048 とある組織との戦い
視界に違和感を覚えた。その原因を見付けるべく視界の記憶と今見えているものを比べた。そして解った。黒い壁の一部が欠けている。
そこから一人の男が出てきた。
こんなこともあるとは思っていた――きっとこの部隊の誰もが。だからこその監視組の配置。
礎力による通信が入った。カイルの声だ。
「誰か外へ出たぞ! 西! ジッケス! ベレス!」
南に停めたトラックの荷台には礎力感知機がある。明らかに、それを見ながらの声。
胸のバッジ型マイクに礎力を込め、伝える。
「見えてる、対処する」
言う前から礎力を込める前動作に入っていた。振りかぶって定規を投げた。それに礎力を込め、巨大化させながら向かわせる。
西へは行かせない。絶対に。その強い気持ちもあってか、男の前に、飛び越えることのできないくらいの高さの、定規の壁ができた。
男は焦り狂ったように辺りを見回した。
そして何かを手のひらから地面に出したように見えた。まるで犬にお手をさせるみたいなポーズだ。
――そうか、サイコロ!
よく見てみると、本当にそれが転がっているのが解った。
礎力を込めて振れば何かできる……のだろうが、そうはさせない。
ズボンのポケットから別の定規を取り、それを操作し向かわせ、ある程度大きくし、上から相手の得物目掛けて――
「両断」
包丁で叩くようにすると、どうやら切断には成功したようだった。
相手はこちらを見て――誰がやったか判らないはずもなく――怒鳴った。
「貴様!」
ただ、こちらへ来ようとしたあとで、彼の言葉は終わった。
白いものが彼の顔を覆った。腕も肩まで上げられ固定され、足も――揃えられ、彼は歩くことをすら封じられた。
胸のバッジ型マイクに礎力を込め、声にした。
「ケナ、ナイス、ついでにゲートで拘束パーカー持ってきて着せてくれ」
「解った」
流れも完璧だった。
ベレスは監視を怠らない、俺も北西の角から東も南も警戒。その間にケナが、拘束パーカーを着せ、礎術を使えなくした上での腕のがんじがらめも済ませると、消しゴムによるゲートを開き、その先へと運んだ。
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ケナが非常時に戦うのは避けたい。やるなら無事がほぼ約束されている時だけ。経験だけはある程度積ませる。
だからやらせた。
常に監視をするのは私でいい。誰かが出てきた時、今度は私が。このスタンスは変えない。
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一階の糸切バサミの女を運んだあとは、次の部屋へと向かった。勢いよく入り「動くな!」と――言ったけれど、そこに人はいなかった。
奥の部屋に向かった。
ドアを瞬間的に開けて急いで入った。けれど、窓が開いていてさっきの部屋より風を感じられるだけで、そこにも人はいなかった。
さっき通信が入って、外の監視による戦いの始まりと終わったあとのやり取りが聞こえた。逃げた一人というのはここから……?
無駄な思考は命取りになる。
首を振って部屋を出た。
慎重に、更に西へ――と行ってから、さっき出た部屋が一番西の部屋だと気付いた。
奥に非常階段らしきものがあるが、そこに人が見えたら外の上から見る監視が気付いているだろう、そっちは無視した。
ついて来ていたイチェウェイックさんと共に、今度は三階へ。
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二階奥の部屋のドアを開け、勢いよく入った。
入ってすぐの所に一人の女がいた。
「抵抗するな! 囲まれてるぞ!」
僕とペーターさんは二人ともが女と距離を取った。攻撃されても対処できるように、その対処が確実になるようにと。
女は手を上げた。
「礎術は使えない。ちょっとした抵抗もしない」
「…素直だなぁ、頭の回転も速そうだし、なんでこんな所で働いてるんだ」
ペーターさんがつい言ったみたいだった。
女は手を上げたまま。
「いたい場所から弾かれたのよ。それにバレると思ってたらこんなことやってない」
その意識がまず間違っている。
「ここに関わって素直に生きていけなかった生き物がいる、犠牲になってる存在がある、それでもそんなこと言うのか」僕は言葉を抑えられなかった。「その技術があるなら何かはできるでしょ、それをやりましょうよ」
「だからいたい場所からは――」
「じゃあ探しましょうよ!」つい熱が入った。「難しいかもしれないけど、どこか……どこかで……あなたが真っ当にできることが……」
女性にそう言いながら、彼女へのビーズでの拘束は……しなかった。ペーターさんが拘束パーカーを手渡すと、彼女は自ら着た。
「青いね」女性は言った。「でも……それもいいのかもしれないね、私も恋しくなった、そういう世界が」
暗くない世界に、誰もがいられればそれはいいことなんじゃないかと、僕は思った。
キボラさんたちの元へと――黒いビーズのゲートで繋げると、彼女を運んだ。
奥の部屋は彼女だけだったので、ペーターさんが一着の拘束パーカーを持って戻ってくると、部屋を出、四階へ向かった。
階段を上がっていくのも一応距離を取りながら、遠回りに、見えてくる場所に注意した。
そんな踊り場に来た時だ。
壁からスッと一人の男が来た。肩からバッグを提げた男。何かの書類を見ながらこちらに下りてくる。
――ホワイト。
礎物としてヘルメットくらいの大きさの白いビーズを生み出し、彼の頭部に向かわせる。いつも通り顔に通し、念じた。
――ゼロビジビリティ。
男はクリップでひと纏まりになった数枚の書類をバサッと落とし、ほんの一秒間だけ多方に顔を向けると、叫んだ。
「そっちだろ多分!」
こちらに向けて――踊り場の方に向けて――音叉が飛んできた。
男がバッグを持っているから、そこから出したかもしれないので、それが礎物かどうかは微妙。どんな力が。ただ大きくするだけか? 危険は未知数。
それだけのことを一瞬考えて、放った。
――シャタリング・グレー!
「粉を避けて」
ペーターさんにあらかじめ言っておいた。
巨大な灰色のビーズが大きな口を開け、僕らの前に。そこを通った音叉は粉々になり辺りに散った。
目をつぶるのは危険だからしゃがんでその粉を避けた。さっきのはそのための発言。ペーターさんは踊り場と四階の間の中腹の左下に、僕は右下に避けた。
完全な無力化はまだだ。
黒いビーズを無から生み出しゲート化させた。それを向かわせ男のバッグを通し、脇下の高さで止め、ゲート化を解除。するとベルトが切れ、自分たちの後ろに指定しておいたゲート先の床に、ベルトの下部とバッグが落ちた。
彼のそのバッグを漁ると、音叉がもう一つ入っていた。
礎物まで操るかもしれない。もしそうならと、さっき使ったシャタリング・グレーを彼の真上に移動させ、そこに待機させた。
「包囲されてる、抵抗するな」
言いつつ、男の腕と胴と足をビーズでその場に固定した。
ペーターさんが近付かずに折り紙で拘束パーカーを着せていく。
「く――」
男は叫ぼうとしたかもしれない。が、その口に折り紙が貼り付いた。
もがく彼が音叉を出さなかった。恐らく礎物化させられないんだろう。
完全に着せられた男を、新たに作った黒いビーズのゲートを通し、荷台に運んだ。そしてペーターさんが新たな拘束パーカーを持って戻ってきた。
よし。と、頷いてから、四階の捜索開始だ。
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この部屋の外が騒がしい。こんな時はいつも南の空を見る。また下手をこいた者や裏切り者の処刑か? などと思い、その声などを聴かないフリして和むところだが、南の窓の向こうを今見て気付いたのは、空が青いことと、黒い何かに囲まれているということだった。
――ああ、ここは終わったな。隙を見て逃げないと……素直に部屋をドアから出るのは微妙だな。
窓を開け、空を眺めているだけを装った。まずは様子見だ。
見える壁の上に足場みたいなものがある。それらの上から監視でもされているとしたら、まずその隙を突かなければ。
ただ、攻撃はされない。なぜ、と考えて一つの答えが浮かんだ。
――囲ってる部隊と入ってきてる部隊があるな、多分。くぅぅ……どうする……隙を突くんだ、隙を……
考えて次に浮かんだのは『足場の真下』というワードだった。
監視者が上にいるとしたら、彼らが考えているのは、『飛んで逃げることだけは絶対阻止』ということだろう、多分。だったらと、薬品管理に戻るフリを一旦少しだけして、一瞬のうちに……と、窓から飛び降りた。
指輪を操った。巨大化させ自分の足場にし、駐車場横にある植木の陰に隠れた。踏み外せば三階から落下するところだったが、うまくいった。ほっとする。
これが一瞬のことで誰にも見られていなければいい。そう思いながら入口付近へと向かった。突入されていたら、今は逆に入口が一番誰もいないポイントなんじゃないか?
――あとはあの丸い足場のようなやつの下へ……
機をうかがった。このままでは自分が確実に逃げれるかは判らない。だがもし上に本当に監視者がいて、もし彼らが何か別のことに気を取られていたら……? そんな機をうかがった。
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階段を上がる際、遠回りせず壁を背にして隠れながら一気に突破を試みた。逆に遠回りして常に気を配りながら踊り場を回る者もいるだろうが……一気に踊り場から先が見えても、そこに人がいなかった。
少し行き左右を見る。右手はトイレ。廊下には人がいない。
左手に部屋が三つ、二階にもあるはずで、この三階の、階段から一つ目の部屋のドアの前へと忍び足で向かった。
シキティアに目を向け三からカウントした。ゼロを口にした瞬間、ドアをスライド――
勢いよく入ると、部屋の中に一人の影。女の姿だ。
「動くな、周りは包囲してるぞ、大人しく捕まった方が」
こちらの言葉が途切れたのは、女がフルーツを入れるような竹の籠を放ったからだった。
それが大きくなりこちらを包み込んでしまおうとする。
絞り袋を盾にして防御すると、その籠をぐるりと袋で包み、左へ払った。
「え」
女の意外そうな声。
「抵抗するな、どうせ逃げられない」
「く、くそぉっ」
女は悔しがった。ただ、完全に無抵抗でいてもらいたい。
「すまんが目は塞いでもらうぞ」
「…?」
女の頬骨から上を狙い、放った。アドソーベイトクリーム。
女の顔にクリームが勢いよく付き、女の視界を闇へと変える。これがどうもがいても取れない――俺が礎力を込めている間は。
彼女の腕を絞り袋で縛り上げ、抵抗しない所へシキティアが拘束パーカーを着せていった。
一瞬この状況が冗談のように思えたが、それはさて置き。
着せ終わったら、色紙のゲートで南のトラックの荷台――カイルの所へ。
そこから拘束パーカーを一着持って戻ってきたシキティアと共に、この部屋を出た。
次は三階東側の真ん中の部屋。忍び足で向かった。
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トイレから部屋に戻ってきたが、指輪を操るハルメディ・ヒュワとかいう先輩がいない。
ここで作られた薬品『アール・エイト』の質検査と管理を自分だけでやれということか――どこへ行ったヒュワ先輩……
やれやれと思いながらテーブルに着き、そばにフラスコがあるのを見て、微妙にそわそわした。
――まさか。いや、そんなまさかな。
ふう、と嘆息して窓の方を見た。
――何だあの黒い……うー……何だ?……壁、か?……どういうことだあのバカでかさは!
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西側、一階から三階まで来るまでの間に誰にも遭遇しなかった。
廊下を左右に見てからイチェウィックさんと目を合わせた。うん、と頷かれすぐそこの部屋を指差された。
ドア横に移動。深呼吸してからドアを勢いよく開け、迅速に入った。
「動くな!」
言ってすぐに、目の前にいる男の考えていることが微妙に解った気がした。
「抵抗しないでいてくれたらあなたも怪我を――」
言っている途中で男がこちらに振り向きフラスコを投げた。
その程度ならとポーチからリップスティックの実物を呼び出し手くらいの大きさにして目の前に浮かせた。このくらいの防御で割ればどうとでもなる。
だけれどその時、目の前に、白い壁が急に現れた。イチェウィックさんが印鑑を操作して巨大化させたものだとはすぐに解ったけれど……これでは何も見えない。
一瞬あとで「くっ」と声が聞こえた。多分イチェウィックさんの声。
壁が小さくなり空中でよく知った形になりそれが持ち主の手に漂い戻ってから、何が起こったのかとよく観察してみた。
――フラスコを投げた男が伸びている。
「ちょっと……生きてるんですか?」
「……見ろ、息はしてる、さっさと運ぼ……うっ」
イチェウィックさんは腕を抱えた。どうしたのかと見やると、何かを数滴浴びたようだと判った。
「酸……ッ?」
そうか私を守ろうとして跳ねたフラスコ内の液体が。
「あいつ、Sサイズ容量拡大バッグを持ってた。俺が壁を建てたあとこちらにフラスコを……幾つも投げやがったんだ。自分のせいだとか気にするなよ、最初は……うっ、そんなもんだ。今後やるべきは相手の所持品を全力で遠ざけること……くっ……そのため……速やかに。ただよく見て油断するなよってだけだ……くっ……」
苦しみながらも助言。助かるけれど……。礎術による特殊な液体なら手遅れの可能性もある。
「私じゃ浸食を早送り……ケナの所へ!」
私がそう言うと、南西の監視地点へと、イチェウィックさんがゲートを繋いだ。
交差点に向かって出ると、何が起こるのか解っていたようで、ベレスから声が。
「どうしたんですか?」
「イチェウィックさんが腕に何か浴びたの。少し前の腕に戻してほしくて」
「解った」
ケナが消しゴムを礎物化させ、イチェウィックさんの腕に向けた。礎力を込めたのだろう、みるみるうちに……若干赤かったのが健康的な薄いベージュの肌に。
「ありがとう」本人は感謝するとすぐに。「戻るぞ」
「イェッサ」
私がそう言うと、彼の前に角寸胴の印鑑が大きく出現し、その一面がゲート化した。それを通って三階、フラスコ男の部屋へと戻った。
男は逃げてはいなかったし、本当に気絶しているようだった。
ほっとする。まあ、もし逃げていても、問題はない、少し面倒なだけ。
男に拘束パーカーを着せゲートで南の荷台に運ぶと、イチェウィックさんが新しい拘束パーカーを持ってきた。
さあ、次は、三階西側真ん中の部屋。
そっとドアを開け、部屋から廊下をうかがい、誰もいないと解ってから廊下に出た。
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いつもと違う騒がしさを感じた。違和感がある。こんな時はドーツに連絡を――と思っていたが、何度掛けても繋がらない。
ケータイをポケットに戻し廊下に顔を出したが、廊下には異常はない。だが隣室からは何やら割れる音や話し声が聞こえた。その内容によると――
――もうこんな所は去るべきらしいな。
部屋に戻った。
小さ過ぎないハンドバッグをいつも持ち歩いている。その中からガムテープを取り出すと、窓を開けた。
ガムテープを前に掲げ礎力を込め、巨大化させた。タイヤの中にすっぽりとはまるようにそれに乗ると、窓の外へ。一気に南へと向かった。
左右どちらかに行く選択肢はなかった。曲がるのには慎重さが必要で時間が掛かる、その隙を突かれるのも困る……そして、ずっと加速したかった。
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何かが飛んできた。茶色い物体。
「南! 対処する!」
南西のニヴルさんと建物中央からほぼ真南の私――の間を、一直線に加速しながら飛んできたそれには、人が乗っている……とすぐに解った。まあ解らなくても何とかすべきではあった。
その『彼』の目の前に、今、大きな壁が立ちはだかった。ニヴルさんが石粉粘土で自作したというブローチを映画館のスクリーンばりに大きくしたからだった。
急ブレーキを掛けた男の靴に礎力を込めた。ユズトが言うように最短距離を意識し高密度に……散らばらないように……
すると、得物――恐らくガムテープ――の上から、男の足は、靴ごと磁石に引っ張られたような動きを見せた、つまり、ずれて下へ落ちるようなもの。私がそうさせると、男は、巨大化したガムテープの縁を必死に掴んだ。
落ちないようにする彼を落としてクッション化した靴で受け取り、ガムテープに関しては遠くへやる……それでだいたいの無力化はできるかもしれない……と思ったその時だった。
ガムテープから切り取られたような短い何かが飛んできて、私の足に絡まった。そして引っ張られた。
あまりに急なことだった。
豪快に空に投げ出されて、足の自由も利かず――
――とにかく靴を!
それさえ操れれば、と思った時だった。絡まっていた何かが外れた。代わりに、それが私から靴を奪った。
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――どうせ靴だ。そういう力の掛かり方だった。ビンゴだろ?
そう思ってすぐ、右の男に視線を移した。厄介なのは、あとはあの男くらいだ。
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足裏に風が……靴下越しに当たる。
落下するのが解った。
これを皮肉だと感じる中で、走馬灯が浮かんだ。
強盗の現場に偶然いて人質の一人になり、ジオガードに助けられた思い出。
――落ちる。
受かったことも。そして最近はより礎術を使えるようになってみんなと喜んでいたことも。
――止められない。
「助けて誰か!」
空と草地が視界の中でぐるぐると回る。それらを見ながら胸元に礎力を込めながらでは、それしか言えなかった。
直後聞こえた。
「ソラが落下! 救護頼む!」
ニヴルさんの声だった。
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四階一つ目の部屋に来た時、室内に誰もいないことが解ってから、ソラさんの緊急事態を耳にした。
急いで窓に近付いた。
いつかのベレスを思い出した。でもあの時のようには行きそうにない、もうかなりの速度……!
とっさに出現させた。ゲート化した黒いビーズ。床に設置した。床を見れば南の草地が見える。
――助かれ、頼む……!
ゲーティング・ブラックを通して向かわせた幾つものビーズ。それらでゲートを作って落下の縦の動きから横の動きにできればそれでもいいが、それで何かに激しくぶつかる可能性はあった。瞬時に、それだけは避けるべきだと直感した。
向かわせた幾つものビーズで滑らかな坂を作れないかと、幾つも重ねた。幾つものビーズを穴もなくなるほど広く……一つ一つを薄く大きくし、あまりにも広大な滑り台にでもなればと。
だがそれへの当たり所が少し悪くても大怪我に繋がる。
――これだけじゃ……!
「ゲートを維持して!」
ペーターさんがそう言った。ゲートを作ってからここまでで、約二秒――
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Sサイズ容量拡大バッグをポケットに忍ばせていた俺は、幾百、幾千の折り紙をそこから呼び出し、ユズトのゲートを通して一気に向かわせた。これができるようになったのはユズトから礎力の込め方を聞いてからだが……できてよかったという安堵の時間も今は惜しい。とにかく向かわせたそれらをゲート越しに見て操り、紙がクッションにならないかと……何度もソラに纏わせた。
ズボッと紙の渦に落ちたソラに追い付くようにまた下へ……何度もそうさせると少しは落下速度が下がったようだった。
そして坂にもうすぐ到達。
襟のマイクに念じた。
「頭をかばえ!」
こちらの声を合図にソラが縮こまったのであろう動きが――この距離だが――少しだけ解った。これがどこまで正しい認識かは微妙だが。
ユズトの作った坂にも折った紙を設置していた。そうして山のようになった紙の部分に落ち、転がり始めた。
なんとか無事なようだった。だが。
その先までは予想していなかった。
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『ソラが落ちた! 救助頼む!』とは言ったが、自分にはそれができないという訳でもなかった。自らもブローチを向かわせた。
ただ、男はこちらに向かってきた。
ギリギリまで男への対処を遅らせる代わりに、ビーズと紙の滑り台を転がっていったソラの先へ……
先にはベンチがあった。そこに激しく当たらないように、向かわせたブローチでクッションに。
男は目の前に来た。そしてガムテープを飛ばしてきた。
「散弾!」
幾つかのブローチをバッグから出し、それらを放った。男のガムテープ本体から切り離されて飛んできた数枚を遠くへと押しやった。
男は、それらへの操作をやめたのか、自身がガムテープにさっきのようにしっかり乗った状態になってから、新たな数枚を辺りに浮かせた。
「ソラの空いた所へ誰か」
胸元のバッジ型マイクに礎力を込めてそう言った。すると、
「サンタディオが行く、テイバー、ヴィスリー、カバー頼む」
「了解」
「了解」
と聞こえてから、タディオがソラのいた所へ来たのが見えた。
視界の端に、中々の速度で既に転がり終わって動かないソラが見えた。もう止まっているように見える。クッション化したブローチのおかげで無事なはず……あれがちゃんとクッションたり得ていれば。それへと礎力を込めるのを、今やめた。
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「僕はちょっとソラさんを護衛する」
「ああ、それがいい。俺はここにいる」
頷き合って、ゲートの先に向かった。そして草地にまで降りて二十メートル以上は離れたベンチの近くまで、大きなビーズに乗って向かうと……そこに、頭を抱えたソラさんがいた。……動かない。
「ソ……ソラさん……?」
まさか。そんなまさか。
確かに起こりうる。どんなに守ろうとしても、あの状況からなら、ショック死してしまうことだってありえそうで――
「ソラさん!」
駆け寄った。そしてその手を取って顔を確認した。
「死ぬかと思った」
「死んだかと思った!」
声を聞けてよかった――そう思った瞬間の僕の顔は、くしゃっとしていたに違いない。握った手も震えた。
一応全員に報告。そのため胸のバッジに礎力を込めた。
「ソラさん無事です、一応護衛します、靴を取り戻すまで」
きっと、それにはそんなに時間も掛からない。
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自分の監視地点から、フリスビーを手に持ったまま、私はただ見届けていた。
既に展開していく色んな物がそこにある、そんな中で、何かやるのが邪魔になるのではないかと思ったから見届けることしかできず、そして……
――よかった、生きてる……!
そう思えたからこそ集中できる。
怒りでフリスビーを操った。どうせ落ちるならそれはお前であればよかったんだと思いながら……気持ちをぶつけるように。
思いっ切り横から当てた。
急に現れたこれによって、男はニヴルさんの建てたブローチの大壁にぶち当たった。
「ソラにあんなことするからだ」
誰にも届けない言葉のあとで、ニヴルさんの声が聞こえた。
「助かった、フィンブリィ、ナイス」
フリスビーに押しやられてブローチの壁に衝突した瞬間、男はガムテープの輪の下端の上から弾き出された。礎力を込める余裕もなくなったらしく、離れた状態でガムテープが小さくなり始め、落下もし始めた。
男も落下していく。
そこへ、黒い半透明なケースが人間数人を入れられるプラスチックの箱のようになって浮き、男を受け止めた。タディオさんの小物入れだ。
ガムテープも、空中で、いつの間にか同じ形の別の小物入れで受け止められていて、そしてそれは駐車場の上空へと浮いた。そして見えなくなった。小物入れの中の物が、中を覗かない限り見えなくなる……見えなくさせることができる礎術……それがタディオさんの力。潜入調査向きと言われる由縁。
「くそっ!」
男が声を上げ、小物入れの縁を叩いた。そこへブローチが飛んだ。
アゴに一発当てはしたが、それだけでなく大量に降り注いだせいか、男は声もなく沈んだ。
動かなくなった男は小物入れごとタディオさんの元へ行き、小物入れから出された。
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当たり前にこちらにも聞こえていたからソラの監視位置にイチェウィックさんがゲートを繋いだ。
そこから無事そうだと確認した時、言われた。
「ちょうどいい、こいつを頼む」
「解った」――イチェウィックさんがタディオさんに言った。
カイルとキボラの所へ男を送り、それから三階に戻った。
さっき見た部屋は空室だった。さっきみたいな逃げた組織員はあんな部屋にいたのかもと思いつつ、手にリップスティックを持ち、警戒を緩めず一番西の部屋へと向かった。




