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星のバラスト  作者: 弧川ふき@ひのかみゆみ


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  地道さと幸運 その2

 どうやら全世界の在庫リストでは付与セットが二組ということになっている。


「店が解るぞ、住所をメモしておこう」


 ただ、心配事があった。


 ――メグミとお父さんが礎術を付与された……その分の二個は在庫リストにないと、何が起こるか判ったもんじゃない。だからもしかしたら……


 僕はまた注目されるべく体を動かした。ぴょんぴょんと跳ねて表の前に立つ。そして示した。


「何々? み……と……う……」


 示し終えた頃、ダイアンさんが文字のメモを読み返し、それから声にした。


「そうか、ユズトの妹と父親が……。そのために二個か……確かに不安だな……念のためこのリストに『未登録』のものがないか探せればその方がいい……か。つまり……ふうむ……礎術道具協会本部へ、在庫変化の報告をあまり行なっていない店を探すか」


 これで見付かればいいとは思うが、もう一つ心配事があった。

 付与ブックを使ってあのページが運よく開くとは限らない。そのことをまた注目させて表の文字を示して伝えると。


「そうだな……いや、アレが使えるか。実は『幸運のペンダント』という礎術道具がある。というのを噂でしか聞いたことはないんだが……それを手に入れられればあるいは」


 ダイアンさんは一旦溜め息を吐いた。そして大きく息を吸うと。


「それで運勢を操作すれば一回か二回でうまくいくかもしれない」


 そんなものが? 流れが向いてきた――と思ってすぐまた画面を眺めた。


「報告が少ない店……に問い合わせてみるか」


 とダイアンさんが言ったあとで、ドアが勢いよく開いた。

 そのせいか体がビクンと跳ねた。


 ――びっくりした。急に開いたから……


「知事、スピルイーストホテルでの挨拶のお時間が――」

「あぁそうか、解った、すぐ行く」


 返事のあとで、ダイアンさんはサイトを閉じパソコンをシャットダウンし、僕を抱えて出ていく素振りを見せてから、秘書らしき人がよそ見をした瞬間、僕に耳打ちした。


「続きは後日。その時はこちらから呼びに行く。もう誰かに伝えるのはやめとけ、噂になって狙われたら今のユズトは終わりだ」


 ひっそり(うなず)いたあとは、抱えられたまま執務室を出た。

 一旦、僕を動物部屋に戻すと、ダイアンさんは秘書や護衛と共に去っていった。

『後日』を待った。

 小さな白い猫先輩に毛繕いされ、たまに食事し、たまにトイレ。翼が邪魔だから屋根のない猫砂のカゴの上で。

 朝なんかは「エネルギーチャージ」と職員が僕らを抱き締めることもあった。

 正直、コハルさんが恋しい。僕こそチャージしたい。

 早く会いたい。早く戻りたい。みんなのためにも早くレイシーを……

 そして『後日』がやってきた。


「よし行こう」


 ダイアンさんに運ばれ執務室に。そこでまたあの在庫リストを見た。

 ある瞬間、突然、ダイアンさんが備え付けの受話器を手に持った。


「直に確認する」


 電話の相手が出たらしくダイアンさんが事情を話した――が、どうも浮かない顔だ。

 途中、話し声の中に『幸運のペンダント』なんて言葉が聞こえた。

 ダイアンさんは受話器を置くと。


「付与セットと幸運のペンダント、両方聞いてみたんだが『両方とも店にあったことはない』らしい。さすがにすぐにビンゴとは行かないな……。まあいい、次だ」


 また画面と(にら)めっこだ。

 報告の少ない二店舗目を探し、これと思った店に電話を掛け、ダイアンさんが大体同じことを聞いた。

 そこも駄目だった。

 そしてまた次。すると。


「付与セットはあったんですね? 誰が買ったんですか? どんな人が」


 話し終えたダイアンさんが次は僕に――


「女性に買われたらしい。付与セットだけはあった、と」


 ――女性……その女性を探すのか? いや既に使ってる可能性が高いか。ほかは?……ほかの店はどうなんだ?


「とりあえず行ってみるか。どんな女性に買われたか……その人が使ってないことも考えて……」


 コクリと頷いた。

 リストには住所もある。その店はスピルウッド州東部の市内にある、そう知ってゴーサインが出たから、ダイアンさんでも移動できる距離なのだろう。

 黒枠の鏡のゲートをダイアンさんが出し、何度か移動を繰り返した。仕事柄ゲートで長距離移動できそうな所が多いのはダイアンさんの強み。店の近くに移動できてからは歩いた。

 店に入ってまずは驚かれた。


「知事ッ?」


 そりゃそうだ。


「まあまあ。できれば秘密にしていただいて」


 とダイアンさんが言うと、店長らしき黒髪の渋い男性や女性店員が肯いてから、話を聞いた。

 その内容によると――


「お婆さん、ですか」


 追及する訳には行かなくなった。お父さんの世話になった人が……家族ぐるみでたまに世話になる人が……その年代の人だ。付与セットは珍品……在庫リスト内の何種類もの膨大な礎術道具の中に二個だけ。もし彼女がそうなら探しに遠出した可能性はある、僕らが使った場合、僕が知っているお父さんではなくなってしまうかもしれない。……それは嫌だ。

 ほかに何かないのかと、ダイアンさんの足元で、横の陳列棚を見た。

 すると、低い段の一番手前に、腕時計があるのが見えた。


 ――ん? これって……


 僕に、場所も時間も越えさせた、あの腕時計っぽいものに似てる。


 ――もしかしたら。この予感は無視できない。


 ダイアンさんに伝えるべく足元でグルグルと走ってみた。

 何だ何だと注目したダイアンさん――の目を向けさせるべく、その棚の最前列に手を掛け、「コレコレ」という風に鼻を近付け、フンフンした。


「ん?……これはどういう」


 と、ダイアンさんが手に持った。よし。

 女性店員が近付いてきて、持っていたホウキで両手を支えるみたいにして、こちらの質問に答えてくれた。


「ああ――それは時空を超える道具ですよ。ふふ、多分競狼(けいろう)狂いの人は手に入れたがるやつですよ」


 ――やっぱり!


「多分もうこの世に二つしかないんじゃないかと」


 ――え!


「元々うちに三つあったんですけどね、店に置くならどういうものか解っておかないといけないので、確かめるために使っていたら……壊れたんです、両方とも、あと三回です」


 手で示したり、指三本で示したり。そんなジェスチャーのあとで、女性店員はまた。


「実演しますか?」


 ダイアンさんはそこで僕を見た。僕は首を横に振った。すると――


「ちょっと待ってください」


 店の隅であの五十音表の紙をダイアンさんが出したからそこで示してみた。


「一度見てるから……いい……? なるほど」


 それを受けてダイアンさんが女性店員と話し出した。


「実演なしで解説だけお願いします」

「それなら、えーっと、まずですね、時計としての短針等は飛ぶ先の時間を指定できます。ほかに二つ、中央に小さくメモリがあって、その二つで月と日にちを設定します」


 ホウキを片手に、指を差しながらだった。そして。


「その下の小さな四つの数字で環州暦(かんしゅうれき)を設定。その下に、カウンター式の数値設定()所はあと三つあって、それらがそれぞれ、経度と緯度と標高の設定になります。装着せずに遠くに置いて使うと、一定空間内に作用して腕時計はその場に残ります」

「ほう」

「使用者のそばにあり続ける、というのを想定しているっぽいですよ。離れた場所に置いて作動させたら使用者は別座標に行きません、だから使用者のそばにあり続けるために、腕時計は移動しない。近くに置いて使ったら使用者だけを感知して別座標に行きます、これは、何かの拍子に使用者を殺さないためかもしれません、この場合もこれが一緒に別座標に行きます。装着した本人が使用した時も腕時計ごと移動します、衣服と同じように……これも使用者のそばにあり続けるからですね、装着時は人ひとりに作用します」


 ――なるほど……。だから空から落ちた僕の側にあれは来なかったんだ……


 そこで、店長っぽい……四十……いや五十歳……くらいの男性の声が。


「それ、時空ジャンパーと呼ぶことにしてまして。で、それが欲しいんですか?」


 レイシーもここで入手したのか? それとも別で?

 話し合う必要があった。ダイアンさんはまた僕と店の隅へ。そこで五十音表をまた――

 話したのは『自分たちがここのものを持っていても問題はないのか』ということ。

 多分店にはない方がいい。

 むしろ自分たちで持っていた方がいい。恨みの関係で接点はある。レイシーの入手ルートが自分たちに関する場所という可能性も十分ありうる。

 ……ただ、もしレイシーが店に来ても何の被害もないのなら、別に店にあってもいいが……

 レイシーの逃走経路について、ダイアンさんやドナから、もしくはニュースから、こういった店のことを聞いたことがなかった。そこが微妙だ。

 本当に店になくてもいいかもしれない。

 いや、気を付けなくてもいいのかもしれない。大したことにならないのであれば……

 自分たち側のメリットはというと……誰が付与セットを買ったかを知れるのなら時空越えの腕時計を使ってお願いしに行くというのもアリだ。使うことも視野に入れたい……

 結局、話し合った結果――


「じゃあ買います。それにしてもあと何回使えるのか……」

「あと三回です、どっちとも」


 女性店員はダイアンさんが手に持った時空ジャンパーの上部を指差した。


「この光が残り回数なんですよ、これはまだ未使用品ですね。そっちは一度ルール確認用に使ってますが、そっちの光は元は四つだったようですので」


 盤面上部で三つの宝石みたいなものが綺麗に光っている。ダイアンさんはそれを僕にも見せてくれた。ふむふむと僕が(うなず)くと、ダイアンさんは女性店員の方を向き――そして人差し指と中指を立てた。


「じゃあこれを二個」


 ■■□□■■□□■■□□■■


 一つはもしかしたらユズトへの協力で使う。

 コレクター魂が(うず)いた。だから二個。

 とりあえず、


「助かりました。色々ありがとうございます」

「いえいえ」


 というやり取りのあと、何度かのゲート移動を経て、執務室へと戻った。

 今日は疲れた。行けるとは言っても長距離移動だ、礎力(そりょく)を大量に消耗してしまった。

 その時だ。ドアがノックされて。


「知事。どこにいたんですか。探しましたよ」

「ああ、済まない、それで――」

「視察の時間です」

「解った」


 ユズトにはまた別の日に協力することになるだろう。また動物部屋へ連れて行ってからだが――

 見やると、ユズトはウンと頷いた。大丈夫解ってる、ということだろう、恐らく。



 ……視察も終わって書類仕事も終わり帰宅後、コレクション部屋へと急いだ。

 実は(はや)る気持ちがあった。どうせ買ってもいいならとコレクター魂に火が点いて買ったあの時空ジャンパーを厳重に肌身離さず持っていた――それをジャケットの右ポケットから取り出し、そこら辺の机にやっとポンと置けた。どこか一つやり切った感があった。

 一つは今の問題を解決する手段として使えるかもしれないので厳重に保管。

 もう一つは、コレクション部屋の入口からすぐの、目の前の机に置いたまま……。それを、ひとしきり眺めた。

 思わずウットリする。こういう癒しがあるからやっていける。


 ――ふう……。イイ。イイなあ。礎術道具はどうしてこう……はぁ……。なんて魅力的なんだ。


 ついでによく知っている場所の座標でも設定しておこうかと考えた。


「州庁舎は……と」


 部屋を出て地図で調べ、それを設定。


「これでよしと。……へえ……こういう座標になるのかあ……」


 その机に置いたまま、またじっくりと眺めた。使用感も実にいい。

 ふう。今日はこれで満足。これでぐっすり眠れる。

 ユズトが礎術を使えるようにならなきゃいけないが、その方法は明日考えよう。明日に支障が出るのが一番困る。

 不安が減ったと感じることができてから眠る準備を始めた。

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