表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星のバラスト  作者: 弧川ふき@ひのかみゆみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/114

057 鍵を造らせる者との争い

 ――さて人質は今も元気かな。


 少女の父親を繋げていた場所へと歩いていた。

 もうこれも何度目か。

 念のための確認。目に入れに行く。

 と、視界に入ってくる――のが、なぜか、抜け出されたロープだけだった。


 ――どういうことだ。


 何度も監視を交替して今の状態をチェックできるようにしていた。

 その何度目かの把握時。失態を把握することになるとは。

 すぐに少女の前に戻った。少女の近くに座って少女の方を向いているノヴァインの肩に手を置いて、俺は低い声で()いてやった。


「父親がどこにもいないがどういうことなんだ?」


 ノヴァインはデカい体を震わせた。


「す、すんません、何かやっていたとしても、俺、気付けなくて」

「それはいい。次はこんなことがないように、な?」

「は、はい!」


 ノヴァインの肩をぽんと叩くと、そこから手を放し、少女に向き直った。

 今、少女は母親と一緒にいる。が、別々にした方がよさそうだ、今はこの二人しかいない、互いを人質だと思わせてやる。

 父親のことはしょうがない。そもそも礎球(そきゅう)のことをあまり知らなそうだった、地球人なんだろう、だから最初から人質としての価値しか見出していなかったし……だからいなくとも、この二人がいればいい。どうせアイツは礎球のことが解らないんだからな。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 リミィさんから聞いた犯人たちのだいたいの居場所をメモし、それを手にしっかり持つと、


「ドナ、ちょっとだけ協力して」


 それだけをドナに言ってみた。

 引き受けてもらえるとは限らない。何事もそうだけど、ドナは特に危険なことからは遠ざかっていたいと――そういう態度を前から取っていた。戦いが似合う人じゃない。

 ただ、うん、と頷いてくれた。

 ドナも引き連れて、ジオガード本部に一旦戻った。

 すると任務リストを見て受けようとしているとあるチームを見付けた。

 イルークさんやヒッツモーさんのチームだ。あと二人いる。テフォーシェさんとグルーシュさん。


「あの。任務を受ける前に聞いてください、今日はこちらに協力して頂けませんか、お願いします!」


 頭を下げた。大きく下げた。そして持ち上げて――『ダメなら別の人に頼みます』と言おうとした時――


「解った。何に協力すればいい?」


 その言葉に救われたと思いながら事情を説明した、新たに手に入れた情報も。

 黒い鍵を造らせている者たちは、リミィさんによると、今はメラーリーフ州の別の都市にいる。中部、カネンドル市のすぐ東隣のオーネンド市にあるカトブルック区の郊外。

 一旦メラーリーフ州支部へと空間接続本(テレポートブック)で本の部屋へと飛び、本部と同じような経路で外に出た。地下の警備員にはバッジを見せながらだった。ドナのことはスルーしてくれと願いながら通った。それで何とかなったのもまた救いだ。

 地上の歩道に出ると、ドナに向き直った。


「じゃあお願い、ドナ」


 白い光が飛んだ、南東へ。そちらへと、光を追った。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 牢を別々にされた。コンクリートの壁と鉄格子に囲まれている空間にいて緑も見えない。見えるものは壁、床、開かない鉄の扉と棒、椅子に座った青い髪の男。大男に比べたら線は細くて弱そうな男だけれど、甘く見るべきじゃない……というのも解ってる――あたしに戦う力なんてないんだから。


「ちゃんと覚えようとしてるか? 説明は聞いたんだろ? サボるなよ」


 そんなに言わなくても解ってる。

 でも、少し疲れてきた。これを言ったら怒らせてしまわないか、これを言ったらお母さんを傷付けられないか、それを思うと怖い。


 ■■□□■■□□■■□□■■


「見付けた!」

「どこ」

「あそこ」


 穴のなくなるほどに大きく膨らんだビーズを更に円盤のようにした状態で複数人で乗っていて、その状態で飛んでいた。

 ドナは前方を指差していた。

 確認が取れてから、こちらから念のために言っておく。


「マークに気付かれたらまずいからもう消して」

「解った」


 ドナがもう探さなくていいとでも念じたのだろう、そのすぐあとで、


「オッケー消えた」


 と聞こえた。

 大事なのはここからだ。

 飛行するビーズの上で全員で話しているのも聞いていて互いの力を知っている。



 チーム「聖なる野獣」

 シェイカーを使うイルーク・カカテシエさんは、僕がレジリア礎術(そじゅつ)大会に出た時から知っている。特殊なカクテルをシェイカーの中に生じさせて飲むことで身体強化をする。

 ヒッツモー・シュレイクスさんは靴紐を操る。試験の時に知った。

 テフォーシェ・ウィアハイトンさんは白いTシャツを操る。瞬間脱着もできるらしい。

 グルーシュ・フェイツさんは、ショットグラスを操る礎術と、ジャンプ力向上の礎術を使える。このジャンプ力向上とセットになっているためか、着地抵抗力減少という礎術も使えるのだとか。



 これらの情報を踏まえての作戦で全てが決まる。

 少し離れた所に着陸してビーズを降りた。

 四方からこっそりと、廃工場っぽいこの施設を一人で確認。「自分だけでまずちょっと様子を見てくる」とは言っておいた。

 相手も結構な数だ。廃れた施設の四方に一人ずつ、外を見張っている輩がいる。中にはもっといるかもしれない。

 確認してからみんなの元に戻った。

 みんなは降りた地点の近く、茂みの中からあまり動いてはいなかった。南の廃工場っぽいあの場所まで道があるが、誰もそちらに出ようとすら言ってはいないんだろう、まあ当然か。

 見たことを伝えると、


「この人数で来てよかったな」


 とヒッツモーさんが言った。念のためだったけど本当にそうだ。


「――飲ませれば他人を強化することもできるからな」


 と、イルークさんからはいいことを聞いた。

 だったら全員がイルークさんの出したカクテルを飲めばいい。アルコールゼロもあればなおよし。

 そして相手を別の場所に隔離し、協力し合えないようにする。


「無力化できた相手のみ、一箇所に集めてほしい」


 僕がそう言うとグルーシュさんがこの足元を指差した。


「ここでいいな」

「はい、お願いします」


 持ってきた拘束パーカーはニ十着くらい。これだけあればいいだろう、足りない方が怖い。多いのは問題じゃない。……足りていればいいが。

 さて。

 散り散りと、みんなが向かった。何組かに分かれて。

 ここから南側の一人だけでも隔離が済んだのが見えれば中へと入る。中にいるのは複数の可能性が。たとえそうだとしても、全部僕が相手をしてやる。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 不意を打つ、常にこの考えが先にある。

 北を見張っていた青髪の男のそばにケナが消しゴムのゲートを作った。そこへ巨大絞り袋で押し込んだ。

 繋いだ先は、この廃工場らしき場所の北に曲がりくねりながら伸びた道を少し行った所。そこら辺なら廃工場からも見えはしないだろう、分断には成功しているはず――

 移動のほんの一瞬だけで、青髪の男も理解したはずだ、何が起こったのかを。


 ――無力化! 先制!


 と、放とうとしたその時だ。

 目の前に、巨大な木製の何かが急に現れた。しかもフォークのように見えたそれの先から、こちらに何かが放たれた。

 ゾッとしたその一瞬、とっさに大量の礎力を込めた。

 金具が大きくなる。それが盾になる。


 ――うおおおおお!


 火だ。炎がこちらへと絶えず放たれていて――金具のシールドで防げてはいるものの、袋の方は熱で溶けている――

 その勢いが弱まったのは、二秒後だった。


「ぐっ! ガキは寝てろ!」


 男が横を見たのがハッキリと見える、こちらへの火が弱まったおかげか。ケナが何かしたんだろう、その顔は隙だらけに見えた。

 そこへクリームを放った。一時的に固まり取れなくなるクリーム。


「うおっ……くっ! 何なんだいったい!」


 男が言いながら無差別に木の何かを放ったので、しゃがんで()けた。そして新たに絞り袋を放った。

 腕に絞り袋を絡める。

 成功した。逃げられたら応援を呼ぶ隙を与え兼ねないと思ったが、そんなこともなく済んだ。中々の結果だ。


「何かやったろ、何をした」

「お腹に当てた。あと盾の準備もちゃんとしたから、心配しないで」

「オッケー。それなら着せて運ぶぞ」


 青髪の男が操るのは木のフォークだった。辺りに散らばっていた。素材が周りに多くあるのはあまりいい状況ではないが、敵の力を知っておく余裕もそんなになかったし、まあ、こんなもんだろう。そう思いながら、ケナが持っていた拘束パーカーを着せていった。絞り袋で縛られたその上から。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 西を見張る銀髪の男の背中側に結束バンドのゲートで移動した。

 相手の背後をまず取る。四班全部でゲート担当者はまず同じことをするだろう。

 そして私の場合は、移動直後、銀髪の男の前にもう一つゲートを。そこへと相手を、もう一つ結束バンドを操り、押し込んだ。

 そのゲートを私も通った。ジリアンも通ったのを確認して閉じる。

 行き先は崖下。廃れた施設の西に崖があるのが空から見えていた。そこに繋げていた。

 男は、仲間内でのじゃれ合いと思ったかもしれない、背中を左手ではたきながら、「何すんだよ」とこちらを見た。だが、こちらを見るなりすぐに顔色を変えた。

 すぐにその顔へ結束バンドを幾つも向かわせた。ぐるぐると視界を遮る。

 ジリアンがリップスティックを目の前に生み出し、蓋を取っ払って放った。色からしてスタンリップだと私には解った。


 ――これはもう無力化成功だろう……


 その時だ。向かってくるそれだけは――と男は思ったのだろう、そのタイミングで、巨大な何かが盾のように現れた。

 カメラだった。一般にデジタルというより、インスタントな、撮って数秒で現像できそうな――

 嫌な予感が胸をざわつかせた。

 こちらの攻撃を防いだそれは一旦消えたが、男は姿を消していた。


 ―ん? 杞憂か? いや、だからこそ隠れた、と……


 辺りには岩がゴロゴロと転がっていた。

 最悪の結果だけは()けたい。

 そのために、それらの岩にゲートを被せるようにして、別の場所へ転移させ、岩を自分たちの背後へと取っ払っていく。もし岩の後ろに男が隠れているとしたら…彼までをもゲート移動させてしまうかもしれない、それは()けたい、自分たちの背後をプレゼントしてしまわないように――岩を転移させるゲートの大きさはできるだけ最小限に抑えた――

 ある岩を退()けた時、こちらを向いている銀髪の男が見えた。焦ったように見えるが果たしてそれは演技ではないのか――そんな男の右手には、さっきと同じ種類のインスタントカメラらしきものがある。その左手には写真が。

 男が今、その写真を破ろうとした。

 だから放った。自己最高速の結束バンドの弾丸。それ自体フローリングの一枚の板くらいの幅や長さになっていた……それだけの礎力(そりょく)のこもった弾丸。

 受けた男は吹っ飛んだ。すると写真は手から解放されひらひらと舞った。

 私は持っていた拘束パーカーを投げながら。


「ジリアン、スタンと拘束を!」

「了解!」


 ジリアンのその返事後の動きはいつもより速い。イルークさんのカクテルのおかげだ。

 赤土、黒土、岩、石、砂利……そんな地面に写真は落ちた。確かこの辺に――と探し、見付けて拾い上げた。

 夕空が破れていた。木々も。その破れがジリアンの頭上でギリギリ止まっている。

 ふと、自分たちが背にしていた空が気になり、そちらを見てみた。

 少し赤みを帯びた空に異変はない。だが、ぎょっとした。木々の先が人工的に切り取られたようになっている。写真の破れと同じように……

 写真の破れた部分を何とか繋がっているように見えるように整えてから同じ空を見たが、そこにある木々の枝先は復活しなかった。その破れが、ジリアンの頭上で止まっていなければ――

 ぞくりとした。

 なんて写真だ……と手の先を見た。そこにあった写真が今フッと消えた。恐らくあのカメラは礎物(そぶつ)で、それによる写真は、レケにとっての特殊な効果がある方のクリームのような『礎力に連動したもの』なのだろう。

 消えたということは、ジリアンが無力化に成功したか。もしくはただ敵に集中を欠かせたか。

 見やると、スタンで身動きを封じながら、リップスティックで挟んで拘束パーカーを着せていくジリアンが視界に入った。

 着せ終わり押さえ付けてからこちらを見ると、ジリアンは親指を立てた。

 もう大丈夫そうだ。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 まず施設の南側へと茂みの中を移動した。靴紐で作った輪によるゲートを多用すれば、実質、移動距離はかなり縮んだ。


 ――あいつだな。


 南東の茂みからこっそり見やった。

 施設とこちらとの間には開けた荒れ土があってまだ距離があるが、それよりも時間が惜しい。手早く男の背後に靴紐の輪のゲートを繋ぐと、テフォーシェと一緒に入った。

 男の背中が目の前。その茶髪の男の前にゲートを更に。そしてそこへと突き入れた。

 飛んで近付いてきている時に上から見えていた――南西、かなり遠くの草原へと、そのゲートを繋げていた。二人で向かってから閉じ、手元に移動させる。この右手に今、輪になった靴紐が二本、左手には輪になっていない靴紐が一本。

 相対した茶髪の男は受け身を取ると草原に膝を立てた。そしてショルダーバッグの位置を整えた。そういった所持品を気にしながらすぐさまこちらを警戒――かなり慣れた動きに見える。

 縛り上げてやろうと左手を突き出しそこから一本だけ放った。

 礎力を注がれ大きくなりながら向かうそれが短い茶髪の男の腹を薙ぎ、吹き飛ばす。そうなるはずだったが、目の前に何か丸いものが幾つも浮き、それが、黒い光線みたいなものを放ち、こちらの靴紐の大部分を炭のような状態にしてボロボロとその辺に転がしてしまい、防がれてしまった。

 異様な光景だ。日の下、草原に多くの丸い物体が浮いている。

 よく見ると、それは、人の目のようだった。まるで若干の自動照準合わせの能力がある――そんな操作をされているらしき目玉。その幾つもが、じっとこちらを――

 一瞬吐きたくなる不快感とホラー映画でも見ているような恐怖感を覚えた。それらに負けまいと、やられまいと、絶えず動き続けた。

 左右に視線を泳がす。身体強化カクテルのおかげで体は軽い。

 だがギリギリで()けるのも段々辛くなってきた。

 テフォーシェも同じように避けていて――たまに礎物(そぶつ)として生んだTシャツを盾にしたりしていて――自分はと言うと、右手にあった輪の靴紐を一つだけ(ほど)いていた。


 ――よし、解けた!


 その靴紐の、色を変える。赤く、少しどす黒く。振り向くと――こちらとテフォーシェとを襲う目玉が幾つも浮いているのが目に映った。


爆紐(ばくちゅう)……!」


 向かわせたそれが接触すると、そのほんの〇・五秒後くらいに、目玉は爆発した。こちらの能力通り。

 全ての目玉に向かわせ次々と接触させる。


「くっ……!」


 放たれる予兆の黒靄みたいなものがその目玉の前に現れ集中する。『来る』というタイミングを見計らって動くことで()けた。

 そしてそれらは次々と爆散。そして浮いていた全てが地に落ち、動かなくなった。


「よし!」


 あとは礎術者だけ。

 男を見た。男は急に手を上げた。


「降参だ、ったくふざけやがって。勝てるかって」


 言われて、ふう、と息を吐いた。テフォーシェに目をやって、


「着せるから縛ってくれ」


 と言ったその時だ。何かが横に現れた圧を感じた。見やる。

 そこにあったのもまた目だった。ただ、巨大な目。直径が人の身長ほどの。そこから黒いものが放たれたら()けられるかどうか……。

 そして、黒い予兆は、既に、起こっていた。

 残っていた靴紐の輪を目の前に巨大化させ――


繋紐(けいちゅう)……っ!」


 ゲート化した紐の繋がる場所を森の前にと念じた。放たれたのであれば真横の木の若干上方にそれは当たったはずで――

 ふと横でドシンバキバキと何かが倒れる音が聞こえた。多分狙った通りになった。

 ゲートを少しだけ前へ押し、その解除をした。ゲート化分の礎力込めをやめたワケで、そうなると――

 目の前に見えたのは、前と後ろで分かれた状態の大きな目。それがどんどん小さくなり……

 男を見ると、この攻防の間に一度下げたのであろう手を、また上げていた。

 その男の左目は凹んでいて、そこには馴染みのある光がなかった。

 そこで完全に解った。義眼。彼自身左目が義眼であり、操るそれをいつも大量に持っているのだろう。

 恐らく本当に全て終わった……


「テフォーシェ、シャツで拘束。俺が着せるから」

「おし、解った」


 テフォーシェは白いTシャツで男の顔をすぐにぐるぐる巻きにした。万が一のための視界の遮り。

 奴の腕も足も、別のTシャツによってその場に伸びたまま固定された。

 ようやく拘束パーカーの出番。ここまで来れば簡単だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ