、ビューパスト・サファイアで見ていく。青いシルエットを発見。

 今もこそこそとしながら豪邸で何かしている。近付いて窓から見えたのは、絵画泥棒をしている現場だった。

 それを捕まえようとした瞬間、なぜか目の前に、仮面とコートで身を包んだ別の誰かが現れた。

 多分近くにいてあの犯人を怪しいと思って追ったんだろう、捕まえようとして行動できたことは素晴らしいけど――正直、気が散りそうだ。


 ――ひとまず入るか。


 黒い不透明なビーズ、ゲーティング・ブラックでその屋内に一瞬で移動。それから見やった。

 先にいた仮面の誰かは、犯人の方から飛んできた花瓶を、とっさに腕を前に出して受けはしたものの、踏み外し、二階から一階へと階段を転げ落ち、尻もちを()いた――という様子だった。

 犯人は、額縁を抱えた状態で二階廊下を走っていた。二階の窓へ行こうとしている――のが、吹き抜けから見える。


闇布(あんぷ)!」


 思わず声に出した。

 犯人は縛り上げられ、額縁の下で暴れた。

 近付き、視界を白いビーズでいつも通り奪うと、拘束パーカーで無力化。連行できる状態にしてから自分の格好に似た仮面の誰かに近付いた。

 そして言わずにはいられなかった。


「ちゃんと防御できるんですか? 死んでたらどうするんですか。そもそもそれ――真似ですか?」


 つい語気が強くなってしまった。

 そんな言葉を聞いたからか、その人が仮面を取った。二十代くらいの若い男性だった。


「お、俺にも俺なりの考えがあってやってる! 相手が相手だ、顔を隠したいからな、最初はこれも真似だと思ったが、今は真似してるワケじゃない! 必要だからだ!」


 言われて、大きく溜め息を吐いてしまった。それがダメという訳ではないが、それが形になっているのかというと……


「……まあ、無事でよかったけど。怪我は? してませんか?」

「え、あ、はい……」

「あなたはやりたいんですか、この活動を。続けたいんですか?」

「は、はい。あなたに憧れたんですよ! い、今は……若いうちは、人を、守りたくて。最近事件が多いから」


 ――はぁ……しょうがない。


「じゃあちょっとついて来て」


 家主が駆け付けたが、事情を説明して、盗まれそうになった絵画はあそこだ、と指で示すと、礼も待たずにゲートで外に出た――彼を連れた上でだ。

 もう彼はコートも脱いでいる。二人で連行して報酬を……「どうぞ」と彼に言われて僕が受け取ってから、廃校――自警組織――の裏手に隠れ、二人きりでの指導を開始した。


「これは命のやり取りです。不意を突く、隙を突く、当たり前の世界です。誰かを守るためにそれをしなきゃ自分が逆にそれをされる。死んだら誰も守れない。注意は常にする。自分の力がどれぐらいなのかということもキッチリ理解してください。操るのも無駄が多くならないように。最短距離を意識して、意識散漫にならないように」


 礎力の込め方のコツをそれとなく……そうだと解らない程度に言葉にして少しだけレクチャーすると、男性は礎術の質をかなり高めた。投げた物の軌道を捻じ曲げる礎術らしい、その精度が上がり、的を外すことがあまりなくなった。初速が遅ければポテッと当たるだけだが、豪速球のように投げれば大ダメージを与えうる――そんな何かの軌道を捻じ曲げることになる、かなりいい礎術だ。


「盾は使えますか」

「はい。軌道だけじゃなく、こういう物も操れるので」


 彼の前に、よく透けた琥珀製らしき皿っぽい物が浮いた。それが()()()に向き、()()()に対して亀の甲羅のような盾に。これもいい礎術だ。


「その操作対象は常時携帯してすぐに盾にできるように」

「はい!」

「それは自分だけじゃなく誰かをも守る、その意識を常に」

「はいっ!」

「……じゃあ、もう大丈夫でしょう、あとは体の動かし方が気になるけど……動きながらの発動とかにも気を付けてもらえれば。では……『私』はこれで」

「ありがとうございます」


 どう言われようと、こちらは放っておけなかっただけだ。


「別に感謝されたくてした訳じゃない。今一度考えてほしかっただけです」


 ま、意気込みは解るけどね……――と思ってから去ろうとした。別にほかに言うこともない。


「待ってください」


 その男性に呼び止められ、振り向くと、金を渡された。彼が今日別の事件で受け取った報酬かもしれない。


「このためにした訳じゃないんですがね」

「だからこそ渡したいんです。気付かせていただいた。ありがとうございます」


 受け取れ、受け取らない、という押し問答が、結構長く続いてから――しぶしぶ受け取り、


「じゃ」


 とだけ言って去った。

 歩いていきながら『封筒』を開け、確認。中には200万リギーが。

 でも、これを資金に加える自分にモヤモヤしたものを感じた。だから近くの養護施設の場所を調べ、そこの先生らしき人に封筒を渡した。対面した時驚かれたが、まあ一瞬で去ったから……とはいえ、もうどうでもいい。あとはあのお金がいいことに使われればいい。

 あと一回、200万前後の任務をこなせばいい――そのくらい溜まっていた。

 最後に凶悪殺人鬼を捕まえ高額報酬をもらうと、とりあえず計画を立てることにした。


 ――秘密の場所が必要かな……目撃されたくないし。


 お世話になっている店で仕事をある程度させてもらいながらの連日の活動だった。たまに店長や仕事仲間に気付かれないようにコソコソと。次の段階になってからも気付かれないように。

 失敗する場合を考えて時計を四つ買う。と、地図を見た。

 郊外がいいと思い向かった。

 すぐそこから森が広がっている。そばには川。そんな秘密基地的な砂地の広場で、まずは考える。


 ――礎術道具を作るのを礎術で行える……ということだから、イメージは大事だろうな、あとは……すぐに時空ジャンパーなんてものが作れるとは思えない、ほかの礎術道具を作りながら練習もして、慣れていって高度な物を作れるようにならないと……


 自分でも狙撃手袋(ショットグローブ)を作れるんだろうか。レイシーが手にはめたままだったから今も所持品としては二個あるので、お手本には困らない。ただ、材料は必要そうだ。だから、黒い革手袋と鉄のネジ、ナットなんかを置いて、念じてみた。

 なんとかそれっぽいものはできた。はめて試してみる。


 ――大きな弾の方が貫通力がないはずで……


 少しだけ念じた。すると、真っ白な礎力の塊が弾丸となって手袋の手のひらの白丸印から飛び出した。それが近くの木の天辺に当たり、礎力の塊が弾けた――まあまあ大きな音を添えて。


 ――できた。狙撃手袋(ショットグローブ)はこの当時にもあるから問題はない。よし、次だ。待てよ、トレーニングボックスもできるのか? もし作れれば効率も上がるな。


 ミニチュアのグッズと簡素な箱……その二つでいいと思い、ケーキを買った。

 店長たちにはお世話になっている。ホールで振る舞うと、その箱だけ貰い、ミニチュアのグッズとケーキの箱をあの広場に持っていき、念じていく。


 ――扉としての模様を思い描く……そんなデザインだったら解りやすいもんな、ここに念じればいいってのが。ダイアンさんから貰ったものがどうだったかはもうあまり思い出せないけど……そこから入るイメージ。中に、別空間が広くある……というより、この箱が別空間へと入る扉になるって感じか……。そこに最低限の物が揃っているイメージ。そこでの一日で、最低限揃っているものが元の数に戻る。そのくらいじゃないと別空間に数日ずっといるなんて無理だ。で、肝心なのが、箱の中で一週間ってのが外の一時間……が、あの箱だったな、これの場合もっと長い期間が外の一時間であれば……そうできれば僕が過去にいる時間を()()()()()()()()かも……帰れれば、だけど……


 とにかく強く礎力を込めた。そうして多分できあがったであろうものを前に、夜、借りている部屋の隅で、入る時間を決めてメモしておき、時計を持って念じてみた。

 場所が変わった。入れている。白と灰色の濃淡でできた世界だ。

 そこで、とりあえずビーズの操作やイブキの力の練習をした。

 五十六分経ってから出ると、外に置いていた時計では約十秒が経っていた。


 ――できてる! しかも二十秒じゃない……かなりの長期間用にできてる……!


 ミニチュアを買うついでにスポーツバッグを買っていた。


 ――これをSサイズ(スモール)容量拡大バッグ(ブリンガー)くらいにできれば。


 Mサイズ(ミドル)容量拡大バッグ(ブリンガー)なら中身の仕様を知っている。箱状だった。トレーニングボックスのように、ただし小物なしで箱を使えばいいかもしれない……と思い、組み合わせて念じると、そうなったのではないか――と思えたので、開いて確認してみた。

 本来よりも中が広い。上から開けば、高い所から床が見える、暗い部屋の天井が入口になった感じだ。壁にでも掛けて縦に開けば横からの入口になる。その中に把握できたのは、約二メートル四方、高さも二メートルほどの何もない空間だった。


 ――よし。いいぞ。大事な物はここに全部置いて、この……さしずめ『自分専用(パーソナル)容量拡大バッグ(ブリンガー)』を、普段はバッグに入れておこう。時計も中に入れておくか。


 二冊の地図と服は自分専用(パーソナル)容量拡大バッグ(ブリンガー)には入れずに、その外……普通のバッグの中に入れておくことにした。これで自分専用(パーソナル)容量拡大バッグ(ブリンガー)が見付かることも恐らく()けられる。

 夜は、お世話になっている部屋の隅で、トレーニングボックスに入り、複雑な礎術道具を作る練習を繰り返した。

 色んな観点から考えなければならない物に関しては失敗することが多かった。

 何度も繰り返し精度を高めていく。

 四つのうち一つの時計でだけでも成功すればいい、とはいえほかで失敗するようであれば時空ジャンパーなど到底無理だと思えた。

 ほかの礎術道具を作る。その際にも何度も失敗し、何度も成功し――

 できた礎術道具は自分専用(パーソナル)容量拡大バッグ(ブリンガー)に隠して置いておくことにした。

 その失敗をしなくなってきて……――

 そして――

 失敗したのが何十回も前という状況になってから、そろそろ大丈夫だろうと思い、必要そうな物を買い揃えた。

 経度、緯度のイメージのために、地球儀ならぬ礎球儀(そきゅうぎ)。高さのイメージのために、海面からの高さが詳しく載った地図も。

 あの秘密の場所に行くと、そこに用意した物を広げ、まずイメージを固めた。

 カレンダーのイメージ、時間と空間の移動のイメージ……

 一方的にこちらからだけ移動することになぜかいいイメージを抱けなかった――自分の側からだけ何かが無くなるのはどうしてか不均等……というような気がして――だから感覚的に、行き先と自分側の同空間が交換されるイメージをした。

 経度、緯度、高さ、年数、月日、時間、残り使用回数、それに、自転と公転のイメージも。関わる全てをイメージして――時計の、まずは一つに念じた。


 ――できてくれ、できてくれ!


 最初の一つ。できたのかできていないのか。とりあえず三つの光が盤面上部にある。座標のカウンターと月日のメモリも。年数のカウンターも。

 試しに、広場の座標を地図から調べてセットし、五分後くらいに設定して木にその腕時計を引っ掛けた。

 礎力を込めると……三秒後ぐらいに、パッと枝葉が消えた。腕時計は消えなかった、そしてそこからまっすぐ地面に落ちた。


 ――やった! やった……よな?


 五分が経った。目の前に変化はない。けど、辺りを見ると、背の方に、そこになかったはずの枝葉が。まさか?

 近付いて確認。

 枝の断面はとんでもなく綺麗。

 そこでふと、使った腕時計を見た。盤面上部の光が二個に減っている。


 ――うまくできてる……できてる! いいぞいいぞ……!


 早速、残り三つの腕時計でも同じ要領で作った。

 盤面上部に三つの光が現れたのは……できたうちの二つ。最後の一つだけ、小さな(とも)りは四つあった。


 ――いやいやいや、予想外だ……どれか壊れるかもと思ってたけど……。頑張ったおかげか。


 どうにも嬉しくなる。

 表示はちゃんと、経度、緯度、標高、月、日となっている。

 大量の礎力を使ったから休むことに。……そして翌日。


「あのぉ急ですけど――」


 店長に別れを告げ、感謝を伝えると――


「そっか。元気でね。何があっても、耐えるしかなくても、自分をシッカリ保つんだ」


 そう言われたのは、多分、僕が救済者を映す鏡(セイヴァーショワー)を作動させられなかったからだ。


「いいね?」

「はい」

「じゃ、頑張って」

「はい。ありがとうございました」


 手を振って店を去り、また広場に戻った。

 四つの腕時計だけは別の袋で特別に管理していた、厳重に。

 そこから一つだけ腕時計を取り出した。それを使おうとした時だ。


「あああー! 何だよもう!」


 袋をアイバネガラスという使術動物(ジオアニ)についばまれ、持っていかれてしまった。

 あっという間にアイバネガラスは森の中へ――


 ――嘘だろ……! ビューパスト・サファイア!


 青く透けたビーズの輪を通して見るが……青いシルエットがなぜか見えなかった。


 ――くそ……。あ、そうか、アイバネガラスは一時的に保管器官に……あああ~くそっ……


 口の横……端に(ふた)みたいなものがあって、その先に入れることで別空間に物を保管できるアイバネガラス。保管中は何の干渉もされない。そこから出した物で巣を作ることもある。光るものが好きなのは地球の一般的なカラスのイメージと同じ。


『仲間のアイバネガラスと物探しの遊びでもするんだろうな』


 イブキの言うことには納得だ、確かにそういう習性がある。


 ――はあ……まあしょうがない。一つだけだけどこれで十分だ。帰ろう。きっとこれで帰れる。


 地図を新たに買っていた。ディヴィエナ州のライマン市の地図だ。

 座標をセットした。月日も時間も。幾つものツマミを回転させ、そして――

 環州暦(かんしゅうれき)1040年、1月、18日、12時10分。

 その少し前に戻ろうかという気にもなった。

 ただ、やめた。みんなの頑張りも、なかったことにはしたくない。それに、自分自身がやることはそんなに無いはず。

 時間も多分これでいいはず――と思って、それから念じた。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 ある日ある時、ある所の警察に、奇妙な報告が入った。猟師の報告。「撃ち抜いた熊の近くに、口に変な布地が千切れて引っかかったようなアイバネガラスの死体があったんだが――」というもの。結局なぜそんな事にという謎は解けず。

 その布地の本体――袋自体は、川を流れ、とある岸に漂着した。


 ……十数年後、そこへ、キャンプをしていた一人の男が現れた。

 ()()を拾い上げたその男は、ケータイを手にした。


「ああ、面白いものを見つけたよ。要るかい? 全部で三つだな、俺は別に要らないから何かと交換してくれよ」

「んー……交換か、まあいいだろう」


 話し相手は男。


「本当にいいものなんだろうな」

「俺には判らん、面白そうではあるが」

「やれやれ、検証が必要かな……。まあいい。じゃあ失くすなよ、それ」

「おうよ、それはバッチリ任せろ」

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