050 とある組織の首謀者
体が動かない。礎術も礎術道具も使えないから個人の操作対象も使えないし通信もできない。
ルーペの呪縛。最悪だ。目だけは多少動くと言われたが、もうすぐ自分は窒息する。
まだこの部屋に入っていないイチェウィックさんが全ての鍵だった。
「あと数秒かな」
敵が、私の死を望んでいる。
ただ願うことしかできないでいると――
イチェウィックさんが、私が入ってきたのと同じドアを開けて入ってきた。
「おっと!」
男は即座に後退してイチェウィックさんをもルーペの視界に入れたようだった――放たれた印鑑が少々前で落下し、床を転がるだけになった……
その時だ。男から見て右横に、大きなゲートが開いた。盾のようなゲート。よく見ると――それはレガースによるゲートだった。
そこからヴィスリーが現れた。彼女のバイクグローブが放たれ、それが男の手を尋常じゃないスピードで叩いた。そのバイクグローブは、男の、文字通り目の前を通り過ぎ、ルーペを部屋の端へと押さえ込んだ。
男は、手が痺れたらしく、それを支えていて、
「この――!」
と、叫びつつ右を見た。そしてポケットから新たなルーペを二つ浮かして出し、瞬時に目の前へと。
私とイチェウィックさんは再び動けなくなった。その一瞬にリップスティックを放ったのに、床に落ちた。印鑑も放たれていた。それらはもう床を転がるだけ。
今度は――ヴィスリーの横にはカービティも来ていて――二人までもが動けなくなってしまうのか、そんな予感がした。
そうなったらもう終わり?
そんなのは嫌だと思った時だ、カービティが上段蹴りの要領で脚を振ると、レガースが物凄い勢いで空を飛び――男の横っ腹に激突した。
その衝撃で男は壁へと押しやられた。
やっと動けるようになった。
「無力化!」イチェウィックさんの叫び。
礎物の――つまり念じて出現した――リップスティックで、いつもの電撃。「動くな」と添えると彼は抵抗をやめた。
拘束パーカーを着せ、荷台へ送る。
死ぬかと思った。深呼吸のあとでみんなの顔を見た。イチェウィックさんも安心の表情なのだろう。ヴィスリーは薄くにこやかな表情をしていて、カービティは親指を立て、大きく笑っていた。
「二人の地点は――」私が何を聞こうとしたかイチェウィックさんは解ったようだった。
「カービティの位置にベレスにいてもらって、二人に頼むことにしたんだ」
なるほどと納得した。それなら監視の目に穴はほとんど増えていない。
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東側四階。階段を上がる時だったから何もできなかったが、通信が慌ただしかった。だがどうやらソラは助かったようで、ほっとしながら最初の部屋へと近付いた。
ドアをスライドさせて勢いよく入る。
「動くな!」
宣告後、『男』が何やら白い紙を飛ばしてきた。避けながらポリ袋で視界を奪う。
白い紙がこちらに当たりそうになった時はミミカが手鏡を盾にしてくれた。
顔を覆われると、敵はもがき、白い紙を飛ばさなくなった。
床に落ちたそれをチラリと見てみた。名刺だった。
この名刺使いの腕をポリ袋で固定し、拘束パーカーを着せていく。そして荷台へ。流れはスムーズ。
真ん中の部屋にいた者は礎術を使って抵抗しなかった。それでも慎重に着せた。
全員がこうだったらいいのに……などと叶いっこない願いを抱きつつ、現状、逃げようとした数名の逮捕もできているようだと通信から解って、安心感も増す中で、東側四階、最後の部屋へと向かった。
ドアを開け、入ると、男がいるのが解った瞬間、何かが飛んできた。
とっさに、黒いポリ袋を、前に出し、拡大させ、厚みを持たせて硬さを操作――盾にした。それを見たミミカが前に出た。ポリ袋を一旦収縮させてから男の様子を見た。二対一となると男は視線を送る場所に困ったようだった。
その手に男はなぜか狙撃手袋を持っていて、それをこちらに構え、何かをミミカに放った。
盗んだりしたのだろう狙撃手袋からの礎力の塊を、ポリ袋で受け切ると、弾けて少しばかり破けた。
――このままでもこれを操作対象として扱えるが……
「こっちは本職だぞ」
腰に携帯している手袋を装着。慣れれば手を滑らせるだけで着けられる、一瞬のうちに。そして構え、放った。
人が丸々見えなくなるくらいの礎力の弾。大きければ大きいほど貫通力が減り、爆散の性質を持ちやすくなる。
かなりの速さになるように放った。男はそれを受けると吹き飛び、壁に押し付けられて爆散に巻き込まれた。そうなると、男の聴覚と触覚がある程度麻痺し、衝撃も相まって咳き込んでしばらく動けなくなった――はず、というのも、これまでの経験ゆえの認識だった。
顔に黒いポリ袋を被せ、手に持っている財布状のものも別のポリ袋でよそへやった。腕を固定すると、ミミカが拘束パーカーを着せていった。
荷台へと運んでから、手鏡のゲートの向こうから拘束パーカーを一着補充してきて、ミミカが言った。
「あれ、千リギー札でしたよ、財布をどけて正解です」
「なるほど? 使いたいとはあまり思わない礎術だな」
「使って破れたりしたら最悪」
その時だ、キボラから礎術通信による声が届いた。
「東側にはもういない、西側に援護に向かって。四階の端に」
「よし、解った」
言われた通りに向かった。多分残りはもう一人か二人くらいなんだろう。
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自分たちの服をドライング・イエローで乾かし、体に触れさせると服が水分を吸った。それを繰り返せば服を乾かすのは簡単だった。ホットエア・オレンジを駆使して髪もある程度乾かした。
こういうやり方でなければ表面の水分だけを速く取ることは不可能。口の中や目に必要な水分まで消えたら痛みに苦しむ可能性があった。
十分乾いた。向かう。四階最後の部屋。ドアをスライドさせ開けて入る。
見えたのはこちらを振り向いた女だった。こちらからまず警告。
「動くな! 逃げ場はな――」
瞬間、南の窓全体が、激しい音を立てて割れた。
光るそれらがこちらへと向かってくる予感がした。
そうでないかもしれないが……とにかく何かが来るのが見える前から、目の前にビーズを呼び出した。
こちらと女に穴の向いたビーズ。それを横に引き伸ばし、黒に変え、穴の開いた壁のようにしたまま窓へと動かした。
「ゲーティング!」
それをゲート化させ、廊下と繋げた。
あちらからやはり来た攻撃……ガラスの渦は、そのゲートを通り、廊下のどこかへと突き刺さる。
「なっ!」
驚いた女の頭部に向けて、すぐさま……ゲート化を解除したそのビーズを今度は白に変えて接近させた。縮小しながら近付いた白いビーズで女の頭部を覆う。と――
――ゼロビジビリティ。
白くて何もない景色しか見えなくなった女は、どこに礎力を込めればいいかが解らなくなったはず――だが強引にやろうと思えばできる。しかも、ガラスのビーズとも言えるこちらの対象を操られる可能性もあった。
そんな意識を持たせないように、腕や足の動きを多数のビーズで封じ、力の差を圧倒的だと思わせる。すると。
「何なの……くそっ!」
強い抵抗はされなかった。
ペーターさんが、拘束パーカーを彼女に着せ、黒ビーズのゲートを通って南のトラックの荷台に届け、戻ってきた。
その手に、今度は次の一着がなかった。
ゲート化を解いて黒いビーズを縮小させ手元に戻し、瓶に転移させると、聞いてみた。
「今ので最後ですか?」
「いや、それが……ミミカに持たせた一着がまだある」
「どこかにまだいるんですね」
「それが……俺も感知機を見たが、どこにも赤い点はなかったぞ」
「……? え、どういうことなんですかね」
「さあ……」
ミミカ、ロロさんと合流して本当に一着残っていることを実感してから、全体を捜索した。
最後の一人がなぜかどこにもいない。
「五階は最初から人がいなかった、動物ばかりだったってことだね」
と報告が入った。礎力による通信。ジリアンたちの声だった。
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「ここにゴルドガルスもいるよ。なぜかシロヨツミミイタチもいる、しかもいっぱい。なんでなんだろ」
私はイチェウィックさんに聞いてみた。並べられたケージの中に色々な動物がいるのを見ながらだった。
「さあ……それより最後の一人、本当にどこだ」
五階には動物しかいないみたいだ。多分、それらの生物の、礎術効果のある何らかな体液や毒なんかの分泌物、もしくは体組織の粉末……を、薬や礎術道具の精製に違法に使っていたのだろう。入手経路も怪しいと依頼書やロロさんの言葉から知っているけれど、それだけのことをしていったい何を作っていたのか。詳しく調べたら恐ろしいことが解りそうな……そんな嫌な感じがした。
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突入者全員で探すが、そんな中、カイルさんが言った。
「感知機には何の反応もない。注意してくれ。こんな状況を予想して何か対処されていた可能性はある」
警戒を怠らないようにしながら、緊迫した捜索が続いた。
部屋と部屋の間に何か隠し部屋がないかと見て回った。階段付近と中央の部屋のドアとドアの間に隙間もなさそうだった。奥と中央の部屋の間もそうだった。それは西側も東側も同じ。トイレと階段付近の部屋の間は……と見たが、そこにも隙間はなさそうだった。これも西側と東側で同じだった。
ほかの突入組の中には、駐車場や広場を探索している者もいる。
一階を東側から西側へ歩き、見て回りながら「最後の一人どこにいるんだか」と振り向いた時、ふと違和感を覚えた。
なんでだろうと思い、景色をよく見た。
廊下が見える。上の……二階の廊下とほぼ何も違わない気がする。東側を向いていれば、右手に部屋があって、左手には裏庭が見える窓がある。裏庭に何かあるのかもしれないが……
――……何だ? 何か違和感が……
「ユズト。何か解ったのか?」レケだった。
「……いや」
「なあ。ゲート使いがほかにもいたんじゃないのか?」
「それは……まあ、ここで覚えたって可能性はあるね……でも……そう都合よくあるかな、もし練習中だったのなら、そういう情報も、潜入組が気にしていたはずだよ」
「それもそうか……」
そこへ、イチェウィックさんがやって来た。彼が言う。
「ゲートで出てるって線はないよ。唯一の男がマウル・ドーツで、その辺の話は実は聞いていたんだ。ロープ使いが練習してるかもって話もあったが、結局そいつは捕まえた。まだ捕まえていないのはリーダーだ」
「リーダー」
なるほど一番手こずるのも納得なのかな――と思っていると、そこでまたイチェウィックさんが。
「リーダーの礎術は知ってる。注射器を操る男だ、名前はジピサー・コウォンリッチ。ゲート能力はない。だからおかしいんだ。絶対ここにいる。それで、こっちの油断を待ってる。そのつもりで気を付けて探してくれ」
「イエッサ」
こちらが敬礼すると、イチェウィックさんは西側非常口の方へと歩いていった。
「じゃあ俺も別の部屋を」
「うん。お願い」
レケも別の部屋を捜索しに行った。
僕はというと、違和感についてをまた考えることにした。
――ん? そういえば階段のふくらみがデカ過ぎる……?
階段を一旦踊り場まで行ってみた。そこから一階まで下りつつ距離感を頭の中に図面のように覚えていく。
一階の東階段からやや西に行って振り返って階段のためにできている壁を見ると、奥行きが長過ぎる気がした。
――やっぱり何か変だ。
階段の横まで行って見てみる。物置がある。そして奥に、特に何もない。そこまでの距離感と比べるとここの奥行きはかなり短い。まるで奥に本当はもう少し何かあるかのような……
壁に手を伸ばした。触れた。だけれどそこに何が起こるでもなかった。
「うーん、違うのかな」
礎力を込めてみた。すると白い壁がスッと消えて狭い空間と、右下に下りていく階段が小さく見えた。
――これだ!
進んでみると、白い壁が復活して出られなくなった。それならと、バッジに礎力を込めた。
「こちらユズト、東階段の横に礎力で開く壁がありました、地下へ行ける……進みます」
返事を待たずにすぐに下りていった。急がないと。何かされてしまうかもしれない。
ビーズの入った瓶を手に持って構えたまま、すぐに対応できる体勢で進む。
地下二階まで下りたんじゃないかと思うくらいの距離感。
下りた先、右手に扉があった。扉の上に、緑と赤のプラスチックっぽい板があって、そのうち緑の方では中の何かが光っている、そういう扉。
バーハンドルを掴み、回して開ける。
入った先には、幾つものカーテンがある大広間があった。一つのカーテンが一台の寝台をそれぞれ囲い、天蓋みたいになっていて、それがずらりと……数え切れないほど並んでいる。
ふと、扉の方からピーッと音が鳴った。
ハッと振り向く。よく見ると、扉の上の光っているのが緑から赤に変わっている。あちらから見たら、扉の上に左から緑赤となっていたが、入った側から見たからか、左から赤緑となっていてその赤が光っている……細かいことだが、それが何を意味しているかを考えて、より一層危険を感じた。
警戒しながら辺りを見た。
並ぶ寝台の手前に幾らかスペースがあり、そこを歩いて寝台を見やった。それから何が並んでいるのかと、一つのカーテンを開けてみた。
実際何も乗っていないかもと思ったが――
「え」
それは人だった。感知機でこの人たちの礎力が検知されていない? どうして?
仰向けに並んだ人……人……人……カーテンから覗く度にそれが解るだけだった。
「あの! 起きてください!」
起きなかった。起きる気配すらない。腕にチューブが繋げられていて、栄養を送り込まれているようには一応見える。
男性の胸に、手を当て、心音を確認してみた。
――鼓動してる。生きてる? 生きてるんだ……。なんでこんなことに。
手首に何か手錠やベルトみたいに取り付けられているものがあり、そこからコードらしきものがどこかへ……誰の手首からもどこかへと繋がっているように見える。
「何だこれ……。何なんだ……なんでこんな」
色んな人が寝ているのを見た。ある時ふと、見覚えがある、と思った。
――ん?……あれ……?
頬に二本線みたいな傷。体も大きくて……
――大会で僕が戦った人だ。なんで。
ゾワッとして、隣に寝ている男性のそばに戻った。
よく見ると、レジリア礎術大会の予選で戦った相手……マフラー使いの男性もいる。
――え? なんで……どういう……
名前も思い出せなかった。そのくらい期間も空いているのに、この二人が揃ってここに……なぜ……なんで……なんで……!
奥まで行って見渡したが、そこからはリーダーらしき人物や扉も見えなかった。
入ってきた扉からまっすぐ行った先に扉が見えたのをこの時思い出し、手前に戻ってきた。
――あそこに、こんなことをした奴が、もしかしたら……
沼に浸かった時の不安感と怒りみたいなものが胸に溜まっていた。吐き出したいと思いながら向かった。
その時、横から声がした。
「お前だけか」
ゾクっとした。そちらを向く。
白衣を着た四十歳くらいの男が、寝台を囲うカーテンとカーテンの間を、ゆっくりとこちらに歩いてきていた。
「なんだ、何人もいるかと思えば。やりやすくてありがたいよ」
「これ……何なんだ。あんたここで何してるんだ」
「知りたいか。まあいいだろう、お前はどの道死ぬ」
「どうだか」
「彼らは言ってみれば電池だ」
「は? どういう……」
聞き間違いかと思った。でもどうやら表情からすると本当にそのたとえで合っているらしい。
じゃあどういう意味で言ってるんだと聞こうとしたその時、声が返ってきた。
「礎術道具製造のために礎力を送り続ける! そのためだけの、ソケットに寝た充電池……まさにそれだ! うまいことできていると思わないか? そのために永遠の眠りについてもらった」
「は? 永遠……?」
――そんな。
「この人たちは、目を、覚まさない……のか? ずっと?」
「そうだ。彼らが起きることはもうない。寝たまま礎力を送り続けるだけだ」
――な……んだって……? 二度と起きない? あの時の人……大会の。起きないのか? 誰が何をしても……?
悲しくて怒りが湧いてきた。そうさせた張本人に向けて何か言ってやりたくなって、ビーズの入った瓶を持った手を向けた。
「ここは囲まれてる。逃げても無駄だ。お前は捕まる」
「果たしてそうなるかな?」
笑う男の頭上へと、タイヤくらいの大きさの白いビーズを礎物として出そうとした……が、出なかった。
別のビーズも出ない。瓶から出す瞬間移動もさせられなかった。
焦りと恐怖が、一瞬で脳内を駆け巡った。
「一番してはいけないミスだな!」
男がポケットに手を突っ込んだ状態で、そばに巨大な注射器を浮かせた。
――くそっ! だったら格闘術で!
敵が武器を動かすよりも早く自分が動けばと、早速動き出した。
直後、ビクリとした男が、焦りも余裕も含んだような顔で、針付きの巨大な弾をこちらに飛ばした。
一瞬でしゃがむようにして、いなすように避けようとしてみた。意外とできた。ギリギリではあった。服に擦れるのを感じながら、心臓が軋んだような気さえしながら、息をも止めて――
急接近し、胸元を殴った。そしてその手で白衣の中のシャツの襟を掴み、逆の手で腕を掴んだ。それから振り向くようにして、投げる――
全てはこの背負い次第。とりあえず寝台に男の足でも当たったのかガシャンと音が鳴った。
一応は男の背を床に叩き付けることができた。
注射器が落ちているであろう方向に男の顔を向けさせないよう、顔を床に押さえ付けた。そして後ろ手に腕を引き、動けないようにする。
そして顔を押さえた手を少しだけ離しこの男の白衣のポケットを漁った。
――何だ、何も……
その時、首の裏にチクッとした痛みを感じた。
――そんな。
全てを悟った。そして鈍くなった動きを自覚してすぐ、床が勝手に近付いてきたように感じた。
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階段の厚みに違和感を覚えた俺は連絡を取った。
「――もしかしたらここ何かあるかも」
「解った、向かう」
突入組の全員が一階の階段前に来た。何かスイッチでもないかと探ったがそういったものはどうやらない。
もしやと思い、礎力を込めた。すると壁が消え、右下へと下りていく通路の存在が露わとなった。
「よし」イチェウィックが言った。「俺とレケ、ジリアン、ロロさんの四人で行く。シキティア、ミミカ、ペーターはもしものためにここに」
「了解」
言われて絞り袋を構え、進んだ。扉があって、その上にあるオンエアとオフの表示のような赤と緑のランプのうち、緑だけが光っているのも見えた。恐らく今この扉は開く。
ドアハンドルに手を掛け、開けると、その向こうは広い部屋で、その前後のスペース以外には――中央にはずらりとカーテンに包まれた何かが並んでいた。
「何だここは」
ついそんな言葉を出しつつも奥へと見ていく。扉がもう一つあって、そちらの部屋へと入ってみた。見やると、そこには何やらガラスのカプセルに入った台のような物があった。その上部は管と繋がっていて、その管がこの部屋から外に向かって伸び、出た先の何かと繋がっているようだった。
この部屋の脇に扉があった。それを開けて見やると、どうやら長い通路があるのが見えた。
その時だ、声がした。
「おい! ユズトだ! 倒れてる!」
「リーダーはいない!」
――何だと、じゃあこっちか?
通路を進んでみた。通路はどこかに通じていると思っていたが、何の部屋にも繋がってはいなかった。ドアも見当たらず戻ってみる。戻りながら思った――通路からは大部屋を覗けるだけか、と。
あちらにもいないということは、リーダーは逃げたのか。
イチェウィックたちと広い部屋で合流し、確認した。ユズトだ。寝ている。心臓は動いている。とりあえずホッとする。
「リーダーは……」
「とりあえず運んでやろう」
「あ、ああ、そうですね」
一応は、任務が終わりということになる。俺たちはユズトを抱えてまずはあの階段を戻った。壁が戻っていて出られないが、そこでゲートを作ればいい、と思った……その時だ、ゲートを誰も作れなかった。
「おかしいぞ。この時点で礎術を封じられてるのか」
「境界石ですね」ジリアンがイチェウィックに言った。
代わりに、壁にスイッチのようなものがあった。解り難い所に、ではあったが。それを押すと。
壁がフッと消えた。
危うく出られない所だった……と、外へ出た瞬間、驚いたペーターが駆け寄ってきた。
「ユズト! 何が」
「とりあえず病院……いや警察の医務室でいいか、そこへ運ぼう」イチェウィックが言った。
「それならあっちだ」
ロロさんが指で示した。
イチェウィックのゲートを何度か経由し、道を短縮して警察の医務室へと。運ぶのは簡単で、それから目が覚めるのを待った。
……あとは警察があの敷地を徹底的に調べる。俺たちの仕事は終わりだ。




