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星のバラスト  作者: 弧川ふき@ひのかみゆみ


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  鍵 その3

『大金がありそうな店や家に侵入するための黒い鍵を作っている者がフラウヴァ州にいる』この内容で判定能力を使ってほしいことをリミィさんに伝えた。

 売っていると表現した場合、仲介人が該当する可能性がある、一旦それを避けた。するとリミィさんの声が。


「赤くなったわ」


 何度も頼んで申し訳ないが……彼女はさっきの内容の紙を試験管に入れ、念じて――水の色が変わるのを見たということ。事実でなければ赤くなる。


「つまり」リミィさんの声が続いた。「そんな人はフラウヴァ州にいない。ねえ、もしかしてリカットの……というか、この件の大元を叩こうとしてる?」

「ええ。次は――」

「警察に任せても」

「できることは全部する。お願いです、協力してください」

「それはいいけど……」


 結局、地名を変えて判定した結果、どこも引っ掛からなかった。


「どこも赤くならない。前も言ったけど、もう作られてはいないんじゃない?」

「でも――」


 ああ、言葉に悩んでしまう。どの順番で、どう言えばいいか。


「……ん? 何?」


 電話口に促されて、フロアの壁に向かって歩いた。みんなから離れた所の壁に寄り掛かるようにして答えた。


「新しい施設の鍵もあるようなんです、つい最近まで、あの鍵を作るということに、誰かが絡んでいるはずで」

「な……るほど。確かに、そうだってことなら……じゃあ、どこにもいないなんてありえない」


 電話口で、見えもしないのに肯いた。


「前に、出回らせた本当の首謀者は死んだと思ってた。あれって、なんでそういう結論になったんでしたっけ」

「あー……確か……その黒い鍵にまつわる首謀者が生きているって書いた紙を入れて、水が赤くなった――だからだったと思う。だから死んではいるはずなのよね」

「それ本当に?」

「んー? あ、実はこの力ではね、六時間くらい前までの判定しかできないのよ、それが要注意ではあるの。……解る? 今までは現在の事象や疑問だけ確かめてたから――」


 言われて考え込んだが、悩みは解決しなかった。


「それ、もし首謀者が生きていたとして、『死んでいる』っていう判定になる原因になります?」

「え? あー……ん? あ、それは……ならない……はず……え、なんで。いや、そうよ、それは……その人が本当に死んでいるからよ」

「でもその時、首謀者がっていう書き方しかしなかったんでしょう? 代替わりしても指示役は指示役です、製作者や売り手はその名の通りのはずで、人が変わってもそう呼ばれるでしょう? 別人に代わっていても、それは生きてやっていることで……『死んでいる』にはならないでしょう?」

「あー……」

「もしかしたら本当に死んで誰かが継いだ、その継ぐまでの空席期間の判定になっていた……とも思ったけど、確率的にどうかなって。で、思ったんですけど……阻害されてる……とかないですか?」

「阻害?」


 言っていて自分でもゾッとした。


「だからこそ、『生きていると言えない』から赤くなった……とか――」


 と言ったこちらの声が、電子音になってリミィさんに届く。あちらからも声が届く。


「あ……え……? あ、ありえなくはない……かも……」

「じゃあ、『その黒い鍵にまつわる首謀者が生きているのを隠す何かがこの世のどこかに今ある』みたいに一旦……」


『今ある』というのが、六時間制限に引っ掛からない現在だけを見た書き方――リミィさんの制限を守っても確かめられるはず。

 しばらく待つと、あちらから声が。


「透明なまま……。ある……隠されてるね……」

「じゃあそれがどの州にあるのか――」


 順繰りに判定。メラーリーフ州の判定の時に聞こえた。


「赤くならない……多分ここね」

「じゃあ今度は」


 話しながら調査室に行った。誰でもいい、とにかくと思いながら人を見付け、話し掛けた。


「メネアさん、メラーリーフ州の詳しい地図ってないですか? 今すぐ見たいんです」

「ちょっと待ってください」


 調査室の端――入口からすぐの所に長いテーブルがあって、そこに地図が置かれた。広げて確認しながら質問した。

 まずは都市部をまとめて。

 偶然、その中に該当箇所があるらしく「赤くならない」とのことだった。

 更に細かく聞いて発覚した。


「中部の……カネンドル市コオーテッツ区?」僕がそう聞き返すと。

「そこの郊外って、確か、使われなくなった民家の放置地帯があるよ、そこは怪しいかも」

「ここって見回りとかされてないんですか?」

「あいにく、それがされてないから放置地帯らしいのよね」


 溜め息を吐いてみた。ただ、これは明らかな進展。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 手製の牢の中にいる男に、いつもの言葉で命じた。


「今度はこれの中だ。おい。どうした。起きてるのか?」


 男はうつ伏せになっていて、ピクリとも動かない。


 ――こりゃ死んでるな。


 牢を開け、男の体を起こし、蹴り、上を向かせた。

 腕に黒い塊がくっ付いている。引っぺがしてやると大きな切り傷があるのが解った。

 注射器を刺すような箇所に縦に……という大きな傷。いつの間に。


「ルスト、なんでこうなったか解るか? 今まで従順だったはずだろ」

「俺にも解らないよ。……俺は知らないよ?」


 俺も背の高い方だが、そんな俺よりも背の高い赤髪のルストがそう言った。

 髪を掻き上げ、やれやれと考えてみた。


「じゃあ何が切っ掛けだ? 型に流し込むことしか頼んでないし、家族に会いたがってた」

「あ、うっす」


 後ろから声がした。牢を出た所でルストに向いていた体を振り向かせる。と、そちらにいたのはスキンヘッドの大男の仲間、ノヴァインだった。

 ノヴァインが申し訳なさそうに打ち明けた。


「俺、『会えたらいいな』って笑い掛けてやったんスけど……もしかしたらそれで」

「希望を持てなくなったか」

「すんません」

「……本当にな。貴重だし最後の一人だったんだぞ」

「本当にすんません」


 そこで、ルストが俺に。


「本当にいないか確認してみたら?」

「そりゃあ外にはいるさ」

「ああ、うちにいるのが、ってことか」

「そう、最後だった」


 以前に確かめたことがある。その時は放っておいたが。というのも、当時に捕まえても今日みたいな失態がすぐに起こっては長持ちしないからだ。利用できるのなら放っておく、この判断が大事な時がよくある。


「よし、ちょっと出るぞ」


 この隠れ家自体がルストの設置したカーテンに囲まれていた。ここを少々出た所で、目の前に礎力(そりょく)を込めた。

 それによって無から物体化されたのは小型のワードプロセッサ。

 指を()わせて質問を入力する。


『固まる黒い液体を出す、または出せるようになる可能性がある者は今何人いる?』


 すると、画面に『3』と表示された。

 メラーリーフ州に、ウィローフィア州に……何人いるかと順に入力していったが、ディヴィエナ州の時に『1』と表示されるだけだった。ほかは『0』だ。


「ん……? どういうことっスか?」

「地球にいるんだろ」

「地球!」


 念のため入力する。


『固まる黒い液体を出す、または出せるようになる可能性がある者は今地球に何人いる?』


 そして『2』と表示された。「ほらな」などとは言わずに手で示してやった。ノヴァインが感心の表情を浮かべたのを見てヤレヤレと思ってから、考えた。


「待てよ、地球に留まっているということならそっちを狙った方が楽そうだな……」


 この力があれば探すことも苦ではない。

 ふと気になった。自分が今探されてはいないかと。

 毎日点検していることではあった。自分を探してこの市へ来た者がいた場合に逃げるために。捕らえていた男が死んだ今、ここを去ることに名残惜しさもない。


『俺を捕まえようとして今現在ここへ来ようとしている者は何人いる?』


 画面に『1』と出た。一人でも来るのなら――


「よし、すぐに出発するぞ」

「ちょ、待っ……ガラナウェル、カーテンはあのままでいいのか?」

「力を知られたくないなら取って来い、どうでもいいなら放っておけ」


 ルストが念じたからだろう、この一帯を囲んでいたカーテンの全てがルストの手元へと一斉に集まった。


「ちゃんと全部集めたのか解るのか? それ」

「多分これで全部……」

「じゃあもう行くぞ、いいな?」

「うー……オッケー、残ってたらしょうがない」


 本当は少しでも時間が惜しい。待てるのはそこまでだ。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 メラーリーフ州中部、カネンドル市コオーテッツ区の放置地帯。

 怪しい雰囲気の中を歩いていく。目に映るのは廃れた煉瓦の廃墟。何かの店があったのではと解るだけで、看板も何もない空間。部屋に物もない、がらんとした空間。傾いた日の光が射す。

 チームのみんなに協力してもらいつつ自分でも探索。幾つか見ていった中で……奥を調べたある時、ふと――


「大丈夫ですか!」


 近付いた先に三十代後半くらいの男性がいた。天井を見たまま動かない。牢のような場所にいて、いつまで経っても静かだった。

 牢の扉は開いていた。入って駆け寄り、また声を掛けた。


「だいじょ――」


 触れた瞬間、既に冷たくなっているのが解った。異臭もする。

 男性の近くに、何かから剥がれ落ちた黒い何か――としか言えないものが落ちていた。そしてそれは、どう見ても自分と縁のあるものだった。


 ――そんな。じゃあこの人……!


 悔しさが沸き起こった。

 そこへ、礎物(そぶつ)として――あるはずのない物として――琥珀色のビーズを生み出した。その中に作り出す木の柱……ウッドシリンダーを大きく立て目印にしてからケータイで。


「木の柱を立てたからそこに来て」


 集まってから……死体を確認してもらって、それから――


「警察は呼んでおいた」


 とレケが言ったあとでジリアンが話し出した。


「話を聞いて思ったんだけど、この辺り、不自然にカーテンレールがあって……何か阻害の話って前にあったよね?」

「前に……? 前に……」思い出そうとした。そして思い出せた。「そうか大勢が眠ってた地下の! それで……! だから……! というかアレも関わってたのか? ここにいた誰かの商売相手だった……? のか……」


 一つ謎が解けて、それでもすっきりはしない。

 ここに誰かがいた形跡はある。食べ物のゴミなんかも転がっている。ちらりと横を見るだけで足跡なんかもすぐに見付かる。ハイヒールか何かの足跡まである。

 多分、数人の集まり。


 ――その人物らをどうにかしないと……。だからって彼らはどこに? いなくなった――ここには死体が。……まさか!


「一旦支部へ!」


 そう言って走り出した。

 ジオガードのメラーリーフ州支部から空間接続本(テレポートブック)でスピルウッド州支部へ移動すると、そこからダイアンさんとドナの暮らす屋敷へ――ひとまず黒いビーズのゲートを繋いだ。

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