鍵 その2
ホテルに残った組として、レケとベレスの二人と一緒に、僕はまずフロントへ。
「ジオガードです。さっきの男が実は――」
協力してもらい部屋を教わると、すぐにそこへ向かった。
「レケ、この部屋の外へ逃げた場合を考えて隣の部屋か建物の横から監視を――」
「解った、じゃあ、あなた、ちょっと協力を」
レケがそう言ってフロントから一緒に来た男性を連れてまず一階へ戻った。
ベレスと二人で問題の部屋の前からは去った。覗き穴からリカットが見てこちらに気付いてしまうのは避けたいからだった。
リカットが出てきたらその様が見えるような窓辺に……二人でいて外を見ながら、たまに廊下の様子を監視した。
そこへレケとフロントの男性が戻ってきた。
フロントからカードキーを差し出された。受け取る。
「これがあの部屋のキーです」
そこでレケがこちらに親指を立てると、
「こっちの監視は任せろ」
と、隣の部屋に入った。そこから窓の外を監視するのだろう。
ここでの準備が整ったので、カードキーをひらひらとさせたりしながら、しばらく連絡を待った。
「見付けた」とはジリアンが。
「特定した、仲間はいない」とマルツさん。
オジーさんからも。「尾行先には誰もいない」
口々に聞いて結論が出た。だから全員にそれぞれ連絡――
「じゃあこれから一分後くらいに一斉逮捕で」
「了解」
それぞれの返事を聞いてからケータイはポケットへ。
リカットの泊っている部屋の斜め前まで歩くと、ベレスに告げた。
「ゲートでこの廊下を閉じ込めて。中へは僕が」
ベレスは無言で頷き、結束バンドを操った。そして廊下の少し離れた二箇所にゲートを作った。それらは繋がっている。片方に入ればもう片方から出て、歩けば部屋前へ戻る……そういう配置。客に取っても被害を少なくできる処置。
カードキーを使って入った。
音からしてリカットはこちらに気付いたはず――ただ、何かの用のためにホテルの従業員が入ってきたかもとも思っただけかもしれないが――
入って少々歩いた先でこちらから警告してやる。
「ジオガードだ!」
「くっ――」
リカットは呻くと、巨大化させて爪切りをこちらへ飛ばし、挟み切ろうとしてきた。
でも、それも一歩遅い。
先にリカットの腹にこちらのビーズの弾丸が当たった。集中を欠いたリカットはその場に倒れた。苦しみの声も上げている。
小さくなった爪切りはその辺に転がるのみ。
爪切りを拾うと、その辺の枕くらいの大きさの灰色のビーズをイメージして礎物化させ、それに向けて投げた。よし。これで通った爪切りは粉々。
その一瞬に予備の爪切りを操られてしまうかもしれなかったけど――いつも通り白いビーズを生み巨大化させ相手の頭部を覆う。ゼロビジビリティ・ホワイト。と、念じた。リカットの視界は真っ白になったはずで、彼は慌てふためいた。
「そんな……ふざけるな! ふざけるなああ!」
喚いた瞬間、何かが嵐のように飛んでくるのが解った。
灰色のビーズを目の前に、瞬時に設置。シャタリング・グレー。
全て砂のようになりその場に落ち、威力も何もなかった。
大きなバッグを持っていた。そこから――リプトラン家から受け取った拘束パーカーを取り出すと、着せていった。付属のベルトで腕を縛るのも簡単だった。礎術と悪行に頼り切ったリカットは、こうなってしまっては、たとえ一般人相手でも抵抗に成功し逃げ切ることはできないだろう、そう解っていたのか、あまりにも弱々しかった。
■■□□■■□□■■□□■■
深い青のリップスティックを礎物として生み出すと、それで壁に輪を描いた。そして念じた。思い描いた先はアパートの洗面所。ケナには、
「外から見張ってて」
と言って、自分だけがそのドロウィングゲートを通った。
洗面所の扉を開けて進んだ先――居間に、大男がいた。
視界に入れたその瞬間、大男も頭をポリポリと掻きながらこちらを向き、侵入者であるこちらに気付いた。彼は、その辺のテーブルから灰色の箱を取り、こちらに白い何かを飛ばしてきた。
それを弾く。リップスティックの弾丸で。
防げたからと油断する訳にも行かない。相手はまだ灰色の箱を持っている。
また念じた。リップスティックの弾丸が今度は彼の手から箱を弾き飛ばし、遠くへと押しやる――思い描いた通りになった。箱は壁で反射して転がり、キッチンの床へ。
近くの壁を白い口紅ファイヤーリップで塗り、火を出させた。灰色の箱を燃やす。すぐに火を消しファイヤーリップの名残りまでをも消して、燃焼の『早送り』で箱ごと使い物にならない灰へと変えさせた。
完璧な流れだった。燃やそうとして一秒か二秒でそれを達成。
大男はこちらを睨んだ。そしてすぐに――キッチンの横にある扉の方へと逃げ出した。
行かせない。
そのために、その扉の前に、リップスティックでバリケードをする。
大男は、あまりの出来事に、こちらを振り返って――驚いた顔で――
「俺が何を」
しらばっくれている。ただ、抵抗はしない。できないんだろう。無関係を装いたいのか。
ふう、と息を吐いた。
「ジオガードよ」
事態を理解した大男は、こちらに向かって手を上げた。そして無抵抗。あら素直じゃない?
拘束パーカーを着せ、部屋を出た所に、ケナが立っていた。じっとこちらを見て――
「ま、捕まらないワケないよね」
大人びたケナがそう言った。その評価に、色んな意味を含めて返した。
「ありがと」
■■□□■■□□■■□□■■
最初に会ったホテルの一室にて合流を待った。再会できたリプトラン家の二組も、そんなに手間を掛けずに捕まえることができたらしい、話を聞くといつも以上にうまく事が運んだとか。いやぁ、よかったよかった。
「草で身動きを止めるのも全然疲れなかったよ」
「私も。穴の開いた……フェルト布? でゲートを作られそうになったけど――根っこと蔓で……ほぼ一瞬」
「キディアもそんなこと言ってたな。そいつはメガネレンチだった……けど反撃もさせなかった。まあ、こっちは人数で混乱させたけど」
そんなワケで集合した犯人たちを、あとは警察に突き出すだけだが――その前にと、質問を投げ掛けた。
「黒い鍵はどうやって手に入れた」
「何も知らない」
「そんなワケないだろ」
実際リカットのあの部屋には、彼の物らしきバッグがあって、その中には黒い鍵が数本あった。持ち出してきたバッグをドサリと目の前に置き、中から取り出して見せ付けこちらが凄むと、一味の目は全部がリカットに向けられた。
そうなると、レケが僕の代わりのように。
「リカット。嘘を吐けばそれだけ罪も重くなるぞ、こっちには切り札もある」
怒りと諦めを顔に宿したように見えた、そんな顔でリカットが、遂に。
「買っただけだ」
「買った? 誰から」僕が聞くと。
「侵入するための鍵を売ってる奴がいる」
「解ってて買ったのか」
レケが、腕組みをした姿でそう聞いた。すると。
「ああ。でもそれがなきゃこんなことしてない。俺だけが悪いのか?」
「そ、そうだぜ、そういう鍵が出回るのが悪い!」
「ふざけんな、それはただの責任転嫁だ」
「ぐっ」
短髪の――帽子の男に怒ってからも詳しく質問したが、どうもよく解らなかった。古い店の鍵も最近の店の鍵もある、それらを、太った男から買う時もあれば、痩せ細った女から買う時もあったとか。どうやら仲介人。本当の売り手には、すぐには辿り着かなそうだ。
何かが引っ掛かりながらそう理解して――それから明け渡しの話になった。
「じゃあ警察へ」と僕が言うと。
「そうね」ジリアンが言って――
「よし」と、マルツさんが肯いた。
明け渡しが済んですぐ本部へと帰った。
報告書をベレスが書く横でケータイをバッグから取り出し、掛けた。相手はリミィさん。
出てもらえるとは限らなかった。任務で忙しければ何も頼めない。ただ、そこの運はいいらしい。
「何?」
「ちょっと確かめたいことがあるんです」
「……解った、どういう内容?」
頭の中で整理して伝える。
「大金がありそうな店や家に侵入するための黒い鍵を作っている者がフラウヴァ州にいる」




