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星のバラスト  作者: 弧川ふき@ひのかみゆみ


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059 家族②

 山の中を随分歩いてから、あたしは口にした。


「お腹、減っちゃった」


 敵は人だけではなかった。空腹感もだ。

 辺りはかなり暗いけど、昼ご飯がそもそもまだだ。急に夕方になったから寝る時間まで変わっちゃう。

 礎球(そきゅう)は一日の時間が地球と同じくらいだとお兄ちゃんから聞いている。疲れも溜まっているから時差ボケにはなりにくいかもしれないけれど。

 今は、空腹――この敵を倒すにはどうすればいいのか。

 木の実から米を創造できるようになったけれど、生米は……さすがに頂けない。

 それを話すと、お母さんが言った。


「そこの地面を掘って」

「地面? なんで?」

「型を作るのよ、お椀型に。大きくね」


 まぁるく掘ると、そこにお母さんが手から黒い液体を礎術(そじゅつ)で出し、そこに丸い石を浮かせた――持ってはいるけど浮くように――手で重い鍋の両端を持って踏ん張るみたいに。

 十秒くらい待つと、その液が固まった。


「お母さんはね、こうしてお皿を作ってたの、もっと型は精密だったけれどね」


 そうして作った黒い鍋に付いている土や石の汚れを、川の水で洗って取ると、今度は地面に石を低く積み上げ、かまどのようにした。お母さんは、それに土を塗るようにして所々に穴を開けると、手から黒い液体を注いだ。……多分これでもっと頑丈に?

 そしてそこに、川の水の入った黒い鍋が載せられた。


「火を使うの? どうやって?」

「お母さんね、ガスボンベにガスを満たすことができたの。それとコンロさえあれば凄かったのよ」

「でもここにはこれしかないよ」

「そうね。だから、ガスだけを出す。あとは火花ね。燃えるものを持ってきて、枝とか葉とか」


 辺りを探す。その時、戻る方向を逐一確認した。

 燃えるものが大量に集まった時には、お母さんの手に、木の皮を綺麗に剥いだ棒と板があった。

 板にくぼみを作って、そこに木くずや枯れ草を入れて木の棒で必死に擦った。

 草がチリチリと赤くなったところで、お母さんは、手を前に出し、蜃気楼みたいな礎力(そりょく)を向かわせた。すると、手のすぐ前から火が出た。

 ガスの出る向きは手に垂直。そのまま、鍋の下に積んだ石のかまどの穴にその手が向くと、そこに火が入った。


(めぐみ)、あなたが本で覚えさせられた礎術……米を作る礎術だったでしょ?」

「うん」

「それを使ってこの中に入れてほしいの。まずは少しでもいいから……この皿の上に、できた米は載せておいて」

「解った」


 木の実を包んだ広葉を手に載せ、何度も木の実を米に変換した。

 言われた通り黒い皿に溜めておいた。

 お母さんはというと一度沸騰させて少しだけ待ったみたい。川の水そのままじゃまずいからだ、きっと。

 数分後、できた米を鍋に入れた。二人分にはどうにか足りた。

 お母さんは別に黒い蓋を作っていた。多分洗ったその蓋を載せて、炊きあがりを待った。

 準備の段階でかなり時間が経っていて、それが意外とよかったみたい。ふっくらした白ご飯になった。


「これで……いいはず……」


 二人で食べた。ほとんど手掴みで。

 少し独特な味がしたけど口が幸せで満たされた。そしてこれまでの事を思うと、ボロボロと涙がこぼれた。

 これからどうすればいいんだろう。嫌な考えが頭の中でぐるぐる回った。

 肩を寄せ合って食べ、少しだけ抱き合ってから火を消した。

 その頃には辺りはもう暗い。だからそれ以上歩かず寝ることにした。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 シルエットを追い続けていると、段々と頭痛がするのが解った。結構な負担がある。それでもこの力を使った、探すために、見付けるために。

 影は空へと続いていた。途中、小屋に入って誰かと話したようだったから、きっと誰かの協力を得てどこかへ連れて行ってもらったんだろう、飛ばせるものに乗せてもらうことで。

 そんな父さんを追う。

 途中でシルエットが消えた。二度と見えなくなったんじゃないかと思うほどに、青いシルエットは何に関しても見えなくなった。


 ――くそっ……頭もガンガンする。これアレか、長時間連続で使えない礎術……もっと前の時間のシルエットとなると見えなくなったりもしそうだ、気を付けないと。


 あの廃工場から、今度は恵と母さんのシルエットを探した。でもそれらは見えもしなかった。維持時間だけじゃなく、また使えるようになるまでの間隔にも制限があるということか……。


 ――練習して可能時間を増やせるのか? 回復期間を短くできるのか……? できてほしい、今後のためにも。


 色んなことを思うが、今はもうこの方法からは手を引くしかなさそうだ。あとは自力で。地道に足で尋ね歩く。休憩中には一報を待つのみ……


 ■■□□■■□□■■□□■■


 薄暗さの中で目が覚めた。朝。昨日と同じようにして白米だけを食べた。二人分を作るための礎力の消耗も、今度はそんなに疲れを呼ばなかった。

 食べて火を消してからは、また歩き始めた。

 一日中歩いたりした。

 また寝て起きて……また歩いて……そして道路を見付けた。

 道路に沿ってしばらく歩くと、町に着いた。

 通行人を頼った。


「一時的にでよさそうだから、まあ、うちで保護してもいいけど」


 嬉しい言葉。お母さんと顔を見合わせたあたしの顔はきっと凄く明るかった。


「まだ狙われているかもしれなくて。みなさんに迷惑を掛けないでしょうか。私たち自身また危ない目に遭うかも――遭わせられてしまうかも……しれなくて……」


 そう言ったお母さんに、偶然出会っただけの女性が。


「……うーん、じゃあ、何でも屋さんにお願いして護衛でもしてもらう? それに、ここじゃなくてもっと別の場所へ送りましょうか」


 一旦その女性の家に向かった。その旦那さんも親切だった。しわのある堂々とした顔が印象的。


「ご主人のこともきっと大丈夫。警察に捜索を依頼しておきましょう」


 と、先に逃げたお父さんのことも調査してもらえそうだった。

 そしてかなり東部のアチディオ市という所に送られた。息子夫婦の家だという。

 お兄ちゃんに知らせられればいいけれど――とあたしが言うと、お母さんはこう言った。


「ジオガードは機動隊みたいなもので、本来は調査機関じゃなくて戦闘、制圧部隊なの。逮捕や使術動物(ジオアニ)なんかの退治が仕事。調査は基本しない。だから依頼の(てい)で知ってもらうことはできないのよ。捜索……は、まあ、警察の仕事だしね」

「そうじゃなくて、家族だからってことでただ連絡を入れてもらうだけなのは? それもダメなの?」

「……それは無理じゃないはずよね。そうね、問い合わせで身内がジオガードだと知ってもらえれば――」


 そんな電話を、お世話になっている夫婦の固定電話を借りてお母さんがしたけれど。


「ダメ。イタズラと思われちゃった」


 あまりにもショックだった。


「ほかに、お兄ちゃんに知らせられる方法は?」

「……お母さんには判らない。でも、何か……何か特殊な方法を使えれば、きっと知ってもらえる、ここにいるって知ってもらえる……あの連中には知らせずに知らせる方法さえあれば――」

「……お父さんは……? お父さんは助かる? 会える?」

「警察にはお父さんを探してもらってるからね、きっとまた会える。生きて会える。そう信じましょ。いい? 聞いて。お父さんは助けようとして逃げることができた。だからきっと大丈夫。ね?」


 あたしは、そうだったらいいと思って、首をコクンと動かした。


 ■■□□■■□□■■□□■■


『すぐに見付かるだろう』『ドナさんは多分もういい』そんなことを言われて一週間が経っても連絡がないからか、ドナが「協力させて」と言ってきた。

 ベレスとドナとで山や近くの町を探した。念のため北の町なんかも。だけど見付からなかった。

 その時ドナが言った。「私のせいかな」と。


「え? なんで?」

「こんなに探して見付からないのはおかしい」

「それは僕も思うけど。ドナのせいなんかじゃ――」

「私のマーク、変わってるの。ほら見て、私の方に付く印が前と違うでしょ」


 見てみると本当に違った。無機質な以前と違い、花をイメージできる…六枚の花弁と二重丸のマーク。

 なんでかとこちらが問うと。


「解んない。多分、同時期かどうかとか、気分が関係してると思うの」

「ふぅん……で? それでなんで自分のせいだなんて」

「あ……うん、それなんだけど……ユズトとのことで知ってて私が探してるって思ってくれてるならいいんだけど……でもこうやって違うマークで……もしそう思わなかったら」

「んん? えっと、つまり……? あ! そうか! 連中に探されてるって思ってしまってるかもしれないのか!」


 ドナがそこで大きく頷いた。


「……なら、そのせいで警戒してしまって、近くにいないかも?」

「それだけじゃないの」


 ドナは深刻そうな顔。心配してくれているんだなと思う。


「あの捕まえた連中の中に、カーテンの使い手がいなかった――んでしょ?」

「あ……ああ、そうらしいね」

「私自身につくマークは消えてない」ドナは手首を示した。「死んだワケじゃない。で、逃げたところを追われて倒して、カーテン使いの効果が付いたままのカーテンで身を守ってたら――」

「マジか……! そうか、自分から探されまいとしたかもしれないんだ、だからこんなに見付からない……!」


 相手を倒したかもしれないことで少しホッとするが、それも一瞬だけだ。

 それからも探し回った――どこだどこだと思いながら。


 ■■□□■■□□■■□□■■


「お母さん、警察経由で知らせることはできないの?」


 あたしが問うと、お母さんは首を横に振った。


「それもやってみたけど……警察の人が言うには、『ジオガードの一員の情報を渡すワケにはいかない』って……。じゃあこちらの情報を渡してくださいって言ったら、お兄ちゃんがどこの勤務か、番号とかも聞かれて、お母さん、その……詳しく覚えてなくて……だって、礎球(そきゅう)に戻るなんて考えもしないでしょ? こちらが言えないでいるとね、『じゃあダメです』って――」

「そんなぁ」


 お世話になっている家が息苦しいなんてことはないけれど、いつまでもいる訳には――という思いがどうしても湧く。こんな時、どんな顔をしていればいいの……?


 ■■□□■■□□■■□□■■


 突入から二週間くらいが経った。

 いまだに見付かっていない。心配でしょうがない。

 休憩中も落ち着かない。山を捜索している時も。

 リミィさんの番号に掛けたけどまた応答はなかった。前にも応答がなかった、その時と同じ任務中か、別の任務中か……とにかく逮捕行動に集中したくて切っているのかも。

 だったら今は自分たちだけで。


 ――このまま見付からないなんてことがあったら……


 ただ、思うのは、『辛い思いをしていないといい』ということだけ。

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