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星のバラスト  作者: 弧川ふき@ひのかみゆみ


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  家族① その2

 ■■□□■■□□■■□□■■


 あの時、この力に気付いてよかった。だけど。


 ――こんな物騒な礎術に目覚めるなんて。この状況、どうかしてるよ。どうかしてる。


 壊れた椅子に座って手に蜃気楼みたいに見える力を込めていた、命じられた通り黒い液体よ出ろ出ろと思いながら。

 これが誰かを傷付けるのならそんなのは嫌だと思ったけど、それでも自分が助からない道を選ぶなんて自分には無理、絶対に無理。

 お母さんに「大丈夫よ、大丈夫」と言われながら、泣きながら、出ろ、出ろ――と念じ続けた。

 日常なんてもう戻ってこないのかなと、思いながら牢屋の中で、ただただ念じるだけ。そんなにやっているのに、いつまでもうまくできなくて、もう嫌だと何度も思った。

 ある時、背中側から声がした。


(めぐみ)、恵」

「お父さ……っ」

「泣いてるのか、安心しろ、従ってればきっと何もされない。無茶だけはしなきゃいい」

灯弥(とうや)さん……」

「大丈夫か? 自分をしっかり持ってくれよ、恵の味方は今、俺と紗羅(さら)だけだ」

「ええ、解ってる」

「俺は助けを呼んでくる。待っててくれ。いいな?」


 お父さんは、そう言ってお母さんの手に少しだけ触れて、あたしがコクコクと頷いたのを見ると、行ってしまった。

 それから少し経つと、頭に毛のない人がリーダーみたいな人に叱られて、それからお母さんが別の牢に入れられた。

 一人になって不安で不安で、それでも礎力(そりょく)というものを込め続けるしかなくて、一人で念じた。サボるなって言われたけどバレないようにたまにサボった。だって、できないと怖いけど、できても何をされるか、怖いんだもの。バレない自信はあった。だって、お兄ちゃんみたいに礎力が見える人は全然いないって聞いてるから。

 でもまだ出ない。何度やっても出ない。早くしないとお母さんが何をされるか。彼らがあたしたちの礎術(そじゅつ)というのを利用したくても、殺さない拷問でお仕置きを……なんて事がないとも限らない。怖い。でも早くできても、そのあとも怖い。

『何で』『ちゃんとできてよ』何度も思った。いつまでもできなくて呆れられるのも問題。

 あたしが牢の鉄格子を叩いたのももう何度目か。

 そんなある時、ふと鉄格子がなぜか簡単に削れた。でも足元に金属の破片なんかが落ちている訳でもない。

 念じた指でなぞってみた。そうしたら簡単にその部分だけが凹んで穴が開いた。

 ハッとして、鍵部分を削った。

 牢の扉を開けて外に出て、お母さんの居場所を探した。そうして見付けた、別の牢にいた。

 そこの鍵も削って開けて、抱き合った――早く逃げよう、もうこんな所にいたくない、そう思いながら抱き合った。

 この異変に気付いた大男がこちらに急いで向かってきた。


「早く逃げなきゃ。恵!」

「待ってお母さん、こっち!」


 壁に向かって手を突き、念じながらスライドさせた。その手で壁がえぐれて崩壊。壁に穴が開いて通れるように。


「ほら!」


 と、あたしが急かしてお母さんを先に行かせて、それからあたしも牢の奥の壁穴から牢の外へ。

 出た所は、廃れた施設そのものの一番外側の壁の向こうだった。このまま行けば森へ……そうしたらお父さんが来なくたってよくなる!

 その時、左手を握られた。ほとんど首から上だけで振り向いて、大男のガッシリとした手で握られているのを知った。

 大男があたしの肩を掴んだ。羽交い絞めにされる。逃げられなくなる。


「恵……っ」


 お母さんの声が聞こえて……


「嫌……!」


 震えた声が出た。

 必死にもがいた。あんな場所に戻りたくないと思いながら、必死に。

 次の瞬間血が舞って、なぜか力が緩んで――

 全身で振り向いて見てみると……大男の肩があたしの指でえぐれているのが見えた。彼の肩の肉や骨が見えていて……その周囲や辺りは血塗れで――

 息が、悲鳴の代わりみたいに出て、呼吸が荒れた。

 泣き叫びそうになった――自分で自分の顔を触れることもできずに、涙も拭けずに、泣き叫びそうになった。

 しかも、そうなったからか、動けなくなった。

 三秒か四秒か……そのくらいが経って大男のそばでワインの瓶みたいなものがフッと消えて……それからハッとした。

 何てことをしたんだろうと思いながら、急いで走り出した。

 森に入ってお母さんと一緒に逃げていく。慣れない走り方で。

 そんな時、お母さんが言った。


専心(せんしん)礎術(そじゅつ)ね、もう一つ別の礎術を覚えたのよ。役に立つわ。……ああ、ほら、足元に気を付けて。慎重に逃げなきゃ」

「ん、うん」


 あの時、この力に気付いてよかった。だけど。


 ――こんな物騒な礎術に目覚めるなんて。この状況、どうかしてるよ。どうかしてる。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 山の中を逃げるのは得策じゃないとは思っていた。素人はよく遭難する。まずは上を目指そうと思った。

 景色をよく見て下山を選ぶこともあった。

 ただひたすら山道をゆく。そしていつか、上から町が見えればと――

 ある程度行くと山小屋を見付けた。

 助かる予感がして、なんてラッキーなんだと思った。


「助けてください! 誰か! 誰かいませんか!……いないのか?」


 ドアを叩くと、しばらくしてから中から人が出てきた。女性だ、七十代くらいの。


「どうしたの、そんな大声で」

「さらわれたんです、向こうの廃工場に家族ごと! 助けを呼んでくると言って逃げてきたんです、だから――」

「なるほど警察でも呼ばないとね、あなたは大丈夫なの? とりあえず上がって」


 よく見たらかなり充実したログハウスだった。入りながら、


「まあ、自分は大丈夫……ですが」


 とだけ言っておいた。先を言おうともしたが、そんな時女性から質問が。


「あなた、礎術は使えるの? 使えないとこういう時辛いでしょう?」

「いえ。あのぉ、実は地球人でして。元々使えなくて」

「……! い、今なんて!」

「え。その……地球人です」

「ん……うぇえ? う、うーん……」


 女性はよそを見るようにして、しばらく考えたようだった。それからまた。


「じゃあ……そうだねぇ……。とりあえず一緒に来てもらおうか、この辺の交番を知らないから地元の警察署に。それでもいいわよね?」

「え、ええ」


 女性が小屋を出ていくので、自分もついて行った。

 近くに、農作業でよく使うのであろう手押しの一輪車があって、女性はそれに近付いた。途端にその一輪車が大きくなり、女性はそれに乗った。


「さあ。乗って」


 それで空を飛び、山を下りた先の町を一つ越えてまた一つ山を越え――びゅんびゅんと飛び――かなり南の町に着いた。

 その一つの丘のようになった古めかしい家に着くと。


「まず警察に連絡するけど、それだけじゃなく、あなたのために……もしものことがあるとよくないから、やっぱり、アレを使いましょう」


 ――アレ(・・)? アレって何だ?


 女性は一旦どこかへ行き、そして戻ってきた時に手に持っているものをこちらに見せた。小さな本と小さな銀色の球、指輪。この三つが彼女の手にはあった。

 その本が巨大になり開かれた。そこにはこう書かれていた。



 1ネックレスを一瞬で着脱できる礎術

 2造花を本物の花に変える礎術

 3念じてライターを動かせる礎術

 4触れたロウソクを粘土のように好きに変形できる礎術

 5空気中の水分と雪を相互変換できる礎術

 6カラーコンタクトの色を変える礎術

 7すだれの長さを変える礎術

 8液体を含ませれば黒インクで書ける羽ペンを出す礎術

 9手で隠して引かせるタイプのくじの色を変える礎術

 10魚を皮と身と骨に一瞬で分ける礎術

 11写真立て越しに見る今を飾る礎術

 12額縁をゲート化させる礎術

 13どんな汚水も一度で飲み水にできる濾紙を出す礎術

 14鉛筆画をずらす礎術

 15茶葉を生み出せる茶筒を出現させる礎術

 16痛みなく患部に穴を開けピアスをする礎術

 17目の前の縫い針に目の前の糸を通した状態にする礎術

 18コップの材質を変える礎術

 19他人の礎術を短時間借りる礎術

 20盾の硬さを変える礎術



「あなたみたいな助けを求める人に使えれば、私も嬉しいから。いいわよね?」

「え、ええ……」


 その時、彼女の顔に、こちらへの親切心以外の、何か複雑な感情が浮かんでいるように見えた。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 随分と走ってから、たまに後ろが気になって振り向いた。

 そんなある時、上の方に白い布が見えた。それがこちらを追っているように見えた。

 より、走る脚に力が入った。

 白い布には二人が乗っているようだった。赤髪の男と、藍色の髪の女。夕陽のせいで廃工場内で見た時と微妙に違う色。

 (あのひと)は山に似合わないバッグや服装。タイトな黒いスカート、お化粧のノリも気にしていそう。男はそれほどでもない。女の靴はスニーカー……――追い掛けるため?

 それなりに本気で追ってきている。

 だから、走る脚に力が入った。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 声が聞こえて様子を見に行ったらノヴァインが倒れていた。二人の姿もない。外を見ると足跡があった。

 一番内側のソファーに座ったガラナウェルに報告すると……


「二人で追え、ユグラ、靴はあるよな?」


 ガラナウェルがそう言った。

 彼女然としたユグラがそばに立っていた。


「大丈夫だけど……ガラナウェルと一緒に戦ったり逃げたりするための――」

「いいから早く行け。ここの護衛に残りのメンバーも呼んでおく、心配せず追え」


 だから追い駆けた。


「ったく。履き替える靴があるせいで追うなんてね」

「持ってなきゃよかったってか?」

「こんな時なんて想定してないわよ、山なんてゴメンよ」

「ああ、そう、なるほど」


 あの二人の足跡は森に向かっている。自身で持っていたカーテンに乗って空を漂った。木々の隙間に気配を感じようとして見下ろした。少し行った所で――


「いた、あそこだ! ユグラは娘を追え」

「ハイハイ」


 降りてすぐ、嫌そうにユグラが走り出した。

 俺の目は、その母親だけを捉えていた。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 ふと右横に白い布の壁が建ち、あたしたちを分断した。


「お母さ……!」


 その時、何かが飛んできた。あたしが()ければ、それは木に刺さったり木の皮を剥いだりした。

 よく見てみると、それは、金属の、大きな……ビューラーだと解った。藍色の髪の女が操るものらしい。


 ――じゃあカーテンは男の……


 その時、服をビューラーで挟まれた。重たい人に掴まれたままみたいに急に少しも動けなくなった。

 次の瞬間、別のビューラーがあたしのお腹に激しく当たって――

 服が引き千切れながら……ほとんど吹き飛ばされずにその辺を転がった。

 怖さと痛みが、あたしに何も考えさせなかった。

 そこへまた、相手以上に大きなビューラーが前方から飛んできた。

 あたしは、地面にお尻を付けたまま、手を前にかざした、頭には当たってほしくなくて。それは考えたんじゃなくて、とっさにってだけ。

 触れた……とは思えなかった。手に近付いたビューラーが、その部分だけ削れてあたしに当たって、その瞬間、思わず目をつぶったけれど――そのあと小さくなったのを見て、またあの力だと思った。

 無意識に使っている礎術。


 ――制御しなきゃ。うまく……!


 女は操るビューラーを増やさず、残りの一本だけを自分の辺りに浮かせると小さくして元の大きさで手に持った。それからピンク色のハンドバッグの中から金色のハンドバッグを取り出した。

 戸惑うこちらへと、女が今度はその金のバッグを飛ばした――振り回すように。

 それで脇腹を殴られたあたしは、あり得ないくらい飛ばされて、白い布の壁に背中から当たった。

 激痛に襲われて息もできず体を動かせもしない。


 ――もう嫌だ。やめてよ。なんであたしがこんな目に遭うの。


「手間掛けさせないでよ~」


 目の前の女がそう言って、黄金のバッグをまた腰くらいの高さに浮かせた。

 それが来る。

 やっと少しだけ動けるようになった。手だけでもと前に差し出し、心の中で念じた――手間なのはあなたでしょと。

 あたしの手に当たると、金のバッグが裂けながらあたしの背後へと流れていった。白い布の足元にバラバラになって落ちたはず、見はしなかったけれど。


「ハッ、何よ、あんたが勝てるつもり?」


 女はビューラーをさっきよりも大きくして飛ばしてきた。


「もうやめて!」


 手をかざしたら、敵の操るビューラーの高度が途中で地面スレスレへと変わった。


「何度も同じ失敗するワケないでしょ」


 それが地面をえぐるようにしてあたしの足を挟んだ。

 引っ張られて、捕まって終わる……その未来が見えた。


「嫌。そんなの嫌!」


 しゃがんで力を込めて指を這わせると、挟まれた足首周りの金属だけでもバラけさせることができた。

 必死に横に走って逃げた。

 あの女はビューラーを若干引き寄せた、またこちらへ……と思ったのだろうけれど、それがこちらに来ない。


 ――柄の根元にも触れたかも。そこも少し切れた? そのせい?


 振り向きながら走った。

 パキンという音がした気はした。

 それが気になって後ろを見た時、柄のなくなったビューラーの先だけが、結構な高さで回転しながら女に近付いていて――


「ちょっ、操作が利かな――」


 女は()けようとしたけれど、小さくなり続けていたビューラーの先だった部分に首を巻き込まれるようにして引っ掛けてしまい、倒れて――


「嘘! なんでっ――」


 と、女は膝立ちになって首に手をやった。けれど、「ぐぇひゃ」と声じゃないような声を上げて、首からしおれた花のようになって血を舞わせて今度は完全に倒れ、動かなくなった。

 叫びたくなった。自分の居場所を知らせることになるけれど、どうしても叫びたくなった。必死にその想いを喉で留めた。


 ――あたしじゃない、あたしのせいじゃ……こんなの……!


 縮こまっていると体が勝手に震えた。少ししてから今の状況を思い出して、白い布の壁に向かって歩いた。

 白い布に指を這わせて切断すると、そちらへ走って行って――

 探した先にいたのは、ぐるぐる巻きでミノムシみたいになって宙に、縦に浮いたお母さんと、そうさせた赤髪の男。


「やめて!」


 どんなに言いたいことがあっても、結局言えたのはそれだけ。

 駆け付けると、あたしもぐるぐる巻きにされた。指に力を込めると切ることができてすぐ解放された……けれど、今度は地面に叩き付けられた。


「あたしだけでもいいでしょ。お母さんは逃がして!」

「逃がすなら娘よ! その子を逃がして!」


 主張をしたあたしたちに向けて、男は乱暴に――


「金蔓を逃がすと思うか? 二人共利用できそうならわざわざ逃がしたりしないんだよ、俺たちみたいなのはな」


 と気味悪く笑った。

 もう絶望だった。

 だからあたしは土を掴んで、自分を押さえ付ける白い布――多分カーテン――を指で切って自分を自由にすると、立ち上がりざまに男の顔に向けて土を投げた。


「ぐあっ!」


 男が身をくねらせて目に入った土を取ろうとした。

 だからカーテンを引っ張って指で切り、お母さんを解放して走り出した。

 しばらくして大声が聞こえた。


「そこか! 逃げても無駄だ!」


 そうやって追い駆けられ捕まり逃げ追い駆けられ捕まり逃げ……という事が続いた。

 ある時――二人して地面に押さえ付けられた。その時に男が言った。


「いい加減にしろよ! どうせお前らは疲れて捕まる! なのにここまで手を煩わせやがって! 余計なことをされたいか!――ったく、それにしてもアイツはどうしたんだ、なんで今俺だけで追わなきゃいけない?」

「あの人は死んだ! こんなことをしたせいで!」


 あたしだってあんな風になるとは思わなかった――そう思って言うと。


「お前が? ハハ! あのユグラがガキに殺されたか! ハッハッハ! まあ確かに生け捕りには向かない奴だったからな。アイツはなぶり殺しの方が得意だったんだ。まあいい。どうだ、俺たちがどんな存在か……今のを聞いても解ったろ、抵抗はやめて帰ろうぜ、あの場所によォ」

「絶対に嫌!」


 あたしは思い出していた。


 ――確か、広葉で包んだ木の実を米にする礎術……付与されたのはそれだった……


 今目の前に、木の実と広葉が落ちている。

 派生技として、もし、広葉か米、どちらかを操れたら。


 ――こういうことをお兄ちゃんから聞いててよかった、知ってるからできる。知らなきゃ……


 顔中に泣きたい感が集まった。

 それからまず、もがいて手に持った広葉で木の実を包んだ。礎力(そりょく)を込めたあと中がザラザラとしたのが解った。次が肝心。どっちを操れるのか。それともあたしにはまだ無理?

 土を投げても今度は()けられそうだった。だから念のために。

 それでも土を投げはした。やっぱり念のために。

 男は避けた。

 なら――と念じた。避けた体勢の男の顔に、特に目や鼻に向けて生米を砂嵐のように吹き荒れさせてやった。


「うっく……!」


 男が顔を隠すようにしてまた身をよじった。

 今だ! と、逃げ出す。

 相手はまた、カーテンに乗って追い掛けてきた。怒鳴り声も聞こえた。

 また繰り返し? 本当に彼の言う通りになるしかない? そう思いながらも、必死に逃げた。振り向いてたまに後ろを見ながら。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 追い始めて割とすぐ、いつもの姿勢になろうとした時、足が生地に乗らなかった。


 ――高所でバランスが! いつの間にこんなデカい穴がッ? くそ、注意すべきだった! なぜそこに生地がない!


 思った時には、落下し始めて既に数秒が経っていた。

 加速し地面が近付く中で対象に礎力(そりょく)を込めるのは――その状況を想定して訓練したことがなければ難しいものがある。


 ――これで死ぬ? そんな馬鹿な……!


 必死に下を向こうとした。顔や心臓は守らないと。

 直後、近くの岩に首から衝突したのを感じた。

 それからは、首の妙な痛みや頭痛、だるさ以外に、ほぼ何も感じなくなった。いったい――俺はどうなったんだ?


 ■■□□■■□□■■□□■■


 少し経った頃、何かの鈍い音が聞こえた。

 それが原因なのか、追っ手の白い布のシルエットも見えなくなった気がした。

 お母さんも気付いたみたいで、二人して立ち止まった。

 振り向いて見た先に何かが落ちている。近付いてよく見てみた。

 どこからどう見ても、『彼』が首を曲げ、倒れて遠くを見ている姿だった。その目が少し動いた気がした、気のせいかもしれないけれど。

 救護する人を呼ぶべきかな。でもそうするためには町に着かないと。

 それに、追っ手はあの二人だけだとは限らない。

 しかも、これからも追っ手が送られるかも。


「さあ逃げるわよ」


 言われた時、お母さんの手のひらに変な模様が浮かび上がっているのを見付けた。それをあたしが言うと。


「あなたにはない?」


 自分を確認した。印はあたしの手首にもあった。二重丸の真ん中から花びらが均等に六枚外側に伸びたような……。枠の色は違うけれど。

 お兄ちゃんの手に、前にあった模様を思い出した。全然違う模様だったけれど。


 ――もしかして探されてる?


 警察とかに探されているなら嬉しい。でもあの犯罪者たちの可能性もある。

 それを思ったからなのか、お母さんが、なぜか、黒い液の塊で薄い刃状にしたものを作り、それで、倒した男のカーテンの一部を切った。刺繍の模様を途切れさせないようになぜか慎重に切っていた――まあ念のためか。

 それで包帯のようにそれぞれの手と手首を覆い隠し、お母さんは言った。


「あのルストって人が、探されないようにってこれを張ってたの。だからこれで隠した方がいいかもしれない。あの人たちに探されないために。手、痒いかもしれないけど。我慢して。……ごめんね、大丈夫?」

「大丈夫」


 ――この印は見付かっちゃ駄目なのかな。もしかしたら、外すのは危険……


 あたしたちはまた南東へと走った。そしていつからか、疲れて歩くだけになった。

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